6話:勇者&魔王の娘
現状を説明しよう。
安宿で、絶世の美少女と、2人きりで、ベットに座っている。
すまん、それなんてエロゲ?
「ごめんなさいなの、私の分の宿代まで出してもらって」
「いや、僕こそごめんね。2部屋は資金的に難しくて……」
昨日と同じ宿に泊まった。
いつまでも路地裏に居るわけにもいかず、彼女に僕が着ていたブレザーを着せて申し訳なかったけど僕の肩に寄り添って片耳を隠してもう片耳に手を当てててもらった。
それで落ち着ける場所といったら、この宿しか分からず……。
決してラブホとしてとったわけじゃない。だから女将さんに昨晩はお楽しみでしたね?とか言われるわけない。
確かに寄りかかられた時は、甘いにおいがしてドキドキしたけどそういうのはない。
「それで君は……魔王の娘……なんだよね?」
「そうなの、正確には前魔王なの、今の魔王は私の弟……になるの」
「お、弟……失礼な事聞くけど君は何歳?」
「私?私は16歳なの」
お巡りさん、僕です。じゃなくって……。
「き、君の弟は?」
「7歳なの……」
「7歳で魔王!?」
「魔族内でも知ってる人はほとんどいない話なの、前魔王、つまり私のお父様は殺されたの」
……いきなり物騒な話になったな。
目を伏せて静かに続きを語る。
「私は知ってるの、お父様の側近だったストラス・ド・アウリックって男がお父様のワインに液体を注ぎ込んでたの。……そしてその晩、お父様が突然死んでしまったの」
「なるほど……それは確かにすごく怪しい。遅効性の毒か何かかもしれない」
「それで、そのストラスって男がサイベリアンから送られたワインに毒が入ってた! って騒ぎ立てて突然戦争なの……。それに私はまだ幼くて政治もできないという話になってストラスが摂政になって私の話は誰も聞いてくれなかったの」
ますますストラスという男が怪しい。国を乗っ取ろうってわけだ。
「それで私は助けを求めるためにこの国にきたの」
「そういうことだったんだな、でもなんで僕に頼む?他にも強い人はたくさん居るだろう。冒険者ギルドとかクランに頼んでみればいい」
「それも考えたけどダメなの……私が魔王の娘だって証拠がないの。魔族だって殺されるか、奴隷にされて終わりなの」
「それじゃなんで僕に? 僕が君を殺したりするかもしれないって」
「あなたは何の見返りも求めずに私を暴漢から助けてくれたの、フードが取れて魔族だってわかったはずなのに」
……いやまあ知らなかっただけなんだけどね。
「それであなたならって思ったの、もう他に手がなかったとも言うかもなの……」
「あはは、後者が強いんじゃないか? まあ僕も『勇者』として呼ばれてる以上魔王……じゃないか、摂政を倒すのを手伝おう」
まぁ本当はそんな気さらさらなかったけど、美少女の頼みじゃしょうがない。うん、しょうがない。
「ありがとう……えっと……」
「そういえばお互い名乗ってなかったね、僕は杉本 悠斗」
「すぎもと……ゆーと……」
「うん、ファミリーネームが後から来るならユウト・スギモトだ」
「わかったの、ユート。私はシャルロット、シャルロット・ド・ラガマフィンなの。ユートの国ではラガマフィン・ド……ド・シャルロットっておかしいの……ド・ラガマフィン・シャルロットなの?」
「……あは、あはは。ううん僕の国でもシャルロット・ド・ラガマフィンで大丈夫だよ。よろしくね、シャルロットさん」
「ロッティでいいの、よろしくユート」
そして二人は熱い夜を過ごしたのだった。
とはならない、そもそもまだ夕方だ。
「ロッティ、そろそろお腹すいてきたしご飯いかないか?」
「でも私お金、持ってないの……」
「いいよいいよ、って言っても僕もお金あんまりないからあんまりごちそうできないけどね」
そう言いながらドアを開けて部屋を出て食堂に向かう。
耳を隠す手段がないから残念だけどローブで顔を隠してもらった。
宿に入るときは彼女の格好を知っている兵士さんにばれないように、ブレザーを着てもらっていたけどローブの上からブレザーは珍妙だった。
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食堂につくと宿の受付をしてくれた女将さんがいた。
「あらあらあら、若いっていいわねうふふ」
「ちょっと勘違いしないでください、そんなことしてないですししないですよ!」
「あらあらかわいい子なのにもったいないじゃない」
ロッティは頭上に?を浮かべてる。分かられても困るけど分かられないのもそれはそれで……。
僕たちは席についておばさんに2人分のご飯を頼んだ。宿は1部屋しかとってないけどご飯はおまけしてくれるようだ。優しい。
「ねぇ、ユートは勇者なの?」
「一応そうなのかな、戦いに自信はないけど……ね」
「戦いに自信がないの?」
「僕がもともといた国は平和だったからね、正直剣すらまともに振れる自信がないよ」
苦笑しながら言ったが事実だ。
運動神経は悪くもよくもないただの学生だった。
「でもユートは体もしっかりしてるし、剣だって持ってるじゃない?」
「剣は冒険者ギルドの人にもらったんだ、体は……なんでだろうね、体育のおかげなのかな……」
「そうだったの……ごめんなの、そんなユートにあんなこと……」
「いやいいよ、この世界に来ちゃって戻れないし、ならロッティの力になりたいんだ」
そんなときにタイミングよく料理が届いた。
かすかに茶色っぽいシチューのようなものと食パン2枚にロールキャベツが2個。
それが2人前のようだ、これで1アルグなら安いだろう。
「さ、冷めないように食べようか?」
「なの、ユートご飯ありがとう」
「いいからいいから、いただきます」
「いただきます?」
ロッティが、きょとん? と見る。
「こっちにはないのかな?食前の挨拶」
「そんなものないの、どうしてするの?」
「僕の国ではご飯になった動物の命や、野菜を作ってくれた人、それにご飯を作ってくれた人に感謝して、頂きます。って挨拶するんだ。僕が好きでやってるから気にしないで」
「私もそれ気に入ったからするの、ユートにも感謝して。いただきます、なの」
「はは、どうぞ召し上がれ」
その後異世界と日本の文化の差を話しながら食を進めていった。
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「さて、ご飯も食べたし部屋に戻ってきたしゆっくり休みたいところなんだけど」
ロッティに話さなければならない問題がある。
「ロッティ、聞いてくれ」
「どうしたの?ユート」
「薄々感づいているとは思うけど、お金がない」
「そうね、明日から頑張らなくちゃ」
「違うんだ、聞いてくれ。今残ってるお金が4アルグなんだ。それで明日僕に入っている仕事の報酬が1アルグと50クブラ。この宿に泊まるのに2人で4アルグかかる。都合よく明後日の仕事が見つかっても明後日からは……」
「……」
「正直に話すとロッティと国を取り戻しに行く、まで保証できない。それに話した通り僕は戦えない。剣も使えなければ、魔法も使えないんだ」
「魔法、使えないの?」
「うん、まったく。僕のいた国、ううん世界に魔法はなかった」
「それっておかしいの」
「え?」
どういう事だろう。でも実際に魔法が使えるなんて人はしらない。
異世界の人は全員使えるとかそう言う事なのだろうか。
「魔法はね、得意不得意関係なく誰でも使えるものなの。どんなに火属性が苦手でもロウソクに火を灯すとか、どんなに光属性が苦手でも暗闇で足元を照らすこともできるの」
「でも僕らは実際に使えないんだ」
「それはどこかで途切れちゃったの、魔法は魔法が使える人が使えない人に魔力を一部与えることで魔力が認識できるようになるの」
「ということは僕も魔法が?」
「そうなるね、ちょっと額を出してほしいの」
「こうかな?」
僕が前髪を上げると、ロッティが手を伸ばしてきた。
あ、ひんやりしてきもちい……。
「少し痛いかもしれないけど我慢なの」
え、あ、ちょ――――……。
その瞬間刺すような痛みに耐えられずに意識を手放した。