第30話 ミナ
クリスタル探索が始まる。
俺たち4人は揃って森に入った。
「さてと、まず探知魔法を使う必要があるわね」
「俺が使おう」
「そうね、ルドが使った方が、よさそうね」
探知魔法にも色々種類がある。
特定の生物を探知する、クリーチャー・プローブ。
資源を探知する、リソース・プローブ。
魔力を持った物を探知する、マジック・プローブ。
ほかにも色々あるが、主に使われるのは、この三つか。
今日使うのはマジック・プローブだ。
学院で習う探知魔法は、初級の探知魔法で、範囲も半径50mほどしか調べられない。
この時代にある最高級の探知魔法は、半径200mが限度。だが、俺の前世の時代の探知魔法は、半径10kmの範囲を探索する事が可能だ。このくらいの範囲が探知できれば、森の入り口からでも、森全体を探知できるだろう。
「全ての魔力を探し出せ」
俺は探知魔法の呪文を唱える。
目の前にキラキラと光る、正方形の板が現れる。
結構大きい。縦横共に140cmくらいある。
この板の真ん中に赤い矢印が一つ表示される。そして、板の左側に黒い丸が大量に表示される。赤い矢印が魔法の使用者、つまり俺の位置で、黒い丸がクリスタルの位置である。左に黒い丸が集中しているのは、こちら側に森があるからだ。
「黒い丸がすごくあるけど、これどんだけの広さ表示されてるの?」
クルツが尋ねてくる。
「この森全部は表示されてるよ」
「全部って……」
「この森ってかなり広いって話でしたわよね。やっぱりルドは凄いですわ……」
前世では、ちゃんと魔法を学べば誰でも使えるというレベルの魔法なので、褒められてもちょっとむずがゆく感じてしまう。
俺は板の表面を見るが、少し違和感を持つ。
「ちょっと多くないかな、黒い丸。クリスタルは全部で300個だって先生は言っていたよね? なんか多い気がする。まあ気のせいかもしれないけど」
感覚的に300個以上あるような気がするが、数えるのは難しいから、正確な数は分からない。
「688個あるよ」
ミョーちゃんがそう言ってきた。
「え? 数えたの?」
「うん、得意なんだ」
謎の特技を発揮するミョーちゃん。いや、可能なのかこの短時間でこの量を数え切るなんて。
とりあえず、ミョーちゃんを信じることにしよう。
「多いってことは、ダミーが混ざっているのかな?」
「そうだろう。あと先生たちが配置したわけじゃなく、元からあった魔力がある物も、表示されているんだろうな。この表示からどれがクリスタルかまでは分からないし、しらみつぶしに探すしかないか」
「そうですわね。まあ、ただ全部見えているので、圧倒的に有利なことに変わりありませんわ」
それはそうだな。
あとは罠があるとの話だが、それにかからないように気をつけて歩くか。
「よしじゃあ行くか」
俺たちは探知魔法の板を見ながら、森を歩き出した。
○ ミナ視点
彼だ。彼がいた。
ルド君がいた。
もう2度と会えないと思っていた。
アルバレスに入れたんだ。良かったねルド君。本当に良かった……
ルド君は私に気付いていなかったみたいだ。
当然よね。こんな姿になってしまったんだもん。
私はルド君に、会ってはいけない。アルバレスで楽しそうにしていたルド君に水を差す事になる。ルド君は優しいから、自分の身を犠牲にしてまで何とかしようとするかもしれない。そんなことがあってはいけない。
「早く来なさいよ出来損ない」
その声に私はビクリと反応した。
私と同じ班になった、メイ・ミステルさん。私の事はつねに出来損ないと呼んでくる。
「すみません」
「足引っ張ったらタダじゃおかないって言ったわよね」
「いた!」
メイさんが私の髪を掴んで来た。頭に強烈な痛みが走る。
「や、やめて離して」
「嫌だよ」
メイさんは今度は頭を強引に抑えつけ、私の顔を土に付けて来た。
ほかの班の人はニヤニヤと笑みを浮かべながら私を見ていた。
「はい、そこから手をついて、頭を地面に擦り付けながら謝りなさい。そうすれば今回の件は許してあげるわ」
私に選択肢はなかった。プライドも羞恥心もかなぐり捨てて、彼女の言う通りに謝った。
そしたら、ゴツ! と頭に衝撃が走る。彼女が私を踏みつけて来た。
「まだまだまだまだ、擦り付け方が足らないわよ」
そう言って彼女は足をグリグリしながら、土に私の顔を押し付けて来た。息が出来ないほどの力で押さえつけられる。土の味が口中に広がる。
その拷問のような時間は1分ほど続いた。
流石に死ぬからやめておけと、ほかの班員が口を出したので、そこでようやく終わる。
私は空気を求めて、顔を上げる。
はぁはぁと必死で呼吸をした。
メイは私の土だらけの顔を見て、
「あははは、ステキな顔になったわね。今回はこれで許してあげるわ。次やったら、そうね。何をしようかしら……まあ考えておくわ」
暴力は終わったが、この程度のことは日常的にされている。またいつか同じ目に遭うだろう。
悔しさと、痛みと、苦しみと、恥ずかしさ、色んな負の気持ちを、ないまぜにしたような感情が私の胸に湧き上がってくる。
流れ落ちてくる涙を必死で拭きながら、私は立ち上がった。
口にはしない。いや、出来ない
それでも私は、心の中で何度も何度も「ルド君たすけて」と叫んだ。