第21話 その後
俺は勝利を収めた後、ハロルドに、
「約束通り、縁談は中止、退学も無かったことにしてください」
と言った。
多人数に見られた状態では、誤魔化したり、反故には出来ないみたいで、ハロルドは小さく頷いた。
その後、学院長室にアリスと共に行き、正式に退学を取り消したようだ。
取り消した後、ハロルドは逃げるように学園を去って行った。
そして、俺とアリスは、
「凄いですわ。本当にハロルド兄様に勝ってしまうなんて」
「絶対に勝つって言ったろ?」
「そうですが、まさか上級魔法を使ったり、さらに見た事も聞いた事もない魔法を操るなんて……やっぱりルドはとんでもなくすごいですわ」
アリスが俺を褒めるので、少し照れる。
「それよりもさ、アリスの退学を取り消す為とはいえ、兄を倒してしまったけど、その、いいの?」
「へ? そうですわね。年が離れすぎていますし、あまり親しくは無いので、別に気にする必要はありませんわ」
「そうなんだ。でも、今回結構見られてる中で倒しちゃったら、ベリルフォーラン家の名声が下がるかも知れないけど……」
「うーんそうですわね。多少は影響あるでしょうが、公爵家はその程度で揺らぐほどではありませんし」
「それならいいんだ」
その後しばらく沈黙。
沈黙を破ったのは、アリスだった。
「ルド」
「な、何?」
アリスは俺の目をじっと見つめながら、俺の名を呼んで来たため、少しドキッとする。
「ちゃんと言ってませんでしたから言いますわ。私に魔法を教えてくださって、魔力を増やすポーションを飲ませてくださって、私の退学を取り消す為にハロルド兄様と決闘し勝ってくださって、本当にありがとうございますわ。いつかお礼をしますわ」
アリスは頭を下げながらそう言ってきた。
「お礼はいらないさ。俺がやりたくてやった事だから」
俺はそう言ったが、アリスは「絶対に近日中にお礼をしますわ」と言った。
絶対にと言うのなら断るのもな、楽しみにしておくか。
◯
アリスの退学が取り消されてから、数日経った。
決闘に勝ったから、俺の知名度が急上昇したみたいで、学院中の人達からから注目を浴びるようになった。
さらに俺が決闘に勝ったハロルドから、何故か俺を褒め称える書状が学院に届いた。
将来、賢者になるであろう逸材だとか、100年に1人の天才だとか、自分の部下に欲しいとか書かれていたらしい。
何故こんな書状を送ってきたのか、アリスに尋ねてみたら、恐らく自分の名誉を落とさない為だと言う。
俺を天才だと褒め称える事で、天才になら負けても仕方ないか、負けた相手を素直に褒め称えるのは素晴らしい、と周囲に思わせれば名誉を落とさずに済むからだという。
割とうまい手だとは思ったが、これを書いている時のハロルドは、さぞ悔しい表情をしながら、書いたんだろうなぁ。
その書状が届いた事で、さらに注目度が上がってしまった。
注目度が上がったせいで、アリスとポーションを飲むのはしばらくやめる事にした。
人から注目されるのもいい事ばかりじゃないんだなぁ、と俺は少し困っていた。
後、困っているのは、注目度が上がり、色んな人に話しかけられるいうになった、という事だけではない。
決闘の時に使用した《リフレクトウォール》の魔法。
あれの研究をさせてくれと教師に頼まれたのだ。
最初は断ろうと思ったが、どうしてもと頼み込まれて、手を貸すことにした。
すでに《リフレクトウォール》の魔法は多人数に知られているし、別にいいかと思って引き受けた。
研究自体はそんなに時間はかからず、簡単に終わったのだが、その教師が「この魔法が広がれば、戦いの常識がだいぶ変わるかもしれない」と、結構不穏な事を言っていた。
よく考えれば確かに画期的な魔法だし、使うのやめておいた方が良かったかなー……
あの時、勝つにはあれが最適だと思ったから、仕方がないけど。
俺は魔法を研究した教師に、
「なるべくこの学院以外の所に《リフレクトウォール》の存在を漏らさないで欲しいです」
と言った。
意外とその教師もそのつもりだったみたいで、俺の考えに賛同してくれた。
その後日くらい、寮での夕食時。
「ねぇルド。決闘の時、使ってた魔法を跳ね返す魔法。あの魔法、口外するなって言われたけど、なんでなの?」
「あー、あれはなるべく言わないで欲しいって、俺が言ったんだ。変に外に魔法が広がると、戦いの常識が覆っちゃうかもしれないからね」
「ん? よくわからないけど。覆っちゃ駄目なの?」
「駄目ってか、俺が広めた魔法で戦いの常識が覆って、知らない誰かが損したりしたら、嫌だろ?」
「うーんそうかなぁ。損する人もいれば得する人もいると思うけど。魔法使いの使命は、魔法を使って戦う事と、魔法技術を発展させる事だと思うんだよね僕は。だから、新しく開発した魔法なんかは、積極的に広めるべきなんだと思うけどなぁ」
「……」
魔法使いの使命は、魔法を発展させる事か……
そう考えると、魔法技術を秘匿するという俺の判断は、間違っているのかもしれない。
無詠唱魔法の存在も、知られれば魔法革命と言うべき変革が起きるだろうが、今まで差別されてきた黒髪の者は救われるわけで……
うーんそれでも軽々しく変えるのはなぁ……
正直誰かに相談したい気分だ。
今度アリスに、勇気出して話してみようかなぁ。
俺は悩みながら自室に戻り、その後、悩み疲れて寝た。