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第13話 アリス・ル・ベリルフォーラン

 俺はベリルフォーランを追いかけたが、見失い、学院の敷地内を探していた。


 だいぶ歩き回ったが、見つからない。

 そもそもこの学院には来たばかりなので、あんまり土地勘がない。

 ベリルフォーランの行きそうな場所とかも、当然分からんし、よく考えたら見つかるわけないか。


 明日、学院で会うだろうから、その時、謝っておくか。

 別に俺は悪くはないと思うのだが、女を泣かせたならとりあえず謝っておけと、親父が言ってた。


 男子寮に帰ろうとすると、


「……よ…………て」


 なにやら遠くから声が聞こえる。

 よく聞いてみると、その声はどこかで聞いたことあるような声だった。

 ベリルフォーランの声じゃないか?


 俺は声の聞こえるほうに近づいてみる。


 実技練習場のような場所が、学院の裏にもうひとつあった。的や鉄人形などが置いてある。

 そこで、


「《凍てつく氷解よ、敵を撃て》!」


 的に向かって、《アイスキャノン》を発動させようとしている、ベリルフォーランの姿があった。

 何度も呪文を唱えるが、魔法は発動しない。

 それでも、何度も何度も何度も、呪文を唱え続ける。


 魔法を使うのには高い集中力を要する。

 呪文を唱えているだけのように見えて、だいぶ体力も消費するのだ。


 ベリルフォーランはどのくらいここで魔法を唱え続けていたのか、額から汗をだらだらと流している。

 もしかして、俺が探している間、ずっとこうして唱え続けていたのだろうか?


 止めさせないと、倒れてしまうかもしれないなと思い、ベリルフォーランに話しかけようとした。

 すると、


「はぁはぁ……何で発動しないのよ!」


 ベリルフォーランが大声で叫ぶ。

 その表情は何か焦るような、恐れるような、そんな表情をしていた。


「アルバレスにしか入れないと決まった時、賢者になる夢を諦めなさいと……父上に言われた……! どうしても諦めたくないと懇願してようやく許してくれた……この学院では常に1番でなくてはいけないよ……私みたいな魔力の低い者が賢者になるには、1番でいなければならないのよ……!」


 彼女は搾り出すようにそう言った後、再び練習を始めた。


 ベリルフォーランにどういう事情があるのか、詳しくは分からない。


 だが、彼女にも俺と同じく賢者になるという夢があるらしい。

 そして、その夢を叶える為に今日みたいに努力をし続けて来たのだと、彼女の魔法の実力や、今日見たこの姿から分かった。


 俺はベリルフォーランのこの姿を見て、ここ数日、彼女に抱いていた印象ががらりと変わった。


 大貴族だからプライドが高くて、俺に絡んできていたとか、もしくは、馬鹿にしていた黒髪の俺に中級魔法を先に唱えられた事がくやしかったのかとか。

 そんな勝手な事ばかりを考えていたが。


 彼女は、誰よりも努力家で、誰よりも夢にひたむきな少女だったようだ。


 俺は、そんな彼女を放ってはおけなかった。


「《来たれ、凍てつく氷塊、手を瞬く間に粉砕せよ》って呪文で、魔法を使ってみるといいよ」


 俺はベリルフォーランにそう言った。

 彼女はいきなり出てきた俺に、ポカンとした顔をした後、


「あ、あなた、何故ここにいますの!?」

「いや、気になって探してたんだよ。それより、さっき俺が言った呪文《来たれ、凍てつく氷塊、手を瞬く間に粉砕せよ》って言って魔法使ってみてよ」

「何言ってるんですの。以前、先生が教えてくださった呪文とは違いますわ。それでは魔法は使えませんわ」

「いいから使ってみてって」

「……あなた、どういうつもりですの?」


 ベリルフォーランは困惑しているような表情をする。


「どういうつもりも何もないよ、この呪文で使ったら、《アイスキャノン》の魔法もきちんと使えるはずさ、1回やってみてよ」


 俺がそう言うと、疑うような表情は崩さずに、


「そこまで言うのなら、1回試すぐらいはいいですが……えーと……《来たれ、凍てつく氷塊、手を瞬く間に粉砕せよ》!」


 ベリルフォーランがそう唱えた瞬間。

 氷塊ができてそれが一直線に、的へと飛んでいった。


「で、できた?」


 唖然とした表情をする、ベリルフォーラン。


 今のは《ハイスペル》と言う技術。

 呪文に言葉を付け加える事で、魔力不足でも魔法を発動できるようにできる。

 俺の前世の時代では、時代遅れになっていた技術であったが、現代にはこの技術はなかった。


 この技術は知れ渡っても、世界を変えるほどの影響力じゃないだろうが、それなりに有用な技術として扱われていくだろう。

 なるべく知識をもらしたくないと、俺は思っていたのだが、ベリルフォーランの練習する姿を見てどうしても放っておけないと思ったので、中級魔法は使えるように、《ハイスペル》を教えたのだ。


「な、何なんですの今のは!? 何故使えたのです!?」

「ああやって唱えると、魔力量が少なくても使えるらしいんだよ。高位の魔法使いから教わったんだ」

「わ、私そんな事、1度も聞いたことありませんわよ」


 嘘だしな。知ってる奴は俺の他にいまい。


「じゃあ、俺はこれで」

「ちょっと待ちなさい。なんで私に今の呪文を教えたのです」

「何となくだよ」

「何となくって……どういう事なのですかそれは」


 ベリルフォーランは納得しなかったが、俺は本心は言わなかった。

 何となく言うのが恥ずかしいかったからな。

 君の練習している姿に惹かれたからなんて。


 立ち去るのを、彼女に「待ちなさい!」と言って止められたが、俺は構わず寮に帰った。





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