俺だけは危険じゃなかった
天井からスクリーンがゆっくり降り、指示棒を片手にソフィアが教壇に立った。
「はぁい。では皆さん。一時間目の授業まであまり時間がありませんので
神野くんが選ばれた理由を簡単に説明しますね」
ソフィアがスクリーンに指示棒を当てるとそこにイラストが浮かび上がり
アニメのようにスクリーン上で動いている。
「知っての通り、私たちのこの聖マリア学園に通う生徒たちには様々な種族がいます。
貴族や王族の令嬢、中には存在自体が希少な子もいます。
それだけに、人身売買をする心無い人にとってはここは最高の狩場となってしまうのです」
ユーシャはあまり頭がよくなかったが、
言葉だけでなく視覚的に説明してくれているおかげで
すんなりと理解することができた。
(ほんわかしてるだけのサブキャラと思ってたが、しっかり教師らしいこともできるんだな)
確かに一つの教室の中でさえ、これだけ見たことのない種族がいたら
よだれを垂らしながら売人が襲ってきたとしてもおかしくない。
最悪、腕の一、二本なくしたとしても教室一つ分の生徒を闇取引に出したら、
一生遊んで暮らせる額が出るだろうとユーシャは思った。
「そういう理由で今まで一部を除いた学園内への関係者以外の立ち入りを断ってきたのです。
特に元々女子校だったために男の方への学園側のイメージは悪く、
絶対に悪事を働かないと言い切れる男性が現れるまで
頑なに男の転入を認めなかったんです。しかし!
ついにその条件に適した男の方が現れました。それが神野くんなんです。おわり」
(おい、いきなり説明が飛んだぞ。なんだその無理やりこじつけたような理由。
最高だ! もっとやれ!)
結局、ユーシャが選ばれた理由について何も聞かされていなかったが、
とにかく自分だけがこの女子校にいる男子だということと
今後、学園に男が現れないことが分かったからそれで満足した。
しかし、隣のシャルロットはそう思っておらず、挙手して質問した。
「先生! 意味が分かりません。その学園に来られる男がどうしてこいつ何ですか!」
(意味なんてどうでもいいんだよ。要は俺がこの学園を独占できればいいんだからよ!)
と、思ったがやはり顔には出さず、困ったようにシャルロットを見た。
「それはですね。彼の経歴から推測して悪事を働く動機がないからです」
「動機って。こんな何考えてるのか分からない男のどんな経歴をみたらそうなるんですか!
こういう顔の男ほど何食わぬ顔で空き巣に入ったり家に火をつけたりすんです!」
「勝手に人を犯罪者扱いにするなよ。(さすがに放火まではやってねえ!)」
謂れのない罪を押し付けられユーシャは少し口を尖がらせて抗議したが、
キッと鋭い視線で威嚇されすごすごと引っ込めた。
「これも知っての通りですが、神野君は魔王を倒しました。
その功績で神様から一つ願いを叶えてもらう権利を得たのです。
それなら、わざわざ自分でこの学園に来て誘拐するよりも
神様に頼んだ方が合理的じゃないですよね」
「むぅ、……はい、確かに」
どうやら今の説明で納得したシャルロットはしぶしぶ納得したようだ。
というか、
「あの、ソフィア先生。プライベートなことなので
そのあたりのこと、どれくらい知ってるのか教えてくれませんか? 」
今のソフィアの発言を軽く流すことはできなかった。
神に話したユーシャの願いの内容についてどの程度まで知っているかで
今後の対応が大きく変わってくるからだ。
始める前から終わっていた、ということも十分にあり得る。
「大丈夫です。私たちが知っているのは今言ったところまで、
神野くんがどんな願いを言ったかまでは分かりませんので安心してください」
「そ、そうっすか」
どうやらこの学園の生徒全員でハーレムを作ることまでは知らないようで、
ほっと息をついた。
「どうせ、いやらしいことにでも使ったんでしょ。低俗なあんたらしいもんね」
ほっと息をついて、また腹の底からイラつきが戻ってきた。
「そういうわけで神野君はこの学園に来れるのでした。めでたしめでたし。
それでは一時間目は数学なので問題集とノートを出して待っていてくださいね」
と、言い終わると同時に一時間目のチャイムが鳴り、ソフィアが
きりっとしたメガネのSっぽい教師と入れ替わりに教室から出て行った。




