4話:邂逅
それにしてもいろんな意味で太っ腹で親切なおじさんだった。
そう思いながらおじさんに勧められた宿に歩を運ぶ。
メイドさんに案内されてた時は混乱しすぎて周りがよく見えてなかったけどパッと見はヨーロッパだ。
石造りの建物が並んでいる。
違うところは剣を差している人が多いところか、とは言ってもプレートアーマーしてる人は居ないな。……あ、革鎧の人がいた。
そういえば『魔法』もあるんだよな、日本人は魔力が強い! ……みたいな話はないかねー……他にも日本人が召喚されてきてるみたいだしそういうのもないだろうな。
でも使えるものなら使ってみたいし引っ越しの手伝いが終わったらギルドのおじさんに話を聞いてみよう。
技術チートしようにもただの学生だった僕にできることなんて少ないし、このギルドでもらった地図、もう地図しかできないこと以外はタブレットだよなぁ。
そんなものをポンポン渡せるこの異世界に技術チートできる知識は無い。都合よく銃の作り方とかもわからない。
……異世界召喚されたのに俺TUEEEEE!できないとかもうどうすればいいんだろう。
ひとまずまだお昼をまわったところって言う太陽の傾きだし地図もあるしこのサイベリアンを探索しよう。
――――――………なんでこうも勇者に関しては王道じゃないのに王道なイベントが起きるんだろう……。
「よぉ、お嬢ちゃん、俺たちと一緒にイイ事しようぜぇ?」
「そうそう、俺たちテクニシャンだからよぉ~満足させてやるぜぇ?」
「なぁなぁなんか言えよぉ」
端的に言えば女の子が暴漢3人に囲まれて襲われかけてた。
いや、正確には女の子なのかもわからない。暴漢からは顔が見えているようだが、僕からはフードに隠れて顔が見えない。ただ暴漢がお嬢ちゃんって言ったから女の子なのだろう。……男の娘じゃなければ。
……いやね? そりゃ定番ですよ、これで暴漢をやっつけて美少女に惚れられる。いいね。
そりゃ勇者様として加護を受けていたら考えることなく助けたけど僕はただの元学生、現勇者難民。
多分返り討ちに遭うだけだろう。
大通りへの近道の路地裏なんて通ったのが間違えだったか。日本みたいに治安よくないんだな。いや日本でもあるか……。
「嬢ちゃんよぉこんなフード被ってないで取ろうぜ、かわいいお顔かくしてちゃもったいないぜ」
そういいながら男がフードをとった瞬間。
――――世界が止まった、かのように思えた。
ふさふさのまつげ、意志の強そうな赤いつり目、桜色の小さな唇、その唇を悔しそうに噛む八重歯、すっとした鼻、茶色いすこしウェーブのかかった髪、そして――とがった耳。
まぎれもない美少女、いや美少女というのもおこがましいかもしれない。
そんな美少女が目じりに涙を浮かべながら暴漢をにらんでいる。
なぜか暴漢は目を見開いて固まっている。
――考える前に手が出ていた。後ろから一番右の暴漢にフックをたたき込んだ。
あまり力は強い方ではないが、不意を突いたのが功を奏したのか殴られた男がよろけて隣の男に激突して2人が倒れた。
「何すんだてめぇ!」
残った暴漢が叫びながら殴りかかってくる。
避けようとしたけど間に合わなそうだった。
最低限、顔を腕で守ろうとした。
けれど、衝撃は一向にやってこなかった。
恐る恐る視界を開くと、壁をへこませて倒れている男性と後ずさりしている2人の男だった。
1拍、置いた後2人の男は倒れた男を引きずりながら逃亡した。
「ひ、ひぃ! 魔族!」って悲鳴を上げながら。
――魔族、この国からするとまごうことなき敵国の人間だ。ん?魔族って人間なのかな? まぁそれはいい。
彼らの言動からすると、助けた? 美少女が魔族という話になるのだろうか?
尖った耳が魔族の証、という話なのかもしれない。
固まっている僕をよそに、美少女はフードを深くかぶり直してこちらに向かってきた。
「ごめんなの」
すれ違いざまにそう言い残して彼女は去って行った。
……はぁ、びっくりた。
肩の力を抜いて、地面に座り込んだ。
ついてないよなぁ、いろいろと。
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5分ほど路地裏に座り込んでいたが、先ほどの暴漢のような人に絡まれる可能性を否定できずに勇み足で大通りに向かった。
踏んだり蹴ったりな1日だったので宿をとって休むことにした。
冒険者ギルドのおじさんが勧めてくれた宿は武器屋を曲がったところにあるらしい。
通りから見た感じではやはり剣や槍などの武器が多く感じた。
剣と魔法の世界……なんだよなぁ。はぁ。
「おら、さっさと運べッ!」
怒りを孕んだ声が聞こえてきた。
何事かと思い声の方を向くと、ボロきれのような服に黒い腕輪をした男が1人では持てなそうな大きさの木箱を運んでいた。
「やーね、いくら魔族の奴隷って言ったってあの扱いは」
宿から出てきたのだろうか? エプロンをまとった、ふくよかな女性が居た。
……奴隷か。小説などでは主人公が買ったりすることもあるけど、正直に言うと日本で暮らしていたから忌避感が強い。
もちろん会社の奴隷になっている人とかは、居るらしいけど……。
「えっと、この宿の女将さんですか?」
「そうよー、泊りのお客さんかしら?」
「はい、今晩お願いできますか」
部屋が埋まってしまっていたらどうしようかと頭によぎった。
「もちろんよ、泊まっていってちょうだい」
杞憂だったようだ。
そのまま女将さんの宿に1泊させてもらった。
1日食事付きでアルグ貨4枚、4000円と考えれば安いと思う。
食事はイワシのパイみたいなものと、ライ麦パンとミネストローネ風スープだった。
ご飯を食べ終えた後、部屋に戻ってきた僕は、藁を敷いた上に布を被せたベッドだったがすぐに眠りに落ちた。