解決って何だ?
裏で糸を引いていたエクスマは
ユーシャによって粛清された。
エクスマはもはや親しい友人たちから
別人と間違われるほど改心し、
もう誰かを貶めるようなことをしなくなった。
それにともないシャルロットへのいじめも
ぱったりと無くなり、全ては丸く収まった。
とはいかなかった。
「ねえねえ、前に校舎を壊された時に
怪我をした一年の悪魔の子のこと知ってる?」
「あ~、それって最近ここに顔を出してる子でしょ?」
朝のHR前の短い休み時間、一本角の鬼と腰に日本刀を差した女侍が
教室のドアの前でしゃべっていた。
「そうそう。で、その子がさ、なんか急に人が変わったんだって」
「へ~」
「何て言うか、別人? 相変わらず意地の悪いこと考えてるんだけど
全然しようとしないんだって。前ならすぐにやってたし、
思いたったが吉日が座右の銘の子がだよ?
噂じゃユーシャが何かしたんだって」
「そりゃ普通に考えれば誰だってそう思うでしょ。
ユーシャとシャルロットは夫婦なんだもん。
嫁の立場を使えば多少のわがままは聞くんじゃねえの?」
「いや、まあ、そうなんだけどさ~。
ちょっと反応違くない?」
「うん?」
「だってさー、シャルロットってば
ユーシャに泣きついたんだよ?
あの人に頼んだらこっちは何も言えなくなっちゃうのに」
「良いんじゃない? もともと、恋愛がらみで起きたって
話だし、よその三角関係に首突っ込んだら面倒になるでしょ」
「そうかもだけどさぁ。ん?」
「こういうときは離れた場所から関わらないように
距離を置くのが大事なんだって」
「え? あー、そうだね」
「ったく関係ないうちらにまで気を使わせやがって。
面倒なんだよな。さっさと終わらせてほしいわ」
「うん。そうだね。あっ、あーっ。
ちょっとの道の邪魔になってるから
どいてあげた方がいいと思うよ?」
「え? ああ、そうなん―ーだっ!?」
と女侍が後ろを振り返ったところに
今、話題にあがっていた当人がいた。
「…………」
「…………(汗)」
一方はすまなそうに視線をそらし、
もう一方は気まずくなってその視線とは逆の方向を見ようとしていた。
「……」
女侍はぎこちなく道を譲ったが赤い髪の女騎士は
その道を通らず別の入り口に歩いて行った。
「…………」
「(あーあ。やっちゃったね)」
「(あんた、いるならいるってちゃんと教えなさいよっ!)」
「(だって言ったら私もそう思ってるって思われるかもしれないじゃない)」
朝の短い休み時間をだるそうに話し合っていた二人は
水ではなく油を差されたのかテンションを上げて
会話に花を咲かせていた。
二人の少女は互いに相手のせいにしようと
小声で罵り合っていたが、シャルロットはそれに対して
醜いともまして鬱陶しいとも感じていなかった。
(悪いことをしちゃったわね)
本当なら怒るべき所なのだろうが、
シャルロットにもこの二人の言っていることに
ある程度同情できるところがある。
もし立場が逆なら自分も影でそんな事を
言ってしまうかもしれないし、
そっとしておく優しさ、という名目で
傍観者に撤するという真似を
絶対にしないとも言えない。
そういうわけで一概に彼女たちが悪いからと
言い返すつもりはないし、
当然、陰口をたたく二人に愛想笑いを
返してやるつもりもない。
つまるところ、見送りだ。
今の時間をなかったことにし、
いつもと変わらない過ごし方をする。
それが悪目立ちすることもなく、
他の人たちもいる空気を悪くしない一番の方法だ。
それが今の自分の人間関係を
好転させることでないことは別として。
数日前から自分への嫌がらせ行為の盛り上がりは悪くなり、
周りの飽きが来たこともあって徐々におさまってきた。
しかし、あくまで少なくなってきているだけで
匿名のメールはまだ送られ続けていて
一日に5件の中傷メール、10件の迷惑メールがかかってきていた。
(それでもその程度の嫌がらせならなんとか対応できるし。
しばらくすれば前みたいに過ごせるわね)
いじめは気の抜けない問題ではあるが、ある程度の好転の兆しを見せていた。
10日前に事件を引き起こし、その日の晩からシャルロットへのいじめが始まった。
それからの3日間が特にひどかったけれど、
その一週間後つまり今現在はこの通りの状況となっていた。
これらの経過から自分へのいじめの終わりは
そう遠い未来ではないだろうという目測が立てられた。
しかも、およそ二週間後には期末テストが始まることから
学校中の全員が授業の復習でいじめをする暇がなくなっていることも
いじめ消滅に拍車をかけているのだろう。
(勉強と言えば……)
勉強といえば、シャルロットは気になることがあった。




