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勇者は神様に頼んでギャルゲーの世界に転生しました  作者: 火村静
攻略ヒロイン二つ目 バカ後輩編(84057文字[空白・改行含む]
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Q,秘策って何ですか?A,はぁっ?

結果 第4セット 攻撃:エクスマ 得点:30点中18

エクスマの本来の学力からこの点数を出せたことは

非常に良いことである。カンニングしていたことを無視するならば。

ただそれでも、カンニングをしてまで出した結果としては

あまりにも低い点数にエクスマは愕然とした。

「へ~。意外と成長してたんだな、俺」

「っ!? 『俺』ってどういうことですか、先輩」

新しく参考書を取りに行くユーシャの背中に

エクスマは問いかける。

「言っておくが、途中ですり替えたとか、

初めから偽物の解答を貼ってたとかじゃ無えからな。

そいつは確かに本物だ、『俺が書いた』解答だ」

「『先輩が書いた』。はっ」

エクスマはユーシャの言葉の意味を理解した、

つまり、このポスターは『|解答《suggested answer》をユーシャが写し書きしたもの』ではなく、

『ユーシャが解いて書いた答え(answer)』だったのだ。

「そういうことですか。

先輩はポスターを見ながら答えるのが攻略法なんじゃなくて

あらかじめ問題番号とそれに適した記号の組み合わせを覚えてきてたんですね」

ポスター云々は全てエクスマを嵌めるためのブラフ。

エクスマはだらしないユーシャの性格から

出したポスターをいちいち片づけないだろうと踏んで

ガラスを使った装置でカンニングをした。

しかし、それすらもユーシャは読んでいたのだろう。

完全に裏を取られてしまい、エクスマは下唇を噛んだ。だが、

「は? 問題と答えの組み合わせを覚えるとか、

逆に無理だろ」

「え?」

ユーシャはゆっくりとした動きで椅子から立ち上がり

第5セットでの科目に再び国語を選んだ。

そして国語の参考書は左手に持ったまま、

右の掌の上の空間を捻じ曲げて新しく別の国語の参考書を出現させた。

「勝負まで十分ある。試しにここから好きな問題を俺に出してみな。

ページとか問題番号とかいいから」

そう言われてエクスマはてきとうにページをめくり問題を出してみた

「Q,相手の横暴は許しても、

  わかったような同情やいたわりには

  必ず冷笑で《一矢を報いずには》いなかった。

  この《一矢を報いずには》を言い換えるのに適当なものは?

  ①嘆息せずには

  ②反撃せずには

  ③からかわずには

  ④ごまかさずには

  ⑤無視せずには」

「A,②だ」

「Q,不必与人斉同。この書き下しとして適当なものは次のうちどれ?

  ①必ずしも人と斉同ならず。

  ②必ず人の斉同なるに与らず。

  ③必ず人の斉同なるに与せず。

  ④必ずしも人より斉同ならず。

  ⑤必ずしも人に斉同なるを与へず。」

「A,……①」

「Q,外見は似ているが内面は似つかないことを四字熟語で?」

「A,魚目燕石。こんな感じの字だ」

……………………

次から次へエクスマが問題を出すたびにユーシャは正しい答えを良い、

同時にエクスマの顔色も徐々に薄くなっていった。

「え? どういうこと?」

記号問題はもちろん、書き取りの問題まで混ぜて出しているのに

ほとんど正解している。

間違えても片手の指で数えられる程度。

つい50問以上出題してしまったところ、

間違えた問題の数はたったの2つであった。

「まだ分かんねえのか?」

十分だけの勉強時間も終わりに差し掛かり、

ユーシャは最後の得点源である勝負の前にもかかわらず、

だらっと椅子にもたれながら言った。

「お前は勝つためにどんな方法でやれば良いかを考えてたんだろうがよ?

その考えがそもそもの間違いだろ」

ユーシャは背中を起き戻すと両手に持つ分厚い参考書をどけて

目と鼻の先までエクスマの顔に迫り自分の頭を指で叩いた。

「テストで良い点を取る一番の攻略法なんて、

てめえの頭が良くなる以外にある訳ねえじゃねえか、このブァーッカッ!」

コツコツと頭蓋骨の音を鳴らし、ユーシャはエクスマを挑発する。

しかし、そんな挑発に乗せられて怒るより、

エクスマは狐につままれたような表情になっていた。

「ありえない……そんな、先輩がまともに戦うなんて―ー」

「ありえない? たかがテストを解くくらいで

わざわざカンニングをしてまで解こうする方がおかしいだろ」

「たかがじゃないでしょう! 私たちはこの勝負に賭けをしていたはずですよ!」

「そうだ。だから? だから勉強したんだよ。

時間を忘れるぐらい、いやいやな」

「…………フフフッ」

焦りを見せていたエクスマは急に噴き出した。

それに気を悪くし、ユーシャは低い声で聴いた。

「何がおかしい」

「フフッ、ちょっと話を盛りすぎましたね、先輩。

時間を忘れるぐらいいやいや勉強した? それはないですよ。

先輩はそういう事が出来ない人です。考えてみれば

一昨日の先輩は私と同じくらいの頭だったはず。

たった一日、いや数時間の勉強でこんなに成績が上がるはずがないですよ!

「数時間じゃねえ、数カ月分の時間を経験したんだよ」

思わず鳥肌が立つほどの低いトーンで答えるユーシャに

エクスマは薄ら笑いを止めて、口をつぐんだ。

「バトル系漫画で何冊か見たことがあるだろ。

現時点では勝てる見込みのない主人公たちを

時間の流れが現実と違う空間で修業を重ねることで

手っ取り早くみんな最強になるっていうあのチート。

こちとら、あれを使って前の中間テストで五教科九科目。

八割を超えるまでずーーっとやってたんだよ!」

フィクションを例に語るユーシャはしかし、

冗談を言っているようにはエクスマは思えない。

だから、仮にそれを真実として飲み込んだ。

だとするなら、これは勝負以前の話だ。

エクスマはこの勝負でユーシャに勝てる見込みが

ありそうだったから、公平な勝負であったから受けたのだ。

それが実は初めから結果の見えていた出来レースだったなんて、

とそう顔に書いてあるエクスマを見てユーシャは言う。

「不公平だなんて言うなよ? 学生が勉強することは悪くねえし。

勉強する時間自体を増やすことが反則だとするなら、

一浪二浪してる奴が現役生と同じ入試を受けるのもナシのはずだ。

そんなことで文句をいう奴がいるか?

百歩譲って次の十分を俺の使った能力で数年単位で引き延ばしてやるとしても、

お前に俺と同じだけの領域に立てると思ってんのか?」


「ハンパじゃねえぞ。もうな、死ぬって言葉が軽く聞こえるくらい死んだ。

勉強を見てもらうためにあのクソ野郎に頭を下げたこともそうだが、

椅子に座って間違えた問題とか用法とか

いちいち書かされるのはスゲーしんどかった!

ここに俺とお前しかいないから言うよ。ガチで泣いた。

高2にもなってガキみてえに鼻水垂れ流して泣いてよ?

お前にこの気持ちが分かるか?

もう嫌だ、やりたくねえ、いっそ本当の意味で死にたい。

何回も何回も何っ回も! ……でも、心が折れるたびにこう思ったよ。

絶対にテメエを心の底から屈服させてやるって。

テメエに俺以上の覚悟が出来んのかよっ!」

その言葉を言ってから自分は嫌なことを言ってしまったと感じた。

出来るのか、そう言っておきながら、

エクスマにそんなことが出来るはずがないとユーシャは確信していた。

(お前は地道に本の中身を暗記しようとする前に

どれだけ楽に答えを見てやろうか考える奴だもんな。

そんな奴にあの地獄を越えられることはずがねえ)

「もう一度言うぞ。

テメエは俺のモノに手を出した。

俺の手が届く範囲から俺のモノを勝手に奪おうとした。

だから俺は絶対にテメエを許さねえ。

ここでテメエを終わらせる。

そのためだけに俺はあの地獄に行ってきたんだよ!」

独占欲、そしてそこから派生する怒りによる決意を

語気としてまざまざと見せつけられて

エクスマは何も言えなかった。

予想外だったのだ。

エクスマにはユーシャの心の在り方やどういう倫理観であるかを

把握していた。

しかし、それがこんなに大きなものだったとは思わなかったのだ。

他人のために自分を犠牲にすることを是とする有象無象な存在。

それが蔓延る世界の中でユーシャは

自分のために他人を犠牲にすることをいとわない

という属性を持つ数少ない存在だと思っていた。

だが実際は、我欲のためには自分の精神すら捨て駒にする、

努力家とは少し意味合いと清純さが違う、強欲な存在だったのだ。

そんな存在があることを彼女は知らなかった。

「悪ぃ。十分どころか二十分ぐらい話しちまったな。

詫びもかねて出題されてからを十五秒以内で解いてやるよ。

さっ、始めようぜ。第5セット」


結果 第5セット 攻撃:ユーシャ 得点:30点中――30


非の打ち所はなく、異を唱える隙も無く、

まごうことのない満点だった、

「そら、次はお前の番だ。好きな科目を選べ。

俺の結果は28、15、30で73。

お前は20、14で今のところ34.

ここで俺に勝つには30問中、たった、39個、

正解すればいい。

さぁ、どんないかさまをしてもいいぜ?」

投げ渡される(国語を除く)四科目の参考書。

しかし、もう勝負はついているのだ。

エクスマはもう、何もする気にはなれなかった。

巻き返すことのできない差、それはユーシャも分かっているはずなのに

それでも第6セットは敢行された。

まるでエクスマに惨めさを感じさせるためだけにしているように。


結果 第6セット 攻撃:エクスマ 得点:30点中――0


集計結果 ユーシャ:73/90

     エクスマ:34/90


 勝者  ユーシャ

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