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暗い会場で、舞台上にスポットライトが当たる。
その輝かしい光の下、舞台の中央に年若い乙女達は身を寄せ合って座っている。
四人の乙女――その中心にいる、腰までの黒髪を一本の三つ編みにした一番年上の女性が、他の少女達を包み込むように触れる。
「――私達は、変わらず信じましょう。例え彼を信じるのが私達だけになったとしても、神がいる世界には違わず救いがある。そう、私の時がそうだったように。世界が愛の記憶を失わない限り、人と触れ合い温もりを感じる限り、きっと神は平和を私達の下に齎してくれるわ」
黒髪の女性は三人を抱き締め、温かい昼の日差しのように朗らかな微笑を湛える。
黒髪の女性よりは若いが、三人の少女の内で一番年長の栗毛の少女が、女性の腕から離れ、すっくと立ち上がる。
「そうよ、父さんは何も悪い事してない。きっと無実だと分かって、すぐに帰ってくる。それまで私達で家を守るの」
「ほんとう? パパかえってくる?」
一番年下のまだ舌足らずの少女が、黒髪の女性の胸に埋めていた頭を上げる。胡桃色の髪が、涙の通った後の頬に張りついている。
「ママみたいに、いなくならない?」
「当然じゃない!」
もう一人、亜麻色の髪に特徴的な赤い瞳の少女が、栗毛の少女の隣で立つ。胡桃色の髪の少女より年上で、栗毛の少女よりは年下だが、三人の中で一番力強い眼差しで拳を握る。
「お母さんの命日には、ヴィオレッタも入れて五人でお墓に行って、お母さんにヴィオレッタを紹介するって約束したんだから! なのに、お父さんが逮捕されるような事するはずない!」
亜麻色の髪の少女が、客席に背を向ける。見えずとも、目を擦る仕草で泣いている事が分かる。
その肩に、栗毛の少女がそっと手を添える。
それに呼応するかのように、胡桃色の髪の少女もまた泣き出しそうになるのを、黒髪の女性がその頭を撫でて宥める。
「旦那様は大丈夫ですよ。あなた達のような可愛い娘達を置いて、どこかへ行ったりしません。あなた達の傍が、旦那様の帰る場所――帰ってくる場所があるのは幸せな事です」
少女三人が再び胸に飛び込み、黒髪の女性が光を見上げ――舞台は暗転する。
――舞台劇『ティアーズ・オブ・ラブ』第三幕 四場――