1話:ようこそ、サイベリアンへ
「ようこそお越しくださいました、勇者様」
その言葉を聞いた瞬間、見知らぬ石畳の六畳ほどの部屋に居ることに気付いた。
先ほどまで確かに、幼馴染と一緒に学校から帰っていたはずなのに。
それに……。
『勇者』
ゲームやアニメ、ライトノベルに漫画。
それらの創作物の主人公が勇者と称され、世界を救っている。
最近ではインターネットで読める小説投稿サイトに、異世界召喚されて勇者として世界を救ってほしいと言われるものが多く投稿されているのも記憶に新しい。
ありえない、と思いながらも目の前のメイド服を着た20台前半の女性に問いかけてみる。
「もしかして、僕は『勇者』として異世界から召喚されちゃったり……?」
「その通りでございます」
本当に異世界召喚だったのか……。
しかし、なぜ目の前の女性はメイド服を着ているのだろうか。
一般的にこういう場合は王女様や王様の目の前に召喚される、というケースが多い。
「今回の勇者様は理解が早いのですね」
待ってほしい。
今回の、って言いましたよね。
こういうパターンだと勇者召喚はそう気軽にできるものじゃないと思うんだけど。
口ぶりからすると何度も勇者を相手にしてるような……。
「それでは、担当の者が面接致しますのでついてきてください」
と言いつつ、ドアに手を掛けて背を向けるメイドさん。
面接……?えっ?
驚きで固まる僕を置いて、メイドさんはドアを開けて部屋の外に歩いていく。
慌てて追いかけながら質問をぶつけてみる。
「あの、すみません、面接って聞こえたんですけど……謁見とかではなく?」
「はい、王様が勇者様とお会いになられることはめったにございません。勇者様の適性などを判断する専用の者が居ますのでご心配なく」
「え、でも僕は日本から勇者として召喚されたんですけど……」
目を見開き、驚きを隠せないといった表情をして固まるメイドさん。
「……勇者様は日本の方なのですか?」
「はい」
思わず口走ってしまった日本が通じた。
もしかして異世界でも何でもなく、地球のどこかって言う可能性も……。
「過去に召喚された勇者様から伺ったことがございます。曰く魔法がなく代わりに科学が発達している。曰く平和で治安が良く諍いもほぼない。……そして曰く地球なる星の国である」
「ここは地球ではないんですね……」
希望を抱いた瞬間、気まずそうな顔をしたメイドさんに否定される。
「そうなりますね」
「……それじゃこの国の名前を教えてもらえませんか?」
「申し訳ございません。失念しておりました」
「ようこそ『サイベリアン』へお越しくださいました。勇者様」