第10話 中級魔法
「今回、お前らに覚えてもらう中級魔法は、氷属性の中級攻撃魔法、《アイスキャノン》だ。大きな氷の塊を作り、それを打ち出す魔法だ」
現代の魔法は下級、中級、上級、超級の4段階に分かれている。
俺が思い出した前世の知識では、魔法はS級からF級までの7段階に分かれていた。
アイスキャノンは前世の時代の基準なら、E級の簡単な魔法。
今の俺なら簡単に使える。
「呪文は《凍てつく氷塊よ、敵を撃て》だ! 最初にとりあえず使ってみろ! 先程と同じように、的の前に列を作って魔法を使っていけ!」
生徒達は、教師の指示に従い、先程と同じように、列を作り出した。
生徒達が呪文を唱える声が聞こえ始める。
ただ、皆、呪文は唱えるが、魔法を発動させる事は出来ていない。
魔法は呪文を詠唱したら、使えるというものではない。
言葉と魔力の線を結びつけるというか……少し説明しにくいが、とにかく呪文を唱える以外に、コツは必要だ。
消費する魔力量が上がれば、上がるほど、発動させる難易度はあがっていく。
中級魔法を1年生で、使いこなせる者は、かなり少ないだろう。
俺がいたミルドレス魔法学院には、何人かちらほらと中級魔法を使える者もいたが、現時点で使える者は1人も見当たらない。
さっきのベリルフォーランくらいかな、俺以外で中級魔法を使えそうなのは。
と、次ベリルフォーランの番みたいだ。
見ておこう。
ってあれ?
使えてないな。
ベリルフォーランは呪文を唱え、氷塊を作りはするのだが、一定の大きさまでなったら、氷塊が消滅してしまった。
何度も呪文を唱えるが、魔法は発動しない。
初級魔法とはいえ、あれだけ上手く魔法を発動できるから、てっきり中級魔法も使えると思ってたけど。
俺はなぜベリルフォーランが中級魔法を使えないのか、分析してみた。
うーん……これは魔力不足か?
魔力とは魔法を使う際に必要な、燃料だ。
全ての生物が有している。
現代では生まれつき最大魔力量は決まっていて、どう頑張っても伸ばせないとされている。
最大魔力量が低いと、使える魔法が限定される。
中級魔法を使うのに、必要な魔力量はそこまで多くない。
普通中級魔法を使えるくらいの魔力量はあるものだが、ベリルフォーランには無いみたいだ。
魔法を発動させるところを見ても、特に問題のある魔力の練り方、呪文の唱え方をしているようには見えない為、恐らく魔力不足が原因で、魔法が発動出来ていないものだと思う。
ちなみに先ほど下級魔法を使ったから、魔力が足りなくなったなんて事はない。
魔力は呼吸と共に体に取り込まれる。
下級魔法を使った時、消費した魔力くらいは、すぐ回復するので、魔力は全快状態だっただろう。
クルツが先ほど言っていた、ベリルフォーランの弱点とはこれか。
最大魔力量はなかなか伸びない。
少なくとも15歳以上の年齢で伸びる事は、現代ではほとんどない。
ベリルフォーランが、この学院に来たのも、現状の能力はトップクラスだが、将来性なしと他の学院からは判断されたのだろう。
最大魔力量が少ないというのは、現代においては、黒髪である、という事よりハンデを抱えていると思う。
それでもこの学院に入り、下級魔法をあれだけ上手く使うのは凄いとは正直思う。
それと同時に、現代でなく、俺の前世の時代に生まれていたら、賢者にまでなれていたかもしれないのに、とも思った。
現代では最大魔力量は上げることは出来ない、とされているが、上げられる方法が、俺が得た前世の知識の中にあった。
この最大魔力量を上げる方法が知れ渡ったら、ある物の価値が急上昇して、下手したら戦争にまで発展する恐れがあるので、ベリルフォーランに教える事は出来ないが。
「次、ルドだよー」
クルツが俺の後ろから、そう言った。
次は俺が中級魔法を使う番か。
さっきも言ったが、俺は《アイスキャノン》程度の魔法は簡単に使える。
さっきの授業で、ある程度魔法が使えるという事は、ばれたから、普通に使うか。
俺はまず無詠唱で魔法を発動させ、
「《凍てつく氷塊よ、敵を撃て》」
と言い、詠唱して魔法を使っているフリをして、無詠唱魔法を使った。
氷塊が発生させ、その氷塊を一直線に飛ばし、的に直撃させた。
「おおー!」
「すげー!」
俺が中級魔法を使った様子を、周りの生徒達は驚きながら見ていた。
「成功させた……」
「黒髪なのに……」
「凄いのがいるんだな黒髪にも」
俺が中級魔法を初めて成功させた事で、だいぶクラスメイト達の見る目が、変わっているように見えた。
「すごいじゃん、ルド! まさか中級魔法を使えるなんて!」
クルツが驚きながら俺を褒め称えた。
この程度の事で褒められるのも、何だと思ったが、こうやって皆から尊敬される事など、1度もなかったので、気分は悪く無いな。
と、俺は周りを見回すと、
ベリルフォーランが、信じられないものを見るような唖然とした目で、俺を見ていた。
その後、表情を変え、俺をギッと睨みつけてきた。
な、なんだ?
「あの黒髪のえーと、アーネスト君だったか。この学院に凄いのが入って来たな。ベリルフォーラン嬢より上かもな」
「お、おい聞こえてるって」
「あ、やばっ!」
そんな事を話す生徒がいた。
ベリルフォーランはその言葉を聞いていたのか、さらに表情を険しくする。
そして俺の方に、ずんずんと歩いて近づいて来た。
「あなた、ルド・アーネストと言いましたわね」
「そ、そうだけど」
ベリルフォーランは小柄なのだが、何故か威圧感があった。
思わず俺は怯む。
「ちょっと中級魔法が出来るからって、調子に乗らない事ですわね。1番はこの私です。中級魔法くらいすぐ使えるようになってみせますわ」
と俺を思い切り睨みつけながら言ってきた。
俺は、
「は、はぁ」
と言うしかなかった。
別に調子に乗ってるつもりはなかったんだが。
ベリルフォーランはそう言った後、授業が終わっていないのに、実技練習場を出て行った。
俺が中級魔法を使えたことが、かなり癪に触ったようだ。
悪い事をしたというわけでは無いので、追いかけて謝りに行ったりはしなかった。
その後、しばらくして実技の授業が終わった。
中級魔法を使える生徒は俺以外、現れなかった。
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