第35話 異変
俺はミナの顔と姿をまじまじと見る。
間違いなくミナだ。顔も背の高さも声も、昔のミナのままだった。
違うのは髪の長さと色だけだ。
元々髪は長く、美しい黒い色だった。
今は短く、青い髪になっている。
どういうことだ? 意味が分からない。
髪の色が後天的に変わる事はない。髪の色を染めたりして偽証する事は可能だが、ミルドレスで髪を染めるのは禁止だ。アルバレスでもそうだし、恐らく全ての学院で禁止されているだろう。
それも当然だ。髪の色は魔法力に直結する。それを偽証する事など許されない。
では何故だ? 何故彼女は髪を染めている? 当然ミルドレスが気付かないわけが無い。間違いなく学院から許可を出されて染めているのだろうが……
「ミナ……」
俺は理由を尋ねようとする。いく考えても分からないから、本人から直接聞き出すしかない。
しかし、ミナは俺が何か言おうとすると、
「ごめんなさい」
そう言って、全力で逃げていった。
「ミナ!」
俺はミナを追いかけようとするが、人がごった返している食堂だ。完全に見失い、どこにいるのか分からなくなってしまった。
「どういうことなんだよ……」
俺は呟きながら拳を握り締める。
何も無ければいい。ただ髪を染めただけと言えばそれだけだ。理由は分からないがミルドレスから、許可が出て気分転換に髪の色を変えているだけなのかもしれない。
しかし、それだけでは説明がつかない。
仮にそうであるならば、何で、
「何で、泣いてたんだよ……」
去り際。
ミナの目には間違いなく、涙が浮かんでいた。
何か見られたくないものを見られた。そんな表情をしながら、泣いていたのだ。
「あ、ルド、早く帰ろうよ!」
クルツの声が聞こえる。
「ん? どうしたのルド。怖い顔してるけど」
「……いや、なんでもない」
俺は嘘を吐いた。クルツに話しても仕方がないと思ったからだ。
「そう? まあ、それならいいけど。じゃあ、宿舎に帰ろうか」
「ああ」
動揺と混乱で、頭の中がぐちゃぐちゃになりながらも、俺は宿に帰った。
○
夜中、ずっと理由を考えたが何も分からない。
ただ、ミナの身に何かよくない事が起こっていることはわかった。
どうすればいい。助けてやれないか? どうやって助ければいい? どうにかして調べるのか? どうやって? 本人は話したくないみたいだぞ? ほかにミルドレスの生徒に聞く? 黒髪の俺は馬鹿にされている存在だ。教えてくれる奴などいるのだろうか?
どうすればいいのか、俺の中でまだ結論は出ていなかった。
「ルドー行くよー」
次の競技が始まる時間になった。
「あ、ああ」
「ルドやっぱり何か変だよ。何かあったの?」
「……ごめん。話せない」
「うーん。まあ、話したい時に話してくれればいいよ」
クルツはやはりいい奴だ。人が話したがっていないとき、そこまで詮索をしてこない。
俺達は昨日と同じように中央の広場に向かう。
たくさんの生徒達が集まっていた。
俺はミナを探してみるが見つからない。
見つけて話しても、話が出来るのだろうかわからない。
それでも、放ってはおけない。
俺は探す。
「ちゅうもーく! 今から2種目目の説明を行います!」
しかし、探す前に競技の説明が始まった。俺は探すのを断念する。
「次の種目は、決闘です」