第39話 決闘二日目
翌日、早朝から決闘が行われた。
今日は朝のうちに決闘を終わらせて、昼に明日やる今回の合宿で行う最終競技の説明と予行練習が行われる。最終競技は少し複雑になるため、前もって練習をしておいたほうがいいらしい。
俺の出番は1番最初だった。危なげなく勝利した。これで俺のベスト16進出が決定した。
アリス、ミョーちゃん、そしてフォルスも勝っていた。そういえばハルレーンもレミエスもベスト16まで来ていた。まあこいつはどうでもいいか。
フォルスは俺の目から見て、他の生徒とは圧倒的な実力差がある。まったく本気を出さずにやっているという感じだ。自信があるのも頷ける。
次の試合も勝ち、ベスト8進出が決定。これで点数が入る8人が出揃った事になる。
アルバレスから俺、アリス、ミョーちゃんの三人ベスト8に進出した生徒が出た。他はミルドレスが3でハルレーンが2である。結構アルバレスは健闘していた。
しかし、こうしてみるとアルバレス最強格の3人がクリスタル探索では集結していたから、バラけて居たほうがよかったかもな。まあ、ミョーちゃんは紫髪の性質上、恐らく探索では役立たずだっただろうけど。
それでベスト4進出をかけた決闘。アリスとミョーちゃんの戦いが始まった。
ここからは1試合ずつ行うらしく、俺も試合を観戦できた。
同じ班であったしミョーちゃんに負けて欲しいわけではないが、さすがにここは彼女であるアリスを応援する。
「よろしくお願いしますわ。ミョーリンさん」
「つーん」
ミョーちゃんはすねたような表情をしている。
「……もしかして私にも、あだ名で呼べと?」
「うん。ミョーちゃんと呼ぶ」
「はぁ分かりましたわ…………よ、よろしくお願いしますわ……ミョ、ミョーちゃん」
アリスが恥ずかしそうに言う。
「よろしくアーちゃん!」
「だ、誰がアーちゃんですか!?」
「アリスだからアーちゃん」
「普通にアリスとお呼びなさい!」
「えー、こっちの方がいいじゃん。ミョーちゃんはアーちゃんと呼んだほうが良いと思うから、アーちゃんと呼びます」
「人には呼び名を強要させて自分は好きに呼ぶって、自分勝手すぎませんかあなた!!」
アリスはミョーちゃんのフリーダムさにだいぶイライラしている。
「それでは決闘を開始します」
先生がそう言った後、決闘の合図がなされて決闘が始まった。
「いでよー、虹の泡ー。レッド、オレンジ、イエロー、グリーン、ライトブルー、ブルー、パープル!」
先に呪文を唱えたのはミョーちゃんだった。呪文を言い終えた瞬間、彼女の体の回りに淡い光を放ちながらフワフワと浮かぶ大きな泡が7つ発生する。その泡は赤色、オレンジ色、黄色、緑色、水色、青色、紫色、と放っている色がそれぞれ異なっていた。
これがミョーちゃんの使うパープルマジック、『レインボーバブル』だ。見ていた限り、結構厄介な魔法である。
レインボーバブルは、泡をはじけさせるとその色に応じた魔法が発動する。赤色は攻撃魔法、青色は防御系の魔法と発動する魔法の種類が異なっている。通常、同時に二種類の魔法を使う事は出来ない。そのため、防御と攻撃を同時に行ったりは出来ないのだが、このレインボーバブルでは出来る。7種類も魔法を同時に扱えるのだから非常に対応力の高い魔法といえた。
ミョーちゃんはレインボーバブルを出した後、何もしない。相手の出方をうかがっているのか、どうなのか、とにかく表情はいつもと変わらない、目を半開きにしている目だ。やる気があるのか無いのかまったくわからない。
アリスも先に魔法を使われたから、うかつに攻めれないので、しばらくミョーちゃんの動きを待つ。
そのまま、時が経ち……30秒が経過した時点で、
「両者、注意!! 積極的に攻める事!」
審判をしている先生から注意が入った。あまりにも攻めに積極性がなく守ってばかりいると、注意がつくことがある。
「あなた、先に魔法使ったんだから攻撃してきなさいよ!」
「うー、仕方ないなぁー、えい!」
ミョーちゃんがそう言った瞬間、赤い泡がはじけた。泡がはじけた瞬間、泡があった場所から赤い光のようなものが発射され、アリスの後ろの球体へと向かって飛んで行く。あの光は魔力を純粋な攻撃エネルギーに変換して飛ばす無属性の攻撃魔法だ。
アリスは魔法で壁を張り、攻撃をガード。そして、アイスキャノンの魔法をミョーちゃんの球に向かって放つ。
ミョーちゃんは、今度は青い泡を割る。魔法障壁が発生し、アリスのアイスキャノンを防いだ。
はじけた泡は10秒ほどで自動的に復活する。すでに赤い泡は復活していた。時間を置いて青い泡も復活しようとしている。
アリスは防御系の魔法が使えないうちに何とかする必要があると考え、すぐさま中級魔法を使いにいく、すると、ミョーちゃんが緑の泡を割って、その2秒後ほどに赤い泡を割る。まず緑の泡が効力を発揮。緑の泡は妨害魔法だ。緑の粘液みたいなのがアリスの口に飛んでいき命中。
「んんー!」
ベタついてしばらく喋れなくなるので口が塞がれるとそのあいだ魔法が使えなくなる。アリスが魔法を使えなくなっているうちに、ミョーちゃんの攻撃魔法が発動。アリスの球に命中する。色が青から少し紫っぽい色に変色した。
「っく」
しばらくして粘液は消滅。アリスは中級魔法で攻撃しようとするが、既に青い球は復活していた。
ここでアリスは意外な行動に出る。下級魔法を使用して攻撃したのだが、狙ったのは後ろの球体ではなく、青い泡だった。
青い泡に魔法が当たると、泡がはじける。すると、勝手に防御魔法が発動したのか、魔法障壁が出来る、しかも、そんな所に作ってどうするんだという場所に魔法障壁は作られた。
その隙にアリスは中級攻撃魔法、アイスキャノンを使って、ミョーちゃんの後ろにある球を攻撃、ミョーちゃんに防ぐ手はない。見事アイスキャノンは球に命中した。球の色が青から紫色に変化する。ミョーちゃんの攻撃が当たったアリスの球より変化は大きいように見える。
「ぐぬぬ。ミョーちゃんのレインボーバブルの弱点を見破るとは~」
口は悔しそうだけど、表情は一切変えない。どうもレインボーバブルは攻撃魔法を当てれば割れるらしく、さらに自分の意思以外で泡が割れた場合、魔法を出す場所や向きを操る事が出来ないのだろう。
結構な弱点だな。今まで皆、誰も試していなかったけど。
「何で皆やってみないか不思議でしたわ。割れるんですのね。まあ、弱点が分かったからには私のほうが有利ですわ」
「ふっふっふっふっふ……ミョーちゃんにはまだまだ奥の手があるのだ……勝ったと思ったら大間違い」
「奥の手……ですの?」
「ふっふっふっふっふっふ……」
ミョーちゃんは不敵に笑う。目はいつも通り半開きなのに対し口だけ笑っているので、非常に不気味だ。場に緊張感が流れる。
――――奥の手……? 一体なんだ?
そう思っていると、
「でも、こんな皆が居る場所じゃ奥の手使えないや。降参しまーす。ミョーちゃんの負けー」
「はぁ!?」
まさかの降参。俺はずっこける。
「あの……降参するんですか?」
審判の先生が尋ねる。
「うん。勝てない。降参できないの?」
「いや……分かりました。ベリルフォーランさんの勝利です」
なんともしまらない形で、アリスとミョーちゃんの決闘が終わった。