第11話 決闘を申し込まれる
授業が終わり、俺は男子寮に向かった。
今日から俺は、寮で生活することになった。
運良く1人部屋だった。
誰か男子生徒がこの学院に、転入もしくは編入して来たら、そいつと同室になるだろうが、今は1人で使う事が出来た。
夜になり寝て、次の日、学院に通った。
教室に入ると、昨日よりクラスメイト達の俺を見る目が変わっていた。
昨日、実技の授業で、中級魔法を使ったのが、大きいのだろう。
何人かの生徒は、気さくに話しかけてきた。
そういえば、昨日俺に絡んで来た、ギーシュ達が教室に来ていた。
昨日の事が効いているようで、俺が教室に入ると一気に静かになっていた。
自分の席に着く。
すると、左隣からめちゃくちゃ見られている感じがする。
チラッと見てみると、俺の左隣にいるベリルフォーランが、俺を睨んでいた。
じーっと俺の顔を睨んでいる。
美少女に見られるのは、本来、悪い気はしないはずだが、これは見られるってより、睨まれるだし、ここまで負の感情を込められると、さすがに嫌だ。
「あの、何?」
何で睨んでるのか、尋ねてみた。
「何でもございませんわ」
ベリルフォーランはそう言うと、プイと正面を向いた。
何なんだ……
よく分からないが、昨日俺が中級魔法を使ったのが、気に食わないらしい。
1番じゃないと、気がすまないタイプなのかな。
それだけで恨まれるのは少し迷惑ではあるな。
まあ、直接何かされるわけでないのなら、別にいいけどね。
○
その後、退屈な座学が終わり、昼飯を食べた後、実技の授業が始まった。
昨日と同じく今日も、1学年の1組と2組が、合同で授業を受ける。
今日の教師は、昨日の男の教師ではなく、俺のクラスの担任の教師ミローネだった。
「今日は支援魔法の実技の練習を行いますよ~。支援魔法は軽視されがちですが、きっちり使いこなせば、ありとあらゆる場面で役に立てるようになる、とってもいい魔法なんです~。手を抜かずにきちんとやりましょうね~」
昨日は攻撃魔法の練習だが、今日は支援魔法の練習だ。
ミローネは支援魔法の教師らしい。
現代では研究が進んでおらず、微妙に軽視されがちな支援魔法だが、俺の前世の時代では、支援魔法はトップクラスで重要な魔法とされていた。
現代にはない4大支援魔法、これが非常に強力で、これをうまく使えるか使えないかが、勝負の明暗を分けたらしい。
ちなみに俺がギーシュを倒すときに使った、身体能力を強化する《フィジカルアップ》の魔法も、支援魔法の1つである。
まあ、現代にある支援魔法と言えば、魔法の威力を上げる《マジカルアップ》などは有用とされているが、そこまで役に立つ魔法は多くない。
《マジカルアップ》も使うのは結構難しいとされている。
少なくとも学院生であるうちに、使えるようになる魔法使いは、稀だろう。
ちなみに前世の俺は、どうも攻撃魔法よりも支援魔法の方が、得意だったみたいだ。
当然、今の俺も攻撃魔法より、支援魔法の方が得意である。
「は~い。では、支援魔法を使う前に、まずは2人組みを作ってください~。交互に支援魔法を掛け合いましょう~」
ペアになれと、ミローネから指示が出た。
「ルド。僕と」
クルツが俺と組もうと、近寄ってきた、ちょうどその時、
「ルド・アーネスト。私と組みなさい」
「え?」
と、ベリルフォーランが言ってきた。
「いや、俺はクルツと」
「私の誘いを断ると言うの?」
高圧的な態度である。
少しイラっとした俺は、
「だから、先にクルツが言ってきたから、仕方が……」
「い、いいよ! 僕のほうが若干遅かったからね、うん!」
俺が全部言う前に、クルツが自分から引いて、そそくさと、どっかに行った。
ベリルフォーランにびびったみたいだ。
クルツはいい奴だが、若干ビビりではあるよな。
「では、私と組みましょう」
「ああ……分かったよ」
少しうんざりしながら、返事をした。
「支援魔法は私の得意分野ですの。絶対に負けませんわよ」
「これ勝負じゃ無いからね。ペアなんだから。でも珍しいね、支援魔法が得意って、どうしてなんだ?」
支援魔法は、現代では不人気である。
その為、支援魔法を得意としている魔法使いも、当然少ない。
「あなたには関係ありませんわ」
わざわざ理由は教えてくれないか。
まあ、仲良くはないしな。
ただ、あっているかは分からないが、推測はできた。
恐らくだが、ベリルフォーランの最大魔力が少ないのが原因だろう。
支援魔法は、使いこなすのに技量がいるが、攻撃魔法より魔力消費量は低い。
なので、最大魔力が少なくても、レベルの高い支援魔法使いになる事は可能なのだ。
まあ、全て憶測に過ぎない。
人を支援するのが好きという単純な理由かも知れない。そんなタイプには見えないけど……
「皆2人組みになれたねー。あ、ボッチー君、余っちゃたんだ。じゃあ私と組みましょう」
余った奴がいたみたいだ。1人は出るよなこういうやつが、かわいそうに。
「今日みんなに覚えてもらう支援魔法はずばり《エンチャント》! 武器や防具に力を付与する支援魔法よー。支援魔法使いには基礎となる魔法で、同じ魔法でも使う魔法使いによって、大きく効果が変わるわー。この魔法をお互いに掛け合いましょう~」
エンチャントか。
どんな魔法かは、ミローネの説明で合っている。
覚える事は簡単に出来るし、使う事も出来るが、使用者の実力が未熟なら、ほとんど強化されなくなる。
前世の時代でも《エンチャント》は支援魔法として、頻繁に使われていた魔法だ。
しかし、《エンチャント》と言っても、いろいろある。
どんな力を武器や防具に付与するのかが、違うわけだ。
例えば、斬れやすくしたり、硬くしたり、属性を付けたり、いろいろだ。
「ルナシー先生。エンチャントと言ってもいろいろありますが、今日はどのエンチャントをするんですの?」
ベリルフォーランが、ミローネに質問した。
「今日使うのは、《ハードエンチャント》よー。かけた武器や防具を硬くするエンチャントです。倉庫に木剣があるので、それを取って来てくださいー。それと、同じく倉庫に鉄の人形があるはずです。この人形も倉庫から運んできてくださいー。1人では持てないので、複数人で運んでくださいねー。運ぶときは気をつけてください」
言われた通り倉庫から、木剣を持ってきた。
何故か倉庫にはこんなにいるのかと、思うほど大量の木剣が置いてあった。
人数分あるだけじゃ、足りないのか?
後、俺は運んでいないが、男子生徒4人がかりで、鉄人形を倉庫から運んできた。
「それじゃあ、説明するよー。2人組みの1人の方が、この鉄人形を木剣で攻撃します。もう1人の方は、狙いを定めて木剣に魔法をかけます。タイミングがずれたりすると、木剣が壊れてしまいますが、ちゃんとかければ、壊れずに攻撃できます。これを交互にやります。全員一斉に出来ないので、順番にやるので、自分の番じゃないときは、魔法を発動させる練習をしていてください」
「あのー質問なんですけどー」
「はい、なんでしょう」
女子生徒が挙手をして質問した。
「何でわざわざ攻撃している時に魔法使うんですかー? 攻撃する前に事前にかけておけばいいんじゃないですか?」
「いい質問ですねー。《エンチャント》の魔法は時間経過と共に効力が弱まります。なので実戦では、なるべく攻撃が当たる直前に、魔法をかけるのがいいんですねー」
ミローネが答え、女子生徒は「なるほどー」と納得していた。
「しばらく、魔法を使う練習をしてから、鉄人形への攻撃を行います。では練習を開始してくださ……あ、大事な事を言い忘れてました。呪文は《それを硬くせよ》です。さあ、気を取り直して、開始してください!」
しばらく、魔法を使う練習をした。
使う事自体は簡単に出来るし、俺も当然使える、ベリルフォーランも当然使えるようだ。
その後、鉄人形を攻撃する時間になる。
順番にやっていく。
成功する組は少なく、木剣が壊れてどんどん無駄になっていく。
木剣が大量に倉庫にあった理由はこれか。
木の無駄使いになるから、他の方法はないのかと思うんだが。
俺達の番が回ってきた。
ちょうど、他の生徒達が終わって、俺達は最後だった。
「私が最初に魔法を使いますわ。あなたは木剣を持って攻撃係りですわ」
俺は木剣を持ち、鉄の人形を攻撃した。
「《それを硬くせよ》!」
ベリルフォーランは呪文を詠唱し、《ハードエンチャント》の魔法を俺の持つ木剣にかけた。
俺は鉄人形に木剣を振り下ろす。
ガィイイインと衝撃音が鳴り響く。
俺の木剣は壊れておらず、少し鉄人形が凹んでいた。
「おおー! すごい」
「さすが、ベリルフォーラン嬢だ」
俺も少し驚いた。
ここまで、支援魔法を使いこなしているとは。
恐らく、彼女は《ハードエンチャント》の呪文を、この授業の前から、何度か自分で練習していたんだろう。
それも生半可な練習ではなく、かなりやってきているはずだ。
「ふふふ。次は、ルド・アーネスト。あなたが魔法を使う番ですわよ」
ベリルフォーランは得意げな表情でそういいながら、木剣を俺から受け取った。
そして、木剣を構え、鉄人形に斬りかかる。
俺は、いつもと同じように、無詠唱で魔法を発動させながら、カモフラージュの為の呪文を唱える。
「《それを硬くせよ》!」
支援魔法が発動、タイミングよく木剣にかけることもできた。
そして、ベリルフォーランが木剣を鉄人形に振り下ろす。
すると、
鉄人形が一刀両断された。
「え?」
「き、切れた!?」
この様子を見た周囲の生徒達が、1瞬ポカーンとした後、ざわめき始める。
「す、すごいですよールド君! まさか、鉄人形を斬るほど硬くできるとは~。学院生のレベルを遥かに超えてますよー」
さっきも言ったとおり、俺は支援魔法は得意だ。
《ハードエンチャント》は使い手により、その効力が変わるため、この結果になった。
「そ、そんな」
ベリルフォーランは唖然とした表情で、木剣をするりと手から落とした。
「今日の授業は終わりよー。いやー今年は優秀な生徒が多くていいな~」
ミローネが授業の終わりを告げた。
ぞろぞろと生徒達が実技場から立ち去っていく。
俺も出ようとしたその時、
「ありえない。私が1番じゃないといけないのに」
ベリルフォーランが何事か言っているのを、耳にした。
少し気になったが、かまわず出ようとすると、ベリルフォーランが、俺に近づいてきて、
「ルド・アーネスト……私と決闘しなさい!」
そう言ってきた。