第37話 連勝
戦いはすぐに終わった。
俺が中級攻撃魔法をかなりの速度で放つと、相手はそれにまったく反応できずに完全に球に直撃した。術者の技術によって魔法の強さは変わる。俺の放つ中級魔法は他の生徒の放つ中級魔法よりも高威力で、普通は中級魔法が1発当たっても、青い球が紫になるくらいだ。だが、俺の放った中級魔法が球に当たった瞬間、かなり赤に近い色まで変色した。
それを見た相手はかなり焦る。自分も中級魔法を当てなければと思ったみたいで、焦って撃って来るが、かなり精度が低くまったく違う場所に飛んでいく。俺は特に慌てる事無く、下級魔法をもう一発当てたら、球は完全な赤色になり、俺の勝利が決まった。
「さすがルドですわ!」
決闘が終わった直後アリスがそう言って出迎えてくれた。
しばらくすると、アリスの決闘が始まった。
アリスの相手はミルドレスの生徒だった。
試合は終始アリスの優勢で進んだ。攻めも守りもアリスは隙がない。敵の魔法を的確に自分の魔法でガードし、素早く正確な魔法を相手の球に命中させていく。
そこまで苦労せず勝ちが決まった。
その後、順調に俺とアリスは勝ち進む。クルツは2回戦で負けてしまった。さすがにミルドレスとハルレーンはレベルの高い学院だけあって優秀な生徒が多いようだ。
アルバレスの生徒はあまり残っていなかった。
俺とアリスと……それからミョーちゃんが意外にも残っていた。紫髪の魔法使いは普通の人には使えない独自の変わった魔法『パープルマジック』が1つ使えるという特徴がある。パープルマジック以外はあまり上手く使えないので、強いパープルマジックを持たない紫髪の魔法使いはあまり強くなかった。
ミョーちゃんのパープルマジックは、結構強かった。
ちなみに順調に勝ち進めば、アリスとベスト8でぶつかる組み合わせになっている。
そしてベスト32が決まった所で、今日の決闘は終了した。続きは明日になるらしい。
終わる頃には夕方になっていた。
人の決闘を見ている時間の方が遥かに長かったから、そこまで疲れはしなかったけど。
終わったあと、一旦宿舎で休憩した後、食事の時間になる。
食堂に行く途中、俺はミナの事をどうしようか迷っていた。
実はミナを見つけることには成功していた。当然だ決闘には出ていたのだから。だが1回戦で負けていた。なにやらかなり調子が悪そうにしていて、実力の半分も出せていなかったように俺の目には見えた。
昨日俺とあった影響だろうか? 俺はそう考えた。
試合の後ミナに事情を聞こうと思ったが、昨日のことがそこまで尾を引くくらい衝撃的な出来事だったのだとしたら、ミナは俺に会いたくないのではないか。それなら無理に会わないほうがいいのではないか。俺は迷って結局、話をしにいくことが出来なかった。
でも、やっぱり話は聞いたほうがいいよな。俺は食堂に行ってから、クルツやアリスに断りを取りミナを探しに行った。
よく探したらいた。青い髪のミナだ。いくら髪が変わっていても彼女の顔を見間違える事はない。
俺は意を決して、彼女に話しかけた。
「や、やあミナ」
「あ……」
ミナは俺を見てそう声を漏らし、そして、逃げようとする。
俺は咄嗟に反応しミナの腕を掴み、
「待ってくれ!」
と言った。
「ミナ。俺たち友達だよな。お前のことが心配なんだ。事情を話してくれないか? 何で髪が青いのか、何で昨日泣いてたのか。ミナの力になりたいんだ」
俺は本心を話した。
「ルド君……」
ミナは少し迷うような表情を浮かべた。
「ルド君はアルバレスに行って……強くなったよね。私びっくりしちゃった」
その後、ミナは少し微笑んでそう言った。
「……そうだ。昔より俺は少しは強くなれた。だからミナの事も」
「ごめんなさい」
俺が言い切る前に彼女は謝ってきた。きっぱりとした口調だった。
「私はルド君の邪魔はしたくないの……これは私の問題だから……」
彼女はそう言って、俺の手を振りほどき去っていった。
俺は追いかけることが出来なかった。言葉は少し優しげだったが、彼女の瞳から明確な拒絶の色が見えていたからだ。
ミナの事情は分からない。しかしミナは俺にその事に深入りして欲しくないと考えているみたいだった。
どうしようか……諦めるか。俺は暗い気持ちを胸に抱きながら、アリス達の下に帰った。