第一章 -少年期 続・葛藤編-
僕はBOOK-ONのゲームコーナーのド真ん中で10分いや20分悩み続けていた。
その間、4人の老若男女が迷惑そうに僕を横切っていった。
僕にとって一世一代の決断になることはわかっていた。
しかし、迷惑だっただろう。
だが、決めたのだ!
僕はバンドを組んで、密かに想いを寄せている鶴井結子さんと両想いになれる可能性は
ゲームの中ではなく、いやバンドの世界にあるのではなかろうかと確固たる決心をつけさせてくれた。
僕は手に持っていたゲームソフトをそっと棚に戻し、CDコーナーに向かった。
今までの僕よ!さようならだ!
僕は必至に洋楽の「S」見出しを探した。
ウウォーーーーーー!置いてない!
置いてないではないか!
僕の脳裏に一瞬、SSのゲームソフトをよぎるがそれは気のせいだと心に決めるのだ。
僕は変わるのだ!
僕は店内の出口を目指す途中でふと思い出す!
「ロンドンナイツ!」「ロンドンナイツ!」「ロンドンナイツ!」
あーすっかり忘れてた!
あのバンドを聴こうではないか!
僕は走って我が家を目指した!
母は仕事に行っていていない。妹も友達の家に行っていていない。
よし、「ロンドンナイツ」を聴こう!
しかし、部屋を見渡しても見つからないのでいろいろひっくり返してやっと
ベッドの隙間で申し訳なさそうに隅で息をひそめていた。「ロンドンナイツ」のCDを見つけた。
「おお!ロンドンナイツよ!すまなかった」と独り言を言った僕はゲーム機でCDを再生した。
おおおおおおおおおお!響くぞ!ぼくには響く!
なんてかっこいいバンドだ!
前回まったく響かなかったあのロックバンドがぼくには響く!
感動と感激のあまり頭を三度壁にぶつけた。
少し落ち着いたのでCDのライナーノーツを眺めた。
そこには楽曲の音楽的な解説やレコーディングのエピソード、時代背景や影響を受けたと思われるアーティストや作品の説明が書いてあった。
えーと、イギリスのバンドで新世代を代表するバンドになると書いてあり、影響を受けたアーティストは
「ビートルズ」!?
そうか、僕はバイト中いつも流れていたビートルズを聴いていた。
ビートルズがロンドンナイツと僕の距離を縮めてくれたのかと
自分の中で納得のいく答えた見つけられた気分だった。
そうか、そうか。
僕は微笑みを浮かべながらベッドで横になり、耳を澄ませることにした。
翌朝、走って早川たけしを探した!
学校前の校門で早川たけしを見つけ、小走りでたけしの肩を叩いた。
佐藤そう「たけしよ!バンドをやろう!今すぐやろう」
早川たけし「あっ、ああ!バンドな」とポカンとした顔で返事した。
佐藤そう「おれはロンドンナイツのようなバンドを組む!」朝からは少々暑苦しい顔で拳を振り上げていた。
HR中、クラスを眺め佐藤そうはこう思っていた。
みていろよ、クラスの同級生たち、おれはロックバンドを組み、でっかい男になってやるぞと
そして、密かに想いを寄せている鶴井結子の後ろ姿を眺め、何度もうなずきながら微笑んだ。
その週の土曜日、僕たちは互いに先月一生懸命働いて稼いだお金を握りしめ楽器店に向かっていた。
佐藤そう「たけしよ、いよいよだな」
早川たけし「そうよ、そうだな」
僕たちはマーベルヒーローのように堂々と並んであるいた。
並んで歩いている時にティッシュ配りにお兄さんがニコニコとポケットティッシュを差し出した。
受け取ったポケットティッシュには「泡姫」と書いてあり水着の女性がニコニコとしていた。
馬鹿め!!お兄さんよ!
ぼくは泡姫といちゃいちゃしに来たのではない!楽器店に来たのだ!
見ていろ!クラスのリア充同級生よ!見ていろ!泡姫よ!
楽器店の場所はたけしが事前にインターネットでチェック済みなので
まったく迷わずにたどり着いた。
なんという、楽器の数、いやっ、ギターの数だ!
佐藤そうと早川たけしはニコニコしながら顔を合わせた。
さっそく、ギターコーナーに向かった。
佐藤そうと早川たけしは周りをきょろきょろと眺めていた。
楽器屋の店員にピアスを唇にしたロン毛のお兄さんが近寄ってきて、声をかけてきた。
ピアスのロン毛店員「ギターをお探しですか?」
佐藤そう「はっ、はい」 早川たけし「ギッ、ギターをください!」
ピアスのロン毛店員「ありがとうございます(苦笑)。はじめてですか?」
なぜっ、初めてだとわかった!? この店員さんやるな!
と佐藤そうと早川たけしは驚いた。
佐藤そう「そうです!初めてです。」
早川たけし「おすすめはありますか?」
ピアスのロン毛の店員さんは顎を出すように返事して、向こう側のギターコーナーに歩いていった。
ピアスのロン毛店員「これなんてどうです?」とギターの方に指さした。
ボディに大きな穴が空いたギターがそこにあり、二人は頭を少し傾げた。
早川たけし「なんか、少し違うようなぁ」とつぶやくように店員さんに言った。
ピアスのロン毛店員「えっ、アコギじゃないんですか?」
違うぞ、ピアスでロン毛の店員さんよ!
僕たちが探しているギターは穴は空いてないぞ!
ピアスのロン毛店員さんは、頭を少し傾げながらエレキギターコーナーに案内してくれた。
そう!そう!これだよこれ!
やっと二人は目的のギターを見つけ、値札を見た。
佐藤そうと早川たけしは口をOの字にして驚いた。
「8っ、8万円!!」
僕らが先月バイトして稼いだお金はだいたい10万円だった。
8万円が消えた自分の財布を想像しながら、
つらかったバイトの日々をお互い思い出した。
指で計算している佐藤そうに早川たけしは言った。
早川たけしは「そうよ」と声をかけ深く頷いて店員さんに言った。
早川たけしは「店員さんちょっと考えてからまた来ます」
佐藤そうは唖然とした顔をした後、足早に出口に向かうたけしを追っかけながら店員さんに一礼した。