第14話 魔力増加ポーション
今日は休日だ。
クルツに遊びに行かないかと誘われたが、やる事があるからと言って断った。
あるポーションを作りたかったからだ。
《魔力増加ポーション》、その名の通り飲めば最大魔力が増加するポーションだ。
現代には無く、俺の前世の知識から作り方を得た。
なるべくこのポーションは作りたくなかった。
魔力増加ポーションは、割と簡単に取れる物を材料にしている。
青濁石という、少し濁り気味の青色の石を材料にしている。
川辺に行けばすぐに見つかる石であり、地中に埋蔵されていたりもする。
前世の時代では、このポーションが開発された瞬間、青濁石の価値が急上昇し、徹底的に採られるようになる。
そうなると流石に足りなくなる。
青濁石の埋蔵量が少ない国は、他国に戦争を仕掛けて、大規模な戦争が起こったという。
そんなわけで下手に作って、誰かにバレてしまい、戦争が起きてしまうのは回避したかったのだ。
でも、昨日のベリルフォーランを見て、どうしても作ってあげたいと思った。
昨日は、彼女がすぐ中級魔法を成功できるようにするには、あの方法しかなかった為、ハイスペルを教えたのだが、根本的に魔力が少ないという事を解決しないと、今後、彼女は魔法使いとして不利を背負って生きて行くことになる。
なんとかしてやれる方法があるなら、その方法を使って解決してあげたいと思ったのだ。
まあ、魔力増加ポーションは俺も自分で飲みたいとは思っていたが。
俺の魔力はそこそこ多い方なのだが、飛びぬけて多いわけではない。
前世の知識から得たレベルの高い魔法の中には、今の魔力量では恐らく使えないだろうな、という魔法がかなりある。
その為、俺としても魔力は増やしたくはあった。
ばれないよう、細心の注意を払ってポーションは作ろう。
ベリルフォーランにも絶対に人には言わないと念を押さないとな。
彼女の人となりは、まだそこまで知らないが、たぶんそんな簡単に秘密を漏らすタイプでは無いように見える。あんま他人と話してるの見た事無いしな。
最大魔力量が増えたというのは、周りに知られるだろうが、ごく稀に15歳以上からでも最大魔力量が伸びたという例はあるので、増えていても珍しがられるが、まさか増やす方法があるとは思われないだろう。
さて、材料集めをしてくるか。
青濁石は川辺とかの砂利に混ざってよく落ちている。
男子寮の玄関の辺りには、少し古びて見づらくなっているが、学院付近が描かれた地図がある。
その地図を見ると、北の方に川があったので、そこに行って青濁石を探しに行った。
割と簡単に見つかった。
持ってきた袋につめられるだけつめて、持って帰った。
これと後、通常のポーション作りに必要なエーテルと水、それから魔素を含んだ木の葉を少量入れる必要がある。
魔素を含んだ木っていうのは、普通の木の葉が緑色であるのに対し、違う色の葉をつける木の事だ。
この辺には赤い葉をつける、《火の木》が生えてるから、それの葉を1枚取った。
エーテルは近くの町で安く売ってあるからそれを買った。水は川の水が結構綺麗だったので、それを青濁石を採ってくるとき、ついでに汲んできた。
さて、どこで作るか。
寮にはポーションを調合できる場所なんてない。
学院に行くか。調合室は学院には必ずあるはずだ。
休日の調合室なんて、誰も使わないだろうから、人もいないはずだし絶好の場所だ。
俺は材料を持ち、学院に向かった。
○
学院に付いて歩いていたら、
「あ」
「あ、あなたは」
ベリルフォーランにばったり会った。
「なんで学院にいるの? 休みだよ今日は」
「それはこっちのセリフですわ。その大きな荷物はなんなんですの」
「ああ、これは、ちょっとね。そうだベリルフォーランさんはこれから暇?」
「今から戻るつもりですが。何か用事なのですか?」
「それならちょうど良かった。ちょっと付いてきてよ。今からいいものを作るつもりなんだ」
「なんで、あなたに付いて行く必要があるんですの。お断りですわ」
ベリルフォーランはそう言って、俺の横を通り過ぎて行こうとする。
「そっかー。本当にいいものなんだけどな」
「……」
俺が行こうとすると、彼女はピタリと歩を止め、俺のちらりと見てきた。
「待ちなさい!」
「な、何?」
大声で言ってきた為、少しびっくりした。
「作るものに興味はありませんが、あなたには昨日の件で聞きたいことはあります」
「興味あるんだ。付いてきてよ」
「聞いてました!? 興味はありませんって、こら何行こうとしてるのですか! 待ちなさい!」
「あ、そうだ忘れてた」
俺はクルリと振り向いて、ベリルフォーランの方を向く。
「な、何ですの?」
「この学院の調合室ってどこにあるか知ってる?」
「調合室なら、実技練習場の近くにありますが、生徒が勝手に立ち入るのは禁止されてますわよ」
「実技練習場の近くね。分かった」
「ちょっと、調合室に用があるんですの? 禁止って言いましたよね。鍵がかかってて入れませんわよ。休日に使用許可が下りる事も滅多にありませんし」
「大丈夫、大丈夫」
鍵は魔法で開ければいい。
使用許可は、どのみち作る物を言わないともらえないだろうから、もらえないしな。
絶対にバレないよう、痕跡を完全に消せば問題あるまい。
俺は調合室へと向かい、ベリルフォーランも「禁止だって言ってますのに!」 と言いながらも俺の後を付いて来た。