長い夜
部屋に帰ったユーシャはシャルロットに自分も校外学習に行けることを話した。
恐喝まがいなことをして言うことを聞かせたのではとか、
怪しまれたり怪訝な顔をされて軽い言い合いをしてもいたが、
思いのほかその会話に楽しさの熱が入ってしまい、
雑談を交えて明日からの校外学習について話し合っていた。
「え? クラス全員で行かねえのか?」
話し合いの中で自分と同じ臨海学校に向かうのは
たった8人だけだということを知った。
「こういう行事って大勢で行って『集団行動の意義』とかを
再確認しましょうっていうものだと思ってたが」
「それは全員が同じ国籍の同じ種族の学校の場合よ。
ウチにはそれは無理」
「なんで?」
「一つは対立関係の組み合わせがあるから。
普段の学校では仲のいいクラスメイトだけど、
実家に帰れば本気で殺す敵になる、というのはウチではよくあるものよ。
私も、いや今はあんたが私の国の王になっちゃったから、
どういうことになってるのか分からないけど、
そういう相手がいたわ」
「へ~
(そういえば、こいつが守ってた国奪ったっけか。
完全に放置してるから内政とかぐちゃぐちゃだろうなぁ。
まぁ、あそこは俺の国だってことを色んなとこに中継で流したから、
他の国から滅ぼされたりなんかはねえだろうけど)」
「二つ目に行き先に不適切な種族がいるからよ」
「不適切な種族?」
「例えば、私たちが行く海には吸血鬼は行けない。
どうしてかというと吸血鬼は水と日光に弱いから。
自身を溶かす要因の物が二つもある海じゃ、危なくて連れていけないのよ。
だからそういう子は別のどこかに行くことになってるはずよ」
「ほ~。でもよ? そういうものってどうにかできねえのか?
学校側からとんでも技術とかホニャララ術式とか、よく分からねえけどスゲエものを使ってよ?
最近聞いたことだが、あの校舎って外からの攻撃を分野に問わずすべて防げるらしいじゃん。
それが出来るくらいなんだから生徒数人ぐらい何とか出来そうだがな」
「それはよく分からないけど、人数が多すぎて手間がかかるからじゃないかしら。
だって、一学年の半分だとしても500人よ?」
「そうか。それを考えりゃ多すぎるな」
ふと浮かんだ疑問にシャルロットからの返答をもらって納得したところで、
時計を見るともう当日の1時を回っていた。
「(つい話し過ぎたな)
明日は何時に出なきゃなんねえんだ?」
「いつもより一時間早いわ。私はもう寝るけど。
あんたは明日の準備があるんだから、もう少し起きてなさいよ」
「大丈夫だって。明日の朝やればいいし。
仮に出来なくても俺には秘策がある」
「秘策?」
「おうよ!」
そう。ユーシャには秘策があったのだ。
(今回は【スキップ】を好きに使っていいって言われてたからな。
何かが必要になったその時が来るたびに『創れば』問題ねえ)
「そんじゃ、お休み」
そそくさと部屋の電灯を消して、ユーシャはごろんと横になった。
「すーすー」
と、強気な彼女の口からかわいらしい寝息を聞きながら
ユーシャは天井に張り付いたライトに焦点を合わせていた。
「眠れねえ」
寝よう寝ようと思うたびに目は冴えていってどんどん安眠から遠ざかっていくのであった。
(くそ、なんでだ? |快適な眠りをあなたへ【Brilliant Sleep for you】を使ったのに
すぐ目が覚めちまう)
寝具のコピーキャッチに使えそうな名前の技は
簡単に言えば自分を快眠に導く効果があるのだが、
使ったその直後に明日(厳密には今日)から始まる臨海学校への妄想が湧いてきて、
すぐにそれを自分でキャンセルしてしまう羽目になっているのだ
「そういえば、そもそも学校に行ったこともねえから
校外学習なんて初めてだもんな。
いや、でもまさかそんなことで眠れないくらい嬉しくなるか?
いや嬉しいよ? 海ってことは水着回だろ? 嬉しくないわけないじゃん。
でもそこまではさすがに……ってダメだ。
こんな風に考えちまうから眠れなくなるんだ」
寝よう眠れねえのループを繰り返すたびに無駄な時間を過ごしていき、
そしてついに
「…………徹夜しちまった(=¬=)。o◯」
新しい朝が来た。




