第38話 賭け
飯を食い終わって宿舎に帰る途中。
俺はある男子生徒に絡まれた。
「やあ、ルド君だね」
金髪のイケメン、上品な顔立ちが印象的の男が話しかけてきた。ミルドレスの制服を着ている。
こいつは確かフォルスだ。ミルドレスの1年生で一番優秀な生徒だ。
「何のよう?」
「僕はフォルス・メーアドル。ミルドレスでは一番優秀な生徒と言ってもいいだろう。君とは順調に勝ち上がれば、決勝で戦う事になるだろうね」
「そうだな。勝ち上がればだけど」
「勝ち上がるでしょ。君と僕なら」
自信満々な表情で彼はそう言った。
「賭けをしないかい?」
「賭け?」
いきなり妙な事を言われて俺は聞き返す。
「僕はねぇ、負けるのが嫌いなんだ。だからクリスタル探査で君に大差をつけられ敗北したときは、悔しさで言葉も出なかったよ」
「それで、何で賭けだ?」
「君みたいな黒髪に負けてそのまま何もやり返さなかったら、僕の輝かしい経歴に傷がつくだろう? だからどうしてやろうかと悩んでいたんだけど、それで賭けだ。僕が今回の決闘で君に勝ったら、君は魔法使いを即刻止めろ。君が勝った場合は、僕がやめてやろう」
……こいついかれてるのか? いきなりとんでもない事言い出したな。
よっぽどプライドが高いのか? 自分に勝ったことのある奴が同い年くらいにいるのは、こいつのプライドに傷をつけるのだろうか。
とりあえずこんな申し出を受け入れても俺には全く得がない。こいつがこれから先魔法使いを続けようが続けまいが、どうだっていいことだからな。
当然この申し出は断ることにしよう。
そう思ってさっさと断ろうとしたとき、ある考えが俺の頭にひらめいた。
こいつはミルドレスの生徒だったよな? もしかしてミナの事情を知っているのではないか?
賭けとして、勝ったらミナの情報を得るというのはどうだろうか? ミナは俺に事情を知って欲しくないように見えた。しかし、それでも彼女を放っておく事は友達として出来ない。それは俺の感情が許さない。
ミナから聞き出すのが一番いいだろう。でも、本人は話してくれそうにない。そうなれば、ミルドレスの生徒達に聞くしかないだろうが、奴らは黒髪の者を徹底的に無視してくる傾向がある。話しかけても無駄だろう。
ここで賭けでもしなければ話してもらえないかもしれない。
とりあえずフォルスが、ミナの事情について知っているのか、尋ねてみよう。
「なあ、お前ミナって生徒を知っているか?」
「ああ、黒髪の生徒だろ?」
「彼女に会ったんだが、今、青い髪だったんだ。髪の色を変えているのに何か深い事情でもありそうなんだ。お前何か知っているか?」
「知っているけど……これは他の学院の生徒に話す事は難しいな」
知っているのか。しかし、口ぶりからしてやはりそう簡単な出来事でもない可能性がある。
「知りたいのか? そうか。君は元々ミルドレスに居たのだったね。彼女とお友達だったのかな?」
「そうだ。俺はお前が魔法使いを続けようがやめようがどうでもいいが、彼女の情報は知りたい。俺が勝ったら、ミナに何があったのか教えてくれるというのなら、賭けに乗ってもいいぞ」
「いいだろう。僕が勝った場合、君は魔法使いをやめ、君が勝った場合、僕はミナさんの情報を君に話す。それでいいね?」
「ああ、負けたのになかったといいだすのは、やめろよ」
「君こそね」
俺達はにらみ合う。
「あ、そうそう。ないだろうけど、もし決勝に来れなかった者が出たら来れなかった方の負けだからね。仮に両方とも来れなかった場合は、順位が上の方が勝ちさ。まあこれは絶対にありえないだろうから言う必要は無かったね。僕は確実に決勝に行くだろうから。じゃ、また明日」
フォルスはそう言って去っていった。
俺は自分の選択が果たして正しいのか少し悩んだ。これは本当にミナのためになるのだろうか?
いや、正しいはずだ。彼女は間違いなく苦しんでいる。俺に迷惑をかけたくないと言っていたが、ミナを助ける為には多少の苦労くらいなんだ。
絶対に助けてやる。
俺はそう誓い宿舎に戻った。