第18話 決闘開始!
「どういうつもりですの!」
アリスは俺に向かって大声で怒鳴ってきた。
「何であんな事を……いいって言いましたのに……負ければ、ルドもこの学院をやめなければならないのですのよ?」
「負けないさ」
「あなたはハロルド兄様の強さを分かっておりません! 無謀すぎますわ!」
アリスは俺を睨みつけながらそう言った。
「私、こうなる事は元から覚悟していましたの。この学院に入れてもらったのも、我儘みたいなものだったのですわ。私もベリルフォーラン家として、役目を果たさなければいけません。今ならまだ決闘をやめることができますわ。あなたまで退学になる必要はありませんわ」
「1度申し込んだ決闘を自分からやめるなんて、できないし、それにさっきも言った通り、俺は負ける気は無い」
相手は賢者並みに強いらしいが、俺には進んだ魔法の知識がある。
勝てるはずだ。
「確かにあなたが、学院生のレベルを大きく超えた、優れた魔法使いなのは確かですわ。でもハロルド兄様には勝てませんわ」
「絶対に勝つ」
「無理ですわ! 聞き分けが悪いですわね! 本当にやめなさい! 私の事はもう放っておいてください!」
「アリス。本心を言ってくれ。こんな所で学院を辞めていいなんて思ってないんだろ?」
「それは……」
「君の夢が、こんな所で終わっていいはずないじゃないか」
「……」
アリスは俯く。
ポタポタと涙が床に落ちた。
「辞めたくないに決まっていますの。でも仕方ないですわ。ルドに迷惑はかけられませんから……」
「何度でも言うが、俺は負けない。前にも言ったが俺はアリスに惹かれて、手助けすることに決めたんだ。こんな所で君が賢者になる夢を諦めて欲しくない。だから、俺は絶対に決闘するし、絶対に勝ってみせる」
俺は、アリスの両肩を掴みながらそう言った。
俯いていたアリスは顔を上げ、俺の目を見つめてくる。
「……信じていいんですの?」
「ああ」
「……」
その後、アリスは何も言わなかった。涙を拭い、肩に添えられた俺の手を握りしめた。
○
俺は、アリスと一旦別れ、決闘の準備を始めていた。
相手の実力は分からないが、前世の進んだ魔法の知識と使い方を知っている俺は、そうそう負けないはずだ。
ただ実戦の前に、一応魔法の使い方や戦い方を確認しておいたほうがいいので、座学は今日はサボって、学院の裏にある、実技練習場みたいな場所で、確認をしていた。
だいぶ魔法を使う感覚に慣れてきた。
今の魔力で使える魔法は、きちんと使えこなせそうだ。
ただ、やはり強力な魔法は現時点では、最大魔力不足で使えない。
まあ、強力な魔法と言っても前世の時代の基準で強力な魔法は使えないだけで、現代の基準で強力と呼ばれている魔法は、普通に使えるがな。
準備はこれくらいでいいか。
後は勝つだけだ。
そろそろ昼だし、昼飯を食いに行くか。
食堂に向かい飯を食べた。
食べている途中、クルツや他のクラスメイト達に事情を聞かれたが、ごまかしておいた。
そして、学院が終わり、その時がやってきた。
1つ予想外な事があった。
どこかで、俺が決闘を挑んだ事がもれたのか、生徒達が実技練習場に集まってきているのである。
100人くらいはいそうだ。
何故、決闘する事がばれたのか。
ハロルドが漏らしたか、もしくは偶然聞いていた者でもいたのか。
とにかく俺は誰にも言っていない。
少なくとも昼の時点では、知っているものはいなかったから、ハロルドが漏らした可能性が高いな。
観客がいるのでは、全力を出すのは、まずいかもしれない。
……だがこの勝負は絶対に負けられない。本気を出さなければ勝てないのなら、俺も覚悟を決めて本気を出す事になるかもしれないがな。
観客の中に混じってアリスがいた。
アリスは不安そうな目で俺を見ている。
俺は口を、絶対勝つ、と動かした。
伝わったのかアリスは小さく頷いた。
その直後、観衆のざわめきが、僅かに大きくなる。
観客の視線が1点に集まっていた。
「逃げずに来たみたいだな」
ハロルドがそういいながら、ゆっくりと歩いてきていた。
「ふん。観客がいるのか。別に構わんが、君は生徒達の前で無様をさらす事になるが、大丈夫か?」
「その言葉、そっくりそのまま返しますよ」
「……君は本当に私に勝てると思っているのかな? まあいい。現実と言うものを教えてやろう」
「……」
明らかに俺を格下と侮っているような態度だ。
侮ってくれたほうが、好都合ではある。
「さて、決闘を始める前に、改めて私に決闘を申し込みたまえ。申し込む際に賭けた物を一緒に言いたまえ」
「……俺、ルド・アーネストは、ハロルド・ル・ベリルフォーランに決闘を申し込みます。俺が勝った場合は、アリスの縁談を中止し、ここアルバレス魔法学院からの退学を取り消す事。俺が負けたら、アルバレス魔法学院を退学し、あなたの召使になります。受けますか?」
俺が決闘の申し込みをした時、観客が一斉にざわめき始めた。
「まじで決闘を申し込みやがった」「馬鹿なのかあいつは」「縁談を中止にしたいんだ……」「負けたら退学になるのかよ。終わったなあいつ」「でもアーネスト君は結構強いぞ」「ベリルフォーラン公爵には、どう足掻いても勝てまい」
などと、周りから声が聞こえる。
「受ける」
ハロルドが、決闘を受ける宣言をした。
観客のざわめきがいっそう大きくなる中、決闘が始まった。