契約項目
最初の五分は自分の名前や生年月日など基本的なことを聞かれてきたが、
それからの質問は主に倫理観に触れるような内容だった。
「特殊技能を使用するにあたり、大規模破壊及び広範囲への
精神干渉を禁じる。承諾しますか?」
「その前に特殊技能ってのは何だ。あれか? 【スキップ】のことか」
「そう。君の気分次第で核弾頭の雨を降らすことだって可能だからね、アレは。
いざと言うための保険だよ」
「ふ~ん。でもよ? そんなに怖いなら使えなくさせればいいんじゃねえの?
確かお前,前に出来てたよな?」
「厳密には違うし、今それを知ることじゃないから省くけど、
この質問は君にそういう意志があることを言わせることが重要なんだよね」
「そういうものか。『いい』よ。OKだ」
「じゃあ、次。生態系及び史実への不正干渉によって被られた損害に対し、
学校側はその四割または五京円まで負担する。承諾しますか?」
「オーケー、オーケー。全然オーケー。
そんなこと俺がやるわけねえじゃん。バカか?」
「本当に分かってるのかなぁ? 軽く答えてるけど、
転入してからでもこれに抵触しっぱなしだったんだよ、君」
「あん? 何かやったか?」
抵触という小難しい言葉を使われてほんの少し身構えたユーシャは
これまでのことを思い返してみたが、何も思い当たることが無かった。
「あのね。その様子じゃ完全に忘れてるみたいだから言うけど。
シャルロットとの決闘の後に声をかけた人間が何人か始末されてるんだよ、君にね」
「そうだっけ?」
言われてみれば、そんなことをしたような気もしなくはないが。
やはり思い出せなかった。
「まぁでも数人、数十人死んでも大したもんじゃねえだろ」
「あのね~」
倫理観というものを一分とも持ち合わせていない少年(中身30代)に
慈悲深い大天使様が教えを説いた。
「その人が死んで終わり、というわけにはいかないんだよ。
その人に関わった企業とか計画にはストップがかかるし、
かなり高額な賠償金だって動く。君がテキトーーに殺した中の一人に
惑星間で戦争をしていた軍の将校がいたんだけど。
君のせいで一時、そこが植民地になっちゃったんだよ戦争は終わったけどねっ!
そのせいで僕がどれっっっっだけ大変だったか。
分かる? 君のやらかしたことの重大さ」
「ん~」
何となくで人を殺すとその周りの人間が困る。
自分の知らない所で壊滅する組織もあるし、国が無くなったりもする。
「うん! 分からん。別に俺は困らねえじゃん」
「……はぁー。だよねー。分からないよねー。
次いこう」
深いため息をついて筆記事項の消化をつづけた。
そのたびにユーシャの独特なご意見を承っては
こめかみを抑えてきたが、一時間後すべての空欄に書き込みを埋めた。
「結構時間かかったな」
細かな字で書かれていたと言っても数枚の書類仕事だから
あまり時間もかからないと思っていたのだが、
途中の雑談もあって、すでに日付が変わった後になっていた。
「ところで臨海学校っていつからだ? 早くしおり寄こせよ」
「しおり? あぁ、ハイこれ。明日からだから今日は帰ったらすぐ寝てね」
「あー、明日……って明日!? 用意とか全然してないんだけど!?」
「自分の能力でその都度、作ればいいじゃないか。自身の判断でお願いします」
「使っていいのか? あれだけ俺が使うのを渋ってたのに」
「良いよ? 今回に限れば使う余地なんてないからね」
「ん?」
万能の能力なのに使う余地がないとはどういう事だろうかと疑問に思ったが、
それを聞く前に
「さあ。早く帰ってもらおうか。引率として僕もついて行くから、
早く休みたいんだよ」
と追い返されたのだった。




