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Blond's and X  作者: 川咲弐号
3章  本気を教えてあげようじゃないか
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14

 ◆ ◆ ◆ ◆


 その後、少し場の雰囲気が戻った頃にクィルターは相談所を去り、アトリとジェーンは食器の片づけや部屋の掃除、キールは着替え直してから机に向かって書類作業を始めた。

 そのまま時間がゆったりと流れ、今日はこのまま終わるかに見えた――そんな夕刻。

 手土産を持ってハリソンが様子を覗きに来た。

 手土産のタルト・タタンに喜ぶ女子二人とは違い、キールはハリソンの手にあるもう一つに目がいく。


「その封筒は? なんか真っ白で何も書いてないように見えるけど」

「さあな。ここの玄関扉の下に挟んであったんだが。誰かが扉の前に立ったのを見なかったのか?」


 相談所の玄関扉の一部は、曇りガラスが嵌め込まれている。扉を開ければドアベルが鳴るが、そうでなくともガラスにシルエットが映る事で客の来訪を知る事も出来る。


「ん~、どうだったかな。俺は書類作業で下見てる事多かったし、二人も掃除を本格的に始め出して結構バタバタしてたからな~」

「とりあえず相談所宛てなのは間違いないだろうから、開けてみたらどうだ?」


 言われて、キールは封筒を受け取ると開封する。

 中に入っていたのは、二つ折りの紙切れ一枚。

 それを開いたキールの顔色が、目に見えて変わった。何事かとハリソンとジェーンも覗き込み、身長の足らないアトリはハリソンの肩に飛び乗り、そこからキールの手元を見下ろす。

 アトリが印刷された文字を声に出して読む。


「『邪魔をしたあなた達を許さない。あの夜のような失敗はもう繰り返さない。必ず手に入れてみせる。また邪魔をするなら容赦はしない』……?」

「こりゃ紛れもなく脅迫状だな」


 驚いた風もなく暢気な声で言うハリソンは、それどころか馬鹿にしたように苦笑する。


「あーあー、それにしてもこの犯人。新聞や雑誌の切り抜きで文章を作らず、未だにタイプライターや活版印刷が息づいてるアヴァルで、インクジェットだかレーザーだか知らないが今時の印刷技術使う時点で素人の犯行だな。手書きだと当然筆跡で足が付くから印刷にしたんだろうが、こんな印刷機がある場所に出入り出来る人間は限られてくるだろうな」

「そしてそれがジェーンを狙う犯人。“あの夜”の事を知っているのは私達と警察、あとは犯人だけ。しかも暗闇のあの状態で、相対したのが私達相談所と知ってのこの脅迫。でも私の目が黒い内は、ジェーンに指一本触れさせない」

「お前の目は紫だがな」


 目を鋭く細めるアトリに、ハリソンがその額をコツンと小突いた。それによって険しかったアトリの表情が和らぐ。


「なんで、こんな……」


 当事者――ジェーンが呟く。

 それが引き金となったようで、堰を切ったように言葉が溢れ出てくる。


「なんで私なの!? 私がこんな目に遭わなきゃいけない理由って何!? 手に入れるとか訳分かんないわよ! 乱暴したいって事!? 売り飛ばすって事!? それとも殺すって事!? なんなのよ! 気持ち悪いのよ!」


 元来の性格の為か今まで気丈だったジェーンも、決してストレスを感じてなかったわけではないのだろう。溜め込んでいたからこそ、ここに来て心に掛けていた箍が崩壊し、思いが爆発してしまった。


 ああああぁぁああぁぁぁあああぁぁぁぁ――――


 ――ジェーンは自身の体を掻き抱くようにして、そんな悲鳴とも咆哮とも言える叫びをあげる。

 腕を掴む手の力が強く、柔らかい肌に爪が食い込む。強く瞑る瞼からは涙は流れていないが、目尻が赤らんで見える。

 ヒステリックという言葉で片づけるには、あまりに悲しく痛々しいものだった。


 そのジェーンの手を腕から引き剥がすように、不意に横から伸びた手が掴む。


「……キール?」


 しゃくりあげたような声でジェーンが言う。

 アトリとハリソンが、『あーあ』とでも言いたげな表情で様子を窺う。


「珍しく本気で怒ってる」

「無理もない。脅迫、誘拐の類は一番嫌うところだ」


 握られた手を見つめていたジェーンは、おもむろに視線を上げる。

 手の主――隣に立つキールの琥珀色の瞳の奥に、まるで暗い炎が燃えているかのように、何か揺らめいているものがある。

 その強烈な感情がどこから来るのか、ジェーンは困惑した顔で見入る。

 キールは、ジェーンと繋いだままの手に力を込める。


「上等だ。この相談所がどんなところか――本気を教えてあげようじゃないか」

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