第12話 決闘
「私と決闘しなさい!」
決闘?
いや……何故いきなり……
ザワザワと、いきなりの展開に周りの生徒達が騒ぎ出す。
「えーと、決闘? 何故俺と? 普通に嫌なんだが」
「いいからしなさい。逃げるんですの?」
「いや、逃げるってねぇ……」
「しのごの言わずに私と決闘しなさい。私、アリス・ル・ベリルフォーランは、ルド・アーネストに決闘を申し込みますわ」
その言葉をベリルフォーランが言った瞬間、周囲のザワザワがよりいっそう強くなる。
「本気みたいだぞ、ベリルフォーラン嬢は」「どうなるんだ?」「受けるのか?」
などと言った声が聞こえる。
いや、正直俺には受ける理由はないし、女の子であるベリルフォーランと決闘なんて出来るわけないしな。
「貴族の男性は、決闘を持ちかけられて逃げるのは恥とされていますわ。受けなさい」
「いやいや俺、貴族じゃないし、平民だし」
「平民でもプライドくらいお持ちでしょう。女に戦いを持ちかけられて、逃げる気ですの?」
挑発してるつもりかもしれんが、腹が立ってくるような、挑発ではないしなー。
「いや、君が女だから戦えないっていうか、うん。やめとこうぜ」
「嫌ですわ! やると言うまで、付き纏いますわよ!」
えー、それは嫌なんですけど。
いや、可愛い子に付きまとわれるのはそれはそれであり……?
いやいや、ないない。
こんな負の感情を込めて見つめられながら、生活していたらストレスが溜まる。
仕方ない。受けるか。
「あー分かったよ。やるよ。やればいいんだろ?」
「受けるのですね。分かりましたわ。ただ、やる気なしで来たり、手加減して来たら、すぐ分かりますので、絶対に本気で来なさい」
いやー、本気を出すのはちょっとな。
でも、わざと負けるってのは、失礼な気がするから、一応ある程度、実力は出して戦うか。
まあ、怪我はさせられんから、なんとかして、危なくない攻撃で動きを止めて勝つ、みたいな方法を取る必要はある。
「そこの眼鏡の方。決闘開始の合図をお願いしますわ」
「ぼ、僕!?」
指名された眼鏡の方は、クルツだった。
ベリルフォーランに指名されて冷や汗をかいている。
「えーと……? じゃあ、ちょっと離れて向かい合ってください?」
自信なさげにクルツは言った。
俺とベリルフォーランは距離を取って向かい合った。
「じゃあ、3、2、1、始め」
合図があった瞬間。
ベリルフォーランが、素早く呪文を詠唱し、俺の胴体めがけて《フレイム》の魔法を放ってきた。
ちょ! いきなりかい!
俺はとっさに身体能力を強化する魔法、《フィジカルアップ》を無詠唱で使用し、辛うじてフレイムを避ける。
「!」
ベリルフォーランは避けられると、思っていなかったのか、驚いている。
直ぐに気をとりなおし、違う魔法を唱え始めた。
さて、ここでベリルフォーランを怪我をさせずに、勝つ方法はなんだろうか。
少し考え思いついた。
よし、この魔法を使うか。
俺は放たれた魔法を避け、手の平をベリルフォーランに向け魔法を使った。
「《敵を拘束せよ》」
カモフラージュの呪文詠唱をした瞬間、俺の手から複数の白い紐が放たれ、ベリルフォーランの手と足、そして呪文を詠唱出来ないよう口を縛った。
「んんん!?」
縛られたベリルフォーランが、呻き声を上げる。
今のは《バインド》の魔法。
相手に危害を加えず拘束する魔法だ
無属性の魔法だ。魔法には4大属性、火、氷、雷、土の他に複数の属性があり、無属性は、その他の属性の1つだった。
俺は手から出た紐を両手で握り拘束が、解かれないようにする。
ベリルフォーランは手足が拘束され、口が塞がった状態だ。
これではもうどうしようもない。
「これで勝負あったろ。俺の勝ち」
「んーーーーー!!」
ベリルフォーランは必死にもがくが、拘束は解けない。
……あれ? 決闘の勝ち負けってどうやって決まるの?
参ったって言わないと終わらんなら、この状態から終わらないじゃん。
どうしようかな、と考えている時、
「皆さんなんの騒ぎですか~? もう授業は終わりましたよ~」
ミローネの声だ。
騒ぎを聞いて駆けつけたようだ。
ミローネは、俺達の決闘を周りで見ていた生徒達をどかして、近づいて来た。
そして、《バインド》でベリルフォーランを縛っている、俺を見て、
「いじめーーー!? 私のクラスでいじめが発生!? 何してるんですか! ルド君! アリスちゃんを離しなさーい!」
「ご、誤解です! これは決闘していてですね」
ミローネは、決闘していた所をいじめと誤解してしまったようだ。
俺は《バインド》を解いた後、必死に誤解をといた。
「決闘ですか? いや、決闘だとしても駄目です! 仲良くしてください!」
誤解は解けたが、怒られてしまった。
生徒達がぞろぞろと実技練習場から、帰り始める。
ベリルフォーランは、拘束を解かれてた後、1歩も動かず俯いていた。
「あー、今回はミローネ先生に怒られたから、勝負はつかなかったって事で。今後は怒られるから、決闘はしない。いいな?」
と俺はベリルフォーランに声をかけた。
「っ!」
ベリルフォーランは俺を睨みつけてきた
その目には涙が浮かんでいた。
「ど、どうした?」
涙を見て、俺はうろたえながら、そう尋ねた。
俺が尋ねた瞬間、走り去って行ってしまった。
な、泣かせてしまった。
うーん、どうも彼女、学年で1番と言うのに固執していたみたいだから、負けて悔しかったんだろうか。
泣かせたまま放っておくのもな。
追いかけるか。
俺はベリフォーランを追いかけた。