第43話 ミナの事情
夕食はいつも通り、アリス、クルツ達と一緒に食べた。
少し俺の表情が強張っているからか、アリスにはどうしたの? と心配されてしまった。
あまりアリスに心配をかけてはいけない。俺は笑って何でもないと言い返した。
その後、夕食が終わり、大勢の人間からフォルスを探し出した。
「フォルス」
「う……」
俺の顔を見た瞬間、フォルスは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
俺に負けたことがかなりショックだったようだ。
「何だ。僕を笑いに来たのか……」
「約束しただろ、忘れたのか?」
「……ああ、あれか。彼女が何故、髪を青く染めているかその理由を聞きたいと、君は言っていたな」
「教えるんだ」
「あれは、ミルドレスという高等な学校に、黒髪などという下等な存在がいるということを、ほかの学院に知られない為に行っている措置だよ」
「何?」
俺はフォルスが一瞬何を言っているのか理解できなかった。
「ミルドレスが黒髪を取っていることなんて、知られている事だろう。隠す必要が何処にある。ミルドレスは黒髪の者でも豊富な知識量があれば、立派な魔法使いになれると言っていたじゃないか」
「ああ、それがね。君がこの学院から退学になる少し前くらいにかな。ミルドレスの学院長が変更になってね。その影響でだいぶ学院の方針に変更があったんだ」
「なに?」
初耳だ。学院長が変わって方針が変わっただって?
「元々黒髪をそこまで蔑まないようにって感じだったのが、学院長先生が変わってから、黒髪は下等な人間という教えになってね。たぶん君はその影響で退学になったと思うよ。成績が優秀なハーライトさんは、退学にする理由がなかったから、いろいろ学院ぐるみでいじめを主導して、退学にしようっていう動きがあるみたいだね。僕は女性をいじめるなんて真似は、いくら黒髪相手でも出来ないけど、女生徒には彼女をいじめている者が何人もいるみたいだよ」
「な、何だと!?」
「僕としてはさっさとやめてくれれば良いと思っているだけど、いても辛いだけだろうからなぁ」
何ともふざけた話だった。
俺が退学するときとほぼ同時くらいに、学院の方針に転換があっただと?
それでミナがいじめられるようになった。
「ふざけるな! ミナが何をしたっていうんだよ!」
俺は思わずフォルスの服のエリを掴んでそう叫んだ。
「黒髪が魔法使いの世界で馬鹿にされるのは当然のことだろう。だから学院は一刻も早くやめればいいんだと僕は思うんだよ」
こいつの考えは魔法使いの中では決して珍しくはない。
ほとんどは黒髪を見下している。
本当は黒髪の方が優秀なのに、馬鹿げた話だ。
こいつが馬鹿にするのはいい。ただいじめをしているというのは許せない。
しかし、学院ぐるみで方針を転換し、いじめを行わせているというのが、本当であるのならば、ミナがミルドレスにいる限り、不遇な扱いを受け続ける事はまず間違いないであろう。
彼女はミルドレスをやめて、アルバレスに来るべきだ。
ミルドレスに受かった彼女なら、アルバレスにも来れるはずだろう。アルバレスは学院のレベルとしてはミルドレスには劣るが、それも俺が変えてみせればいい。
何も問題はない。それで解決だ。ミナはアルバレスに来ればいいんだ。
俺は走り出して、ミナを探した。
彼女は中々見つからない。もう女子生徒用の宿舎に帰ったのか? あたりはもう暗くなってしまっている。
明日話せばいいだろうか? 俺がそう思って帰ろうとしたとき、
「あーっ! ムカつく! なんでこの私が6位なのよ! そんで、あのルドとかいう黒髪の出来損ないが、フォルス君を倒して1位になるのよ! 許せないわ!」
女が叫んでいる声が聞こえた。その声と同時に、何かを蹴るような音が同時に聞こえてくる。
俺はなんなのか気になって、音が聞こえてくるあたりを、調べてみる。
するとそこには、
「ごめんなさい……! ごめんなさい……!」
と謝りながら、複数の女生徒に蹴られているミナの姿があった。