第20話 決着
「なっ!」
跳ね返ってきた《ラヴァ・ストライク》を見てハロルドは驚愕する。
ハロルドは咄嗟に《シールド》の魔法を使用したみたいだが、
「ぐああああああ!」
完全には防ぎきれず、ダメージを受けたみたいだ。
今のは、《リフレクトウォール》という魔法。
一定以下の威力の魔法を跳ね返す魔法だ。
跳ね返すのは、外から来た攻撃に限る。
現代には存在しない、上級の魔法だ。
ハロルドは詠唱は速いのだが、魔法自体の威力はそれほど強くなく、《リフレクトウォール》でも反射可能な程度の威力だった。
《リフレクトウォール》で反射した魔法は、威力が半減される。
さらに《シールド》を使っていたので、恐らくこれで戦闘不能と言うほどのダメージは受けないだろう。
「ぐ……」
予想通り、ハロルドは立ち上がったが、だいぶダメージを受けているのか、ふらふらだ。
「大丈夫ですか? 降参します?」
「貴様、何ださっきの魔法は……聞いたことの無い魔法だ……魔法を跳ね返す壁など……」
「教える必要はないですね」
「っく……! 私が知らない魔法などあるはずがない! 何かの間違いだ!」
そう言って再び《ラヴァ・ストライク》の魔法を放つ。
当然跳ね返される。
ハロルドは何かの間違いだと言ってはいたが、跳ね返される事はある程度、予測していたみたいで、今度は回避した。
「ぐ……別の魔法なら……!」
ハロルドは他の魔法も試すが、全て跳ね返される。
何度か跳ね返され、軽くダメージを受けている。
「く……」
「そろそろ、魔力も限界近いと思います。降参してはいかがですか?」
魔力は呼吸と共に体に取り込むが、ここまで大量に魔力を消費したら、回復するまで時間が掛かるだろう。
「ふざけるな……! この程度で……」
ハロルドは俺を睨みつけるが、だいぶ体力を消費しているようだ。虚勢だろう。
参ったと言わせる為、動けないようにする魔法を使おう。
「《鎖よ、敵を封じ込めよ》!」
「っ!」
俺が使ったのは、《チェインバインド》の魔法。
鎖で敵を縛りつける魔法だ。
ハロルドは避けようとしたが、避けきれず拘束された。
「ぐっ……」
「勝負ありましたね。降参してください」
「き、貴様ぁ……誰が降参など……」
この後に及んでハロルドは、俺を睨みつけてくる。
「降参してください」
俺は鎖の拘束を僅かにキツくする。
ハロルドは「ぐぅ……」と呻き声を漏らす。
「ふざけるなぁ……貴様みたいな黒髪に私が……絶対に認めんぞぉ……」
「この状況はどう見ても負けですよ。降参してください」
「黙れぇ……黒髪の平民にこの私が邪魔をされるなど、あってはならぬ事なのだ……! あの出来損ないは必ず嫁がせる……!」
「アリスは出来損ないじゃありませんよ。アリスは将来、賢者になりますから」
「まだそんな事を言っているのか。無理だ無理だ! あの出来損ないには! 賢者になどなれん! この私がなれなかったのになれるわけあるまい!」
「……賢者になれるほどの実力が、あったのではなかったのですか?」
「周りからずっと賢者になれると言われてはきたさ! それだけの実力はあった! だが賢者になるには、あと一歩どうしても足りなかったのだ!」
戦ってて、魔法の威力が高くはないよな、と思っていたが、そうだったのか。
「この私になれなかったものに、あの出来損ないがなれるはずなどない! あり得ないことを言うな! アリスは今すぐこの学院をやめて、嫁ぐべきなのだ……!」
……ハロルドはどうも賢者になれなかったことで、性根が歪んでいるみたいだった。
「あなたが賢者になれなかったからと言って、アリスがなれない理由にはなりませんよ」
「無理だ! 無理だ! 無理だ! 出来損ないには一生なれん!」
「……」
この男の考えを変えることは、もはや不可能だし意味はないだろう。
「もういいです。早く参ったと言ってください」
「死んでも言うか!」
気絶させても勝ちらしいが、俺はどうしてもこの男に参ったと言わせたくなった。
よし、あの魔法を使おう。
「《水の牢よ、敵を閉じこめよ》」
「その魔法は!?」
俺が呪文を唱えた瞬間、水の塊が出現し、その水がハロルドの足から腰までを覆った。
徐々の水が増えていき、顔に向かって水位が上昇していっている。
この魔法は《ウォータープリズン》と言う魔法。
水に敵を閉じ込める魔法で、現代にも存在する
今回は少し変えて、最初は少なくして、徐々に水が増えていくようにした。
「参ったと言ったら魔法を解きます。言わなければ水が顔にまで達しますよ?」
「っぐ、貴様! 言わんと言ったら、言わんぞ!」
ハロルドはそう言うが、徐々に顔に近づいてくる、水を見て焦り始める。
「と、解け! もうすぐ顔までくる! 解かぬか!」
「参ったと言ったら解くって言ってるでしょ」
「ふ、ふざけるな……誰が黒髪の平民なんぞに……ぐうううう!」
ついに水が顎ぐらいまで達する。
そこで、
「わ、分かった! 参った! 解け! 解いてくれ!」
恐怖に負けて、ハロルドは降参した。
俺は魔法を解く。
そして、
「俺の勝ちですね」
そう宣言した。
その瞬間、大きな歓声が鳴り響いた。