第2話 別れ
俺は荷物をまとめて学院の門から出ようとしていた。
あれから涙が枯れるまで、泣き続けた。
今はもう、涙も枯れ、湧き上がっていた怒りや嫉みの感情も涙が枯れると共に消え去っていき、俺の心中には絶望感のみがあった。
「ルド君! 待って!」
聞き覚えのある女の子の声が、背後から聞こえた。
俺はゆっくりと振り向く。
「ミナ……」
ミナ・ハーライト。
俺と同じクラスだった女の子だ。
平民の俺と違い貴族出身の子で、美しく育ちのいい女の子だ。
そんなミナだが俺と同じく黒髪だった。
ただ俺よりは少し魔法を扱う才能がある為、退学にはならない。
才能があるといっても、やはり実技においては下位なのだが。
「ルド君がいなくなったら、私……耐えられないよ……」
黒髪は他のクラスメイトから、はぶられていた。
いじめを受けていると言うわけではないが、無視されていた。
俺とミナは、それぞれお互い以外に、話せる相手がいなかった。
「ごめんな。約束守れなくて……一緒に卒業して賢者になろうって約束したのにな」
枯れたと思っていた涙が、再びこみ上げてきた。
しかし、ミナの前で泣くわけには行かない。俺はグッとこらえる。
「退学取り消してもらえないかな……私かけあってみるよ」
「無理だ。先生は俺を塵を見るような目で見ていた。取り消しなんて絶対に無理だよ……」
「そんな……」
ミナは俯く。
「俺はもう退学になって……賢者にはなれないけどさ……ミナは……ミナは頑張って卒業して賢者になってくれよ。俺の代わりにじゃないんだけど。とにかく頑張ってな」
「…………」
口下手な俺はうまく伝えられなかったかもしれないが、思いを伝えた。
「じゃあ、俺はこれで……」
「あの! ルド君! 私……!」
ミナがそう言って、俺の右袖を掴んできた。
「……何……?」
「……ごめん、何でもないの。元気でね……」
小さな声でそう言って、ミナは袖からゆっくりと手を離した。
その声は僅かに震えているように聞こえた。
「ミナも元気でな」
俺は最後にそういい残し、学院を去った。
ミナに背を向けた瞬間、俺は再び涙を流した。
俺はミナのことが好きだった。
うん、そうだ、生まれて15年、恋愛の経験など一切無いが、多分あれが女の子を好きになるって感情なんだと思う。
思い上がりかもしれないけど、もしかたらミナも俺のことが好きなのかもしれない。
最後に告白していれば良かったのか?
いや駄目だ。
この学院を去る者から告白など受けても、どうしようもないだろう。
もしミナが俺に好意を抱いているのなら、告白など足かせにしかならない。
もう二度と彼女と会うことは無いと思うと悲しいが、これも運命だ。
潔く諦めるしかない。
……これからどうするか……
もはや賢者になるという夢は絶たれたも同然だ。
実家に帰るか?
絶対に賢者になると言って反対を押し切って俺は魔法学院に入った。
どの面下げて帰ればいいのだろうか。
この魔法学院は首になったが、他にも魔法学院はある。
ただ俺にまともな魔法学院に入れるのだろうか。
このミルドレス魔法学院は、数少ない黒髪でも入れる、まともな魔法学院の1つだった。
魔力は知識の量から来る、と言う理念を掲げており、筆記試験で優秀な成績を残せば入ることは出来たのだ。
ただ、さすがに3期連続で実技試験、最下位な俺は退学になるようだが。
俺が今から入れそうな魔法学院は、国内でも低レベルで、卒業した所でまともな職にありつけないような所ばかりだと思う。
そんな所にいって何になるのだろうか?
いっそ、冒険者にでもなったほうがいいのか?
考えがまとまらない。
ミルドレス魔法学院は少し街の外れにある。
一旦街の宿にでも泊まって、考えをまとめよう。
学費として払っていた金が、いくらか手元に戻ってきたし、しばらくは生活可能だ。
俺は街の宿に向かった。