第45話 最終競技
俺は寮に戻り具体的にどうやって勝てばいいのか、考えていた。
陣取りは競技の説明を聞く限り、そう簡単に勝てそうにない。
俺の強みが、かなり減ってしまうからだ。
アリスと俺は他の学院の生徒たちを凌駕するほど、魔法が使えるが、他の者たちをカバーしきれるのは、競技の性質上不可能だ。
何らかの策を持って挑まなくては、敗北は必至。
負けることはぜったいにできない。
では、どんな策を持って挑むべきか。
俺は考えて1ついい策を思いついた。
この競技は魔法の力量がかなり大事ではあるが、それだけで全てが決まるわけではない。
身体能力も結構重要となってくる。
そこそこ広いフィールドを動き回って、陣を取っていく競技なので、足の速さ持久力が問われる。
さらに敵が撃ってくる魔法を、身体能力が高いと回避しやすくなる。
そのため身体能力も重要となる。
しかし、アルバレス魔法学院の生徒は、魔法が下手からといって、身体能力が高いというわけではない。
ほかとくらべて、普通といった感じである。
ミルドレスは勉強をかなりやる学院なので、身体能力が低いものが多い。なので、ミルドレスよりかは、アルバレスのほうが身体能力が高いものが多いが、ハルレーンと比べると少ないくらいだ。
俺の浮かんだ策はフィジカルアップの魔法を事前にかけた状態で、競技を行えばいいのではないかという策だ。
フィジカルアップの魔法は一度かければ3時間くらい持続可能だ。ちなみ俺が今まで使っていたのは簡易版なため、効果時間が短くなっている。本来はもっと長い。
指定された魔法以外は使ってはいけないというルールがあった。事前に支援系の魔法、マジックアップなどを使用して行ったら、調べられて強制的に解かれると思う。
しかし、フィジカルアップのようにこの世界ではまだ開発されていない魔法ならどうだ?
魔法がかかっているかどうかというのは、案外わかりづらい。
見破る用の魔法があるのだが、その魔法の仕組みからいって、知られていない魔法がかかっているかどうかを見破るのは不可能に思えた。
競技中にフィジカルアップをかけるのはダメだろうが、事前にかけていればやはりバレる可能性はゼロに近いと思う。
正直、反則技だが、今回ばかりは綺麗事を言ってられない。ミナを救えるかどうかがかかっている試合だからな。
ただ問題がもう1つだけある。
俺だけが使っても、それで勝てるかどうか不安が残るという点だ。
全員にかけたら流石に怪しまれるので、やめるべきだが参戦する生徒の中から十人くらいかけたい。
十人にかければ高確率で勝利できるだろう。
しかし、魔法を使うには当然その説明をする必要があるわけで……
フィジカルアップは世界的に知られれば、かなり反響を呼ぶであろう画期的な魔法である。
なるべく、俺の知っている魔法の知識で世界を変えたくはない俺としては、教えたくない魔法ではあるが……
仕方ない。今回ばかりは覚悟を決めよう。
なるべく口が固そうなものに魔法を使うが、全員が全員信用できるわけではないので、そこはもう賭けになるな。
まあ、アリスとクルツは喋らないと自信を持って言えるけど。
とにかくその作戦でいこう。明日までに誰に教えるか考えておかないとな。
俺は誰にするかを考えた後、眠りについた。
○
翌日。
競技は昼から行われる。
ただ、朝は予行練習が行われるらしく、実際に競技を行うフィールドまで足を運んで、魔法の使用の確認を行っていた。
ちなむにフィールドの感じは、まず地面に四角いマスが書かれている。魔法を当てるとこのマスが変色するようになっている。魔法を地面にあてると、魔法が直撃したマスから周りの8マスが同時に変色する。一度の魔法で9マス変色させることができるみたいだ。
フィールドには遮蔽物があったり、中央にタワーが置いてあったりする。あのタワーを奪取した学院が、有利に試合をできそうだな。
「あの高所を取れば有利にいけそうだね」
クルツも同じことを思ったのかそう呟く。
まあ、あれを見たら誰だってそう思うだろうから、他の学院も積極的に狙ってくるだろう。
あそこは俺が取りに行って、キープしておく必要があるだろうな。
そして、確認を終えて昼になる。昼飯を食べて2時間後に競技は開始される。
俺は競技に参加する生徒から、10人集めて、フィジカルアップの説明をすることにした。
他の生徒たちにバレてはいけないので、こっそりと人気ない場所に集めて説明した。
その場にはクルツとアリスもいる。
「ルドなんだい? 大事な話って」
「陣取りにどうしても俺は勝ちたい理由ができたんだ。だから絶対に負けないようにできる方法を考えた」
俺がそういうとその場にいた生徒たちはすこし驚いてざわつく。
「まあルドならそのくらいのことやってみそうですから、私は驚きませんけど。その方法はどんな方法ですの?」
アリスが若干呆れたような表情で尋ねてきた。
「正直、反則気味な行為ではあると思うんだけど……」
俺はフィジカルアップの魔法を使うという作戦を話した。
その話を聞いてかなり驚いているようだ。
「ルドがあんだけ動けてたのって、魔法のおかげだったの?」
以前、不良を叩きのめした際、俺の身体能力を目撃しているクルツがそう尋ねてきた。
「そうなる。魔法使っていない俺は、たいして動けないよ」
「そうだったんだ……でも、赤化と防御魔法以外は使用不可能って話だけど」
「事前にかけておけば問題ない。試合終了時刻まで持たせることができるだろう」
「でも普通調べてこない?」
「フィジカルアップは俺以外で知っているものはいないであろう魔法だ。バレることはまず間違い無くない」
「そうなんだ……」
俺は説明した後、付け加えて、
「フィジカルアップという魔法の存在は、ここだけの秘密にしてほしい。この魔法の存在が世間に知られることを俺は避けたいんだ」
「どうして?」
「この魔法をルド君発見したと大々的に発表したら、有名人になれるよ」
と生徒たちから質問が飛ぶ。
「俺が発見したわけではないんだ……その魔法を教えてくれた人からなるべく秘密にしてくれと、頼まれているんだ」
俺は咄嗟に嘘をついた。
嘘をついたが怪しんで来るものは、誰もいないようで、
「そうなんだー」
「まあ、ルドがそういうなら、いう通りにしてやるかー」
とみんな秘密を守ってくるととりあえずは言ってくれた。
「そういえば、なんで全員に教えないの?」
クルツが尋ねてきた。
「三十人が全員すごい身体能力で動いたら、さすがに怪しまれるだろ。十人でもおかしいなとは思われそうだし」
「それもそうだね」
俺の説明にクルツは納得した。
「じゃあ、試合開始の十分前になったら、魔法はかける。あとは、他のみんなと一緒に競技自体の作戦を立てよう」
そう言って、一旦他のみんながいる場所まで戻る。
戻っている途中、
「ルドがどうしても勝ちたい理由とは、ミルドレスの青髪の女子生徒のためですの?」
いきなりアリスが俺に尋ねてきた。
「ど、どうして?」
「ルドが彼女をチラチラと見ていたのは、よく分かりますわ。舐めないでください女の勘を」
恐るべし女の勘。
「……彼女は俺の友達なんだ。それがミルドレスで酷い目に遭っているって聞いて、放っておけなくてさ」
「酷い目ですか……ルドがいうなら間違った行動ではないのでしょう」
アリスはそう言ったが、
「でも、不安なのです。ルドは誰よりも素敵な男性ですから、他の女に取られないかって……」
「そ、そんなことないよ。ミナはただの友達だし、それに別に俺そんなにモテないし」
「……じゃあ、ここでキスしてください」
「え!?」
「出来ないのですか?」
「いや、だって他のみんな……」
はいなかった。もうすでに戻っていたみたいだ。この場には俺とアリス二人だけだった。
「……キス……してくれません?」
ど、どうしよう。競技の前だってのにキスなんかして。
俺も別にキスをしたくないというわけではない。
アリスが求めてくるというのなら……
「わかった」
俺はアリスの肩を抱きアリスの唇に自分の唇を合わせた。
柔らかい幸せな感触が俺の唇に伝わる。
数秒して唇を離すと、
「これ以上のキスしませんか?」
とアリスが誘ってきた。
これ以上、これ以上ってなんだ?
もしかしてディープキスか?
「そ、それは俺たちにはまだ早いんじゃないかな……?」
「したくないんですの?」
「い、いやそうじゃないけど……! めっちゃしたいけど!」
「じゃあ、いいじゃありませんか」
う……仕方ない。こうなればもうやけだ。
俺は再びアリスの唇に自分の唇を重ねる。その後、舌を出す。アリスもそれに応じてきた。俺とアリスの舌が絡みあう。
なんだかすげー幸せな感じがする。頭の中が蕩けそうになる。顔が熱くなって来て、だんだん理性が外れて来そうになる。
……このまま最後まで……
俺はそうおもい、アリスを押し倒そうとしたところで、なんとか理性を取り戻し、思いとどまった。
さすがにこの場所、状況でそれはまずい。
俺は口を離す。
「あ……ルド」
アリスが名残惜しそうにそう言った。
彼女の顔は真っ赤に染まっている。非常に色っぽい表情をしている。
その顔を見ていると、再び理性のタガが外れそうになるが、なんとか堪える。
「こ、これ以上はさすがにダメだよ」
「そ、そうですわね。ここではダメですわね」
こ、こでは?
まるで戻ったらいいとでも言いたいような言い方だ。
「戻りましょうか」
「う、うん」
俺はミナを助けるために戦いをする前だというのに、少し悶々とした気分になりながら、ほかの生徒たちがいる場所へと戻った。