第44話 誓い
「やめろ!」
俺はミナがいじめられている姿を見た瞬間、そう叫んで飛び出した。
「なに?」「こいつ」「例の黒髪の奴だ」
俺の姿を見て、ミルドレスの女子生徒が俺を睨みつけてきた。
女子生徒は三人、地面に伏すミナを踏んだり蹴ったりしていたようだ。ミナは涙を流し、震えながら地面に伏している。
「ミナに暴力を振るうのを今すぐやめろ」
「はぁ? 消えろ出来損ない。私はあんたもボコボコにしてやりたいくらいなんだけど、今消えたらこいつだけで、我慢してやるよ」
傲慢な表情でその女は言った。かなり気の強そうな女だ。恐らくこいつがミナをいじめている奴らの、リーダー的存在なのだろう。
「ボコボコにしてやりたいのは、こっちのセリフだ。怪我したくなければ、早くどこかに消え去りやがれ。すぐに消え去ったら許してやるが、消え去らないなら女といえども容赦はしない」
俺は女子生徒たちを睨みつけながらそう言った。
女子生徒達は俺に睨みつけられて、「う……」といいながら怯んでいるようだ。
「あんた調子に乗るんじゃないわよ。フォルス君に勝ったからって、何? どうせまぐれでしょ。こっちは3人いるから絶対に負けないわよ」
リーダーの女が俺をにらみ返しながら言ってきた。
その後、呪文を唱えようとする。戦う気か。
俺は身体能力を強化する魔法フィジカルアップを使う。無詠唱で使い、その後、素早く動いて女子生徒首の辺りを掴む。掴むときそれほど力は込めない。
「!?」
「動くな。喋るな」
「は、離しなさい! 私を誰だと」
そう叫んだ瞬間、俺は首を絞める力を僅かに強めた。
「一応言っておくが、俺はかなりキレている。これ以上、俺をイラつかせるような態度をとったら、たがが外れてしまうかも知れん」
俺は女子生徒を威圧するようにそう言った。
「ご、ごめ……ごめんなさい」
その女子生徒は涙を流しながら、謝ってきた。
「俺にじゃなく、ミナに謝りやがれ」
俺は首から手を離して、今度は女子生徒の頭を掴んだ。
その後、強引に膝をつかせて、ミナに謝罪をさせた。
「お前らも謝れ!」
横で見ていた女子生徒2人にも、俺は脅すように言った。
2人は「ひ、ひぃ!」と怯えたような声を上げて、ミナに謝罪をした。
「じゃあ、さっさと消えろ。ミナをもう一度いじめたらただじゃおかないということは、覚えておけよ」
俺はそう言った。女子生徒達はそそくさと、その場から立ち去っていった。
「ミナ、大丈夫か!?」
奴らが去ったが、ミナは気付いていないのか、まだうずくまって「ごめんなさい、ごめんなさい」と早口で呟いていた。
俺はミナにに近き、肩に触りながら、
「ミナ! 大丈夫か!?」
そう確認するように叫んだ。
「ごめんな……え?」
ミナは声を出していたのが、俺だと気付いたみたいだ。
その後顔を上げて、俺の顔を見る。
「ルド……君?」
ミナは信じられないものを見たかのような、そんな表情を浮かべる。
「あいつらはもう追い払った。ミナを傷つけるやつらは俺が追い払った! 安心するんだ!」
俺は力を込めてそう言った。
すると、ミナの目から堰が切れたように、涙が溢れ出してきて、
「ルド君……ルド君……!」
俺の存在を確かめるように言い続けた。
その後、ミナが泣き止むまで、俺は彼女の肩を抱いて慰めた。
しばらく経って、ミナはだいぶ落ち着いてきたようだ。
「ごめんね情けないところ見せちゃって」
ミナは申し訳なさそうな表情で謝ってきた。
「謝るなよ。俺とミナは友達だろ。友達が困っているときは助け合うのが、普通だろ」
「友達か……」
ミナは少し切なげに微笑みながら呟いた。
「フォルスから聞いたんだ。俺がいなくなった後、ミルドレスでは前にも増して、黒髪を排他するようになったって。そして、そのせいでミナがいじめられるようになったって」
「聞いたの…………」
「なんで話してくれなかったんだ?」
「ルド君に迷惑がかかると思ったから……」
「迷惑なんてかからないよ。さっきも言った通り俺たちは友達だ。ミナが辛い目に遭っていると俺も辛いんだ」
「ルド君……」
ミナは少し目を潤ませる。
「ミナ。ミルドレスぐるみで君をいじめてくるというのなら、簡単に解決はしないだろう。俺はアルバレスにミナが転入するのが1番いいと思っている」
「転入か……ごめんできないの」
「なんでだ?」
「私のお父様は、黒髪の私が魔法使いになることに反対していたの。それでなんとか説得して、ミルドレスレベルの学院に通えるのなら、許してやろうと条件をつけられたの。だから編入はできないの」
「じゃあ、どうするんだ? このままミルドレスにずっといるのか?」
「……もうやめようかなって、考えているの」
「そ、それはダメだ。だってミナはあんなに賢者になりたいって言ってたじゃないか」
ミナの賢者を目指す思いはかなり強かった。
普通は黒髪という時点で賢者になると言う夢など、絶たれたも同然なのだが、それでも諦めずに目指し続けるものは、誰よりも賢者というものに強い憧れを抱いているからだ。
俺も、ミナもそうだった。
「そうだ。この合宿の結果は結構外でも注目されているんだ。だから、この合宿でアルバレスがミルドレスに総合ポイントで勝利すれば、編入を認めてくれるかもしれない。ミルドレスじゃないとそれ以外は全部ダメというわけではないんだろ?」
「そ、そうだけど……説得できるかな……ルド君の言う通り、合宿は学院の格付けにも影響するし……」
「とにかくそれでいこう。俺たちは絶対ミルドレスに勝つから……あ、でもミナが出ていれば、ミナとも戦うことに……」
「大丈夫、私は選ばれてないから」
「そうか」
とにかく方針は決まった。
最終競技でミルドレスより絶対上の順位になる。そうすれば総合でもミルドレスを上回った状態で終えることができる。
簡単ではないが、なんとかする。
「最終競技は絶対にミルドレスに勝つから。信じて見ていてくれ」
「うん……!」
俺が絶対に勝つと誓った後、俺とミナはそれぞれ寮に戻った。