2話:勇者難民
「――ふぅん……日本出身なのね。はぁ、特技とかはある?」
明らかに落胆した様子で茶髪の男性にため息をつかれる。
なぜこうなったかというとメイドさんに、木で作られたテーブルとイスが2つある赤い絨毯の敷かれた面談室に連れてこられて勇者面談官という役職の男性と2人きりにされた。
さながら、就職の面接のような状況に陥ってしまった。
イメージと少し違うのは面談官さんの服装だろうか。麻色のローブにベルトをしており、その上にベストのようなものを着ている。
高校生をしていたから、就職の面接を受けたことはなくて本当にイメージでの話だけど。
「特技……ですか……」
僕は召喚される前は高校生だった。
どちらかというとインドア趣味でサブカルに精通してる、いわばオタクだった。
教室の隅で3、4人でアニメの話やゲームの話で盛り上がってるグループの一員だった。
とは言っても虐められてたわけでもないし、引きこもり気味だったわけでもない。
「えっと、そうですね……。オンラインゲームが少し得意でした」
「おんらいん……げーむ?」
所謂、ネトゲ。
ライトノベル等に、ありがちなVRMMOというわけではないけど。
一般的なMMORPGだったが、一年に一度開催される戦技大会でベスト4をとったこともある。
「そうですね……仮想世界でモンスターとかを倒す遊びですかね?」
「モンスターを倒す遊び……闘技場とかそう言うものかな……いやでも日本に争いとかはないという話だったはずだが……」
ぶつぶつ言いながら、面接官さんは考えているようだ。
そもそもなんで、召喚された結果面接を受けるという現状に陥っているのか?
疑問をそのまま面接官さんに聞いてみよう。
「すみません、考えを中断するようで悪いのですけどなんで僕は面接を?」
「ん?ここに案内したメイドが説明したはずだけど……」
「……されてませんね」
「はぁ……まーた失念しやがったなあのメイド」
あのメイドさんは、よく失念するらしい。
そういえば、さっきも失念してたな……。
「この国はサイベリアンって言うんだけどそれは聞いたかな?」
「はい、最初は教えるのを失念されましたけど……」
「ったく……んで、この国の北にラガマフィンっていう魔王国があるんだけど」
お約束ですね、魔族vs人族の戦争だ。
「ラガマフィンに住んでいる魔族は魔法の扱いに長けていて戦闘能力ではこの国の兵士3人分の強さがあると言われている。個体差はあるだろうがね?」
テンプレである。
つまり……。
「でも数が少ないって言うお約束!」
「そのお約束がなんの約束なのかは分からないけど戦争前の人口に差はたいしてなかったよ」
「そりゃ攻め込まれるぅ!?」
相手1人1人が3人分の強さを持っていて、人数が同じとかどうぞ攻め落としてくださいって言ってるようなもんじゃねぇか!
面接官さんは苦笑しながら続きを話し出す。
「そういう訳で、戦況は芳しくなくてね、藁にも縋る思いで古代魔法で、異世界から勇者である君達を召喚させてもらったわけだ」
はいはいテンプレテンプレ。
「そこで呼び出された期待の勇者が僕であるとぅ! ……君達?」
クラス召喚とか無差別に複数人召喚されるパターンだろうか?
「国王様が召喚にかかる費用は気にしなくていいから召喚できるだけ召喚してくれってね?」
「勇者召喚かるっ!?」
勇者召喚ってそんな気軽にできるもんだっけ、あるぇ?
「なにやら衝撃を受けているところ悪いんだけど、分の悪い戦争を食い止めるためにお金を使っているわけで国庫に余裕もないから呼び出した勇者様方全員に支援しようものなら国庫が尽きてしまう」
なんとなく話が読めてきたぞ……。
「じゃあ戦えそうな勇者様にだけ支援しようって話になって判断するためにこの面接」
「戦えそうなって召喚するときに加護が付いたりとか……」
「あぁ、通訳の加護が付くよ、僕と話せるでしょ?」
「……それだけ?」
「うん」
【速報】俺TUEEEEEEE不可能【異世界の癖に】
「そうなると僕は戦えないんですけど……」
「日本出身の勇者様って何人かいるんだけど彼らも戦えないね」
「ですよねー」
「残酷な話なんだけどそういう訳だから国からの支援は期待しないでもらえると」
この異世界は、勇者に厳しいと思うんですよ?
でもあの国民的RPGの初期装備も【きのつるぎ】【ぬののふく】【100G】だし……。
って納得できるかぁい!
「あの、質問ばっかりですみません。元の世界に戻してもらうことって可能ですかね?」
「可能だったらよかったんだけどねぇ」
なんで嫌なところだけありがちな感じなんでしょうね?
「面接はこんなもんかな、質問あるなら答えるけど?」
「……僕はこれからどうすれば?」
「冒険者ギルドに行って仕事を紹介してもらってお金を稼いでもらうしかないかな」
勇者になって、冒険者ギルドに行ってランクを上げて成り上がっていく。
そう言うことができればいいんだけど……。
「僕は戦えませんよ?」
「ペットの捜索、草むしり、荷卸し、掃除。こういう仕事もあるよ」
派遣みたいな……。
「これ以上は特にないかな?」
「あ、はい……お疲れさまでした……」
「あ、そうそう、このカードを冒険者ギルドに出してもらえれば勇者様への支援がもらえるはずだよ。冒険者ギルドまでは案内させるから」
クレジットカードぐらいの大きさのカードを渡されて僕は退室した。
そして1人しかいない部屋に静かに言葉がこぼれた。
「――勇者難民がまた増える……か……」