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Blond's and X  作者: 川咲弐号
3章  本気を教えてあげようじゃないか
24/37

6

     ◆ ◆ ◆ ◆


 相談所のあるビルに戻ると、その前に車が止まっていた。青いパトランプの付いた車両に、ジェーンが顔を青くする。


「パトカーが来てるわよ! もしかして、昨日の夜、爆発で道を壊しちゃったのバレたんじゃないの!?」

「そうと決まったわけじゃないんじゃ? あの場にいた人以外、目撃者もいなかったと思うし。とにかく、話は本人達に訊いてみますかね~」


 キールの視線の先、相談所の扉の前に警察官が二人立っていた。

 ジェーンには、一階にあるビルのオーナーの部屋で待っているように言うが、どうしても立ち会うと押し切られ、余計な口を挟まない事を条件に、三人揃って三階へと向かう。

 上ってくる足音に気づいたようで、三階に着いた頃には、扉の前にいた二人は階段の方を向いており、現れたキール達を見るとネクタイを直し踏ん反り返る。


「やあ、朝から揃って外出とはまた依頼調査か? 精が出るな、相談屋」

「そちらこそ、朝早くからこんな所までご苦労様ですね。調子はどうですか、アイアンズさん」


 どちらも嫌みの籠った言い方だったが、違うのは先に吹っ掛けたアイアンズが渋面だったのに対し、受けたキールの方は満面の笑みだった。その売られたから買った悪意のない笑顔が、アイアンズの神経を逆撫でしたようで、眉間の皺が更に深くなる。

 キールは人好きのする犬顔で、アイアンズの後ろに控えていた男にも声を掛ける。


「君もお疲れ様。えー、あー……ヘリクツくん?」

「ヘリングだ! もうお前わざと言っているだろ!」


 吠え掛かられてもどこ吹く風で、キールは二人を部屋の中に招き入れる。

 ヘリングがまだ不満そうにしていたが、ふとその手を見ると包帯が巻かれている。


「あれ、怪我してる? 一昨日会った時は、なんともなかったはずだけど」

「ふん。お前に気にされる覚えはないが。単に、捜査中に危害を加えられただけだ」

「危害、な」


 含みをある言い方をするアイアンズに、ヘリングが「アイアンズ警部!」と慌てる。余計な事は言うなという事なのだろうが、よく分からずキールはぽかんとする。

 キールがヘリングを気にしたように、アイアンズにも気になる事があるようだった。さっきからそんな素振りを見せてはいるが、その目の動きを相談所側の人間はあえて気づかない振りをしている。

 だがアイアンズの方もその事に気づいていたらしく、我慢ならずストレートに来る。


「おい、雇われ所長。その娘は新しいバイトか何かか?」


 最後尾で部屋に入ったジェーンを、親指で指し示した。扉を閉めた状態のまま背を向けているジェーンが、緊張で体を硬くしたのが分かる。

 キールは情けない顔で苦笑する。


「まさか! うちに新しく人を雇うような、そんな金銭的余裕ありませんって。彼女は俺とアトリの“友人”です」


 あくまで“依頼人”とは言わず、それでも話をそちらに向ける。


「それにしても、タイミング良かったですよ~。この子、昨日ストーカー被害に遭って、丁度警察に話に行こうと思ってたんです」

「ストーカーだ? ……部署違いだが話だけは聞こうか」


 キールではなくジェーンの方を向き、ソファに腰を下ろしながらアイアンズが言った。

 今までの事と昨日あった事を、出来る範囲でジェーンの口から、たまにキールが助け船を出す形で語る。その間にアトリは人数分の紅茶を用意し、ソファの前のテーブルに並べる。アイアンズとヘリングに出す時だけ、微妙にソーサーが強く鳴ったのは気のせいではない。

 一通り事情を聞いた所で、アイアンズの隣に座るヘリングが鼻を鳴らす。


「キール・マンティス、お前は馬鹿か? そのストーカー犯が誰かも分からないのに、どうやって警告や最悪逮捕するというんだ?」

「それなんだよな~。一応アトリがちょっと撃退した時に、相手がどこか怪我をしてたって言ってるけど」


 ジェーンが「ちょっと……かしら」と何か言いたげだったが、キールは気にせず続ける。


「つまり、体のどこかを怪我してて不審な人物がいたら、その人が犯人って事かな~なんて?」

「不審者ね」


 そう言いながらアトリが視線を向けたのは――


「……は? 僕か!?」


 ヘリングは、アトリの目が自分に向けられるのに気づき、自分で自分を指差す。


「じょ、冗談でも止めてくれ! 僕は疾しい所なんて何も……」

「手を怪我してる。それの話をした時、落ち着きない様子だった。即ち不審者」

「あれは違う! 捜査機密で詳しくは話せないが、とにかく違うんだ!」


 大の大人が少女相手に、たじたじしつつも必死で言い訳している姿はどこか滑稽に見え、キールとジェーンは笑いを表に出さないようにしているが明らかに漏れている。

 上司であるアイアンズも、呆れた溜め息を吐く。


「何が、『捜査機密で』だ。猫に引っ掻かれただけだろうが」

「ア、アイアンズ警部!」

「聴き込みで行った家で、女性が抱きかかえていた飼い猫の反感を買ったわけだが。あれはヘリング、お前が悪い。容疑者でもなければ関係者ですらない一般市民に、必要以上に高圧的な態度を取るからだ。お前が女性に苦手意識があるのは知っているが、相手の女性も戸惑っていたじゃないか」

「アイアンズ警部――ッ!! 本当にもう、そのぐらいで勘弁して下さい……」


 ヘリングが右手で顔を覆う。アイアンズも流石に小言を止める。ここがどこか誰の前か失念していたようだったが、時既に遅しである。


「いやはや、猫に引っ掻かれて怪我する刑事なんて。格好悪いな~、ヘリングくん」

「その、私は初めましてですけど……ごめんなさい。格好悪いです」

「今度ばかりはキールに同意。格好悪いと思う」

「お……お前等……」


 ヘリングは拳を握り震わせるが、それが振り下ろされる事はなかった。

 わざとらしく憐れむような笑いを浮かべていたキールだが、不意に笑顔を引っ込める。


「んあ? 猫か~……」

「キール? 何か?」

「ん~、なんでもない」


 キールが頬を掻き返事をしたがなんとなく流され、アトリは首を傾げた。

 紅茶に口をつけ、空のカップを置いたアイアンズが事務的な声で言う。


「ともあれ、その件に関しては担当部署には伝えておこう。ただ出来る事は限られる。ジェーン・オベールさん、だったか。彼女の家と大学の周辺に見回りを増やす、それ以上の事は難しいだろう」

「そうですね。神隠し事件の事もあって、巡回強化は元々する予定でしたし」


 ヘリングも頷いた所で――

 ガシャンッ! と急に大きな音がした。

 その場にいた誰もが驚き、音の震源地へと目を向ける。

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