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勇者は神様に頼んでギャルゲーの世界に転生しました  作者: 火村静
攻略ヒロイン二つ目 バカ後輩編(84057文字[空白・改行含む]
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Q,罰ってなんですか?A,さよならだ

圧倒的な差をつけて勝ったのはユーシャだった。

「どんな気持ちだ? え?

今、どんな気持ちなのか言ってみろよ」

勝負の結果を集計し、どちらが上かをはっきりさせたユーシャは

椅子から立ち上がり目の前にいる女を見下ろした。

「最初から俺が勝つのは分かってた。

けど、それでもこうやって誰かを下に見れるのは気持ちいいな。

で。お前はどうよ?」

「……最悪ですよ」

「だろうな」

抑揚のない声で彼女は答え、ずっと下を見続けていた。

「これから私はどうなるんですか?

別に何をされても文句は言いませんよ。

どうぞ好きにしてください」

「う~ん……ダメだな」

ユーシャは彼女の髪を一握りすると

無造作に上へ吊り上げた。

「いや、何をするかは決めてんだよ?

でもよ。なんかお前、あきらめてる感があるじゃん。

お前、ひょっとして今から殺されるとか思ってんのか?」

死ぬ。その方がむしろ良い、と彼女は思った。

(私はフラれたんだ。どんな形であれもうユーシャ先輩の

隣には立てなくなっちゃった。

なら。こんな気持ちのまま生きていくくらいなら。

死んだ方がいいかもしれない)

心から慕う男に突き放され、

傷心しきった彼女は自信を見下ろすユーシャに焦点を合わせられず

暗い屋根の隅をぼんやり見ていた。

「安心しろよ、んなことはしねえ。

正直、てめえを俺のハーレムに加えてやろうとは思ってる。

『後輩』で『かなりのバカ』で『俺に懐いてる』。

初めて会ったお前はそんな感じの属性を持ってて、十分俺のタイプだ。

だからまぁ、これからもお前は俺のそばで生き続けるんだろうよ」

「え?」

彼女の目に生気が戻り、一筋の光が見えたような気がした。

これからもユーシャと一緒にいられる。

たとえ、どんな仕打ちを受けても。

今をどんなに苦しめられていても

彼女にはその言葉が嬉しいと感じた。

自分でもどうかしていると思う。

しかし、それでも嬉しいものは嬉しいのだ。

本気で好きになるとそうなってしまうのだから

本当にどうしようもないことなのだ。

「けど、そいつは『お前』じゃねえ」

しかし、残念。その光は細く、

今まさに消されようしていた。

「俺は『お前』が俺に取り入ろうとしたあいつと

その体が欲しいのであって、『お前』に用はない」

「『お前』?」

そういえば、ユーシャは一度も自分の名前を

いっていなかったな、と思い出す。

それは二人称として『お前』を使うことが

正しいからなのか、もしくは。

「結局、私はどうなるんですか?」

「『お前』? 殺すよ、っつか消すよ?

もう今のお前が出てくることはねえ。

これからエクスマは『ずる賢い女』っていうキャラ設定から

『俺に従順な牝犬』になんのさ」

「なっ」

お前、お前、とややこしい言葉で分からなかったが、

その後ろにある言葉をつけるとある程度、

ユーシャのしようとしていることが読めた。

つまり、

「私の人格を消す?」

「そうだ」

冷徹な言葉を告げられて彼女の目の前は真っ暗になった。

殺されても良い。

もう二度とそばにいられないのも仕方はない。

なのに、

「それはないでしょう」

彼女のまなじりから涙が湧き、

太い筋が頬を伝う。

(どうして。どうして。

私は本当にあなたの事が好きなのに。

どうしてあなたはそれを否定するの?

どうして私を信じてくれないの?

私の何がいけないの?)

彼女は悪魔だ。

人を騙し、人を陥れ、人を喰う。

それでも彼女はまだ若い女の子なのだ。

真っ黒な心の中の数少ない純白な部分、

人を好きになる、

それを否定されて傷つかないはずがない。

無念の涙を流す彼女を前に、

彼は彼女の心を読めなかった。

きっとその涙は自分を騙すため、

あるいは生き恥をさらされる屈辱によるものだろう。

どちらにしても知ったことではない。

「だってそうだろ?

自分を利用しようとか考える奴が信用できるわけねえじゃねえか。

腹黒い本性となつっこい偽物。同じ信用できないモンなら。

当然、後ろをとるよな?」

「利用なんて! 私はっ」

「もういい。しゃべるな。

会話するだけ無駄だ」

【《スキップ》 →人格の変更を実行

突然、彼女の座る椅子から肘置きが現れ、

首手首足首腰とあっという間に拘束される。

「これは」

目を動かし今さっき作ったばかりの仕掛けで

自分の姿を写しみると、頭の上に

『大改造! 人格変心マッシーーン』

とふざけたイラスト付きの看板が見えた。】

(違う! 私はあなたの事が本当に好きなの!

信じて! 私は)

完全に拘束される彼女の頭に

手向けを送る手つきで

電極がウニのように繋がった装置を着けた。

「さよならだ。

『お前』はこの世から消える。

これからエクスマとして生きるのは

俺のことが本当に好きなお前の偽物だ。

なに、痛いかも知れねえが新しい人格の方には

何の問題はねえから」

そう言って彼は笑いながら手元のスイッチに指をかける。

(嫌っ! 嫌っ! いやあぁぁぁぁぁっ!)

彼がスイッチを押しきる瞬間まで

彼女は抗い続けたが、『彼女の想い』が届くことは叶わなかった。

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