初めての朝
「はぁっ!? 楽しみ過ぎて徹夜した? あんた子供かっ!」
それが昨日の夜に言った通り,定時より一時間早く起きたシャルロットが
酷い顔をしている(らしい)ユーシャから事情を聴いて一番に答えた言葉だった
「しょうがねえだろ。ゲームとかでこういうのがあるのは知ってるが、
実際に行くのは初めてなんだからよ」
「え? 今まで一度も行ったことないの?
もしかしてあんたって元はすごく貧乏な家で暮らしてたの?」
切なそうに見つめるシャルロットがなにやら勘違いをしているようだから、
補足すると、別に校外学習に行く余裕もないほど小さな学校に通っていたわけではない。
元々、学校に行く気がなく日々悪行を重ねることに忙しかっただけである。
(まぁ。都合よく勘違いしてるならわざわざ説明する必要はねえんだけどな)
「それで今日の校外学習大丈夫なの?」
「大丈夫だって。現地集合なんだろ?
そこまでのバスとか飛行機とかで寝てるから」
「え?」
こういうイベントの初めに登場するバスでは、
カラオケ大会やバスガイドのお姉さんと楽しいおしゃべりをするのを
ゲームやアニメで見たことはあるが、今回はそれを諦めた。
なによりも大事なのは臨海学校での水着イベント、
そのための体力を回復させることにした。
「じゃ、行くか。早く寝てえ」
「行くかって、あんた、手ぶらじゃない。荷物は?」
「あ~大丈夫。なんとかなる」
「なんとかなるって、あんたやっぱり寝ぼけてんじゃないの?」
「そうだよ? だから、寝させろよ。
今さらになってスゲー眠ぃんだよ」
ユーシャは薄い生地の夏服を上下に一枚ずつ着て歩き出した。
「ちょっと一緒に行かないとダメなんだから、先行かないでよ」
と、なにやら慌てた様子でシャルロットも玄関に向かい、
体育用の運動靴を履いた。
「まだ開けないでちょっと待ってなさいよ?
一緒に出なきゃいけないんだから」
「一緒に出るってなんだ。寂しいのかよ。
ンなもん後から追いついてくりゃいいだけじゃねえか」
と、ユーシャは履きなれて柔らかくなった革靴を足に玄関の扉を開いた。
ざざぁ しゅわぁぅ ざざぁ しゅわぁぅ
黄金色の砂浜に不純物の混じった水が波を立てて寄ってきて、
細かな泡を作りながら引いていく。
気温差から気圧の差が生まれ、さらにそこからの風が
ユーシャを迎えにやってきた。
上を見れば青い空がどこまでも広がっていて、
吸い込まれてしまうような感覚さえする。
「ん~?」
ユーシャは一度振り返り、今まで自分が経っていた場所を見返せば
やはり人工の石とフローリング材を張った玄関であった。
「あれ~?」
ユーシャたちが暮らしているのは学園が管理している寮の一室であり、
こんな見事なオーシャンビューな立地ではない。
しかも、大量の生徒たちが同じ寮に住んでいるため、
つくりは最新の設備を取り備えた高層のマンションであって、
目の前の何もかもを大自然に還した場所ではない。
状況を整理しようとゆっくり扉を閉めようとしたが、
背後からシャルロットがその扉に伸ばした足をはさんで止めた。
「なんで閉めようとするの? 行けなくなるじゃない」
「いや、ちょっと気になることがあってだな」
「良いから出なさい!」
玄関内で往生するユーシャにシャルロットはイラつきが溜まり、
彼女の渾身の蹴りによって文字通り斜め45度方向へ蹴り飛ばされてしまった。




