第16話 突然の
それから、しばらく休みの日はポーション作りをした。
平日はアリスに魔法を教えたりしていた。
「……ルドの魔法の知識と実力は何なんですの? 明らかに学院生のレベルを超えていますわ。最初あなたに張り合っていたのが、何だか馬鹿みたいですわ。あなたが何者か聞きたいですが、秘密なのでしょう?」
「うん。アリスにはいつか話すかもな」
「気長に待っていますわ」
話したら信じて貰えるか分からないというか、頭大丈夫か疑われるかもしれないので、正直話すのには勇気がいるが、そのうちアリスには話そうと思った。
1ヶ月ほど過ぎた。
休日は週に2日。休日には毎日、魔力増加ポーションをアリスと2人で飲んだ。
現時点でアリスの魔力は平均値に少し届かないくらいだが、最初よりはだいぶ増えた。
そして、実技の授業。
中級の攻撃魔法を練習する時間。
アリスは授業で中級魔法を成功させた事は無かった。
以前教えた《ハイスペル》をアリスは授業中使わなかった。
魔力を増やせる方法があるのなら、そのうち普通に発動させられるようになるだろう。
それなら《ハイスペル》を使わずに、普通に使う練習をした方がいいからだ。
教えた意味なかったかもしれんな。
まあ《ハイスペル》はあの時すぐ中級魔法を使えるようになってほしいと思って、教えたからいいんだけどね。
それで、今日の中級魔法の授業。
アリスが中級魔法を使う番になった。
俺としてはそろそろ発動できるくらいにまで、魔力が増加したと見ている。
今日使う中級魔法は、火属性の中級攻撃魔法、《フレイムショット》だ。
大きな火の玉を作り出し、それを撃つ魔法。
当たったら、火が弾け飛んで広範囲に攻撃できる。
この魔法は危険なので、1人1人順番で使って行く事になっていた。
その為、今日の授業は合同ではなく、1年2組だけだった。
現在中級魔法を成功させているのは、俺1人。
他の生徒の中にも、惜しいところまではいった生徒はいたが、成功させた生徒はいなかった。
「《火よ、燃やし尽くせ》!」
アリスが呪文を唱えた瞬間。
大きな火の玉が、的に向かって一直線で飛んでいき、的に直撃。その後、爆発し周囲に火が弾け飛んだ。
成功だ。
生徒達から歓声が上がる。
「……せ、成功しましたわ……」
アリスは、しばらく信じられないといった表情をする。
そして、
「成功しましたわー! ルドのおかげです!」
嬉しそうにそう言いながら、俺の元に走ってきて、俺に抱きついてきた。
「ちょ、ア、アリス!」
抱きつかれて俺は、思いっきりうろたえた。
こ、こんな女の子と密着して……
いい匂いと、それから胸の感触が伝わってきて……アリスって小柄だけど、意外に胸あるんだなぁ……
一瞬、我を忘れそうな気分になったが、何とか持ちこたえる。
周りを見てみると、生徒達が、抱きつく俺達を好奇の目で見ていた。
アリスは生徒達の視線に気付き、慌てて俺から離れた。
「あの2人……」「まさか付き合って」「……平民と公爵家だぞ……」「いやでも、アーネスト君は将来、貴族に取り立てられるかも……」
ひそひそと周りの生徒達が話し始める。
めっちゃ恥ずかしい。
アリスも顔を赤らめて下を向いていた。
俺は恥ずかしかったが、言わなきゃいけないことを言っていないので、アリスに近づいて、
「おめでとう」
と言った。
アリスは顔を少し上げ、上目遣いで俺を見て、小さく頷いた。
○
夜、男子寮。
俺はクルツと共に夕飯を食べていた。
「ルドってベリルフォーランさんと、付き合ってるんだ」
「な……! ごほっごほっ!」
いきなりクルツにそう言われて、俺は少しむせた。
「つ、付き合ってない」
「えー、今日抱き合ってたし。最近一緒にいる所よくに見かけるし、さらに名前で呼び合ってるでしょ」
「いや、うん、その。仲良くはなったと思うけど、付き合ってはいないよ」
「ほんとに~? 照れてるだけじゃないの?」
「ほんとだって」
「ふーん、そうなんだ。ルドはベリルフォーランさんと付き合いたいと思ってるの?」
クルツに聞かれて、俺は返答に困る。
付き合うか……どうだろうか。
「分からないけど。でも、俺とアリスとじゃ、身分が違いすぎるだろ」
「身分は関係ないよー。大事なのは気持ちでしょ気持ち! それにルドなら、身分差なんて自分の力でなんとかできるよ!」
「いや、でもなぁ……」
俺はアリスの事をどう思ってるんだろうか?
飯を食い終わり、自室に戻った後、部屋で悶々としながら考えていた。
確かに俺は、アリスに惹かれているかもしれない。
ただこれが恋愛感情かどうか。
ミナの時、抱いていた気持ちとはまた違う気がする。
俺はミナと別れたとき、忘れようと決意したが、1ヶ月程度ではまだ忘れられてない。
そんな状態で、アリスに恋愛感情を抱くのは何だか不誠実のような気もする。
うーん、恋愛経験皆無だからな俺。分からないな。
もういいや、寝よう。
俺はベットの中に入って眠りに付こうとするが、アリスに抱きつかれた感触を思い出して、中々眠りにつけなかった。
後日、寝不足気味で学院に行った。
教室の前の扉に立つと少し緊張してきた。
何だかどんな顔してアリスに会えばいいか、分からなくなって。
普通にしてればいいな、うん、普通に。
俺は扉を開け教室に入った。
「あれ?」
思わず呟いた。
アリスが教室にいない。
俺はだいたい時間ギリギリに教室に入るので、アリスは毎日のように、俺より先に教室にいるのだが、今日はいなかった。
俺は病欠か? と思いながら自分の席に付く。ちょうどそのタイミングでミローネが教室に入ってきた。
聞いてみよう。
「みなさん。おはようございます」
ミローネの挨拶に応え、クラスメイト達がミローネに挨拶をする。俺も一緒に挨拶をした後、
「あの、アリスはどうしたんですか?」
「あ、アリスちゃんは……先ほどアリスちゃんのお兄さんが、学院にいらして」
ミローネの表情が急に暗くなる。
何かあったのか?
「ええ、それで急遽、学院を辞める事が決まったらしく、今は学院長室にいます……」