動機って何だ?
重傷という理由で移された一人用の病室に
尋問をかけるユーシャと半ば空気と化してた事務員のラヴの二人が来た。
そして、この二人がいる状態でユーシャから
シャルロットに何をしたのかという質問を受け、
エクスマは困ってしまった。
「……先輩」
「ん?」
「お見舞いに来てくれたのは嬉しいんですけど、
何かお土産とか持ってきてないんですか?」
「ああ゛?」
一瞬、真剣に考えていたようだったエクスマが
急ににこやかな顔でこんなことを言い出したものだから
ユーシャは口調が乱暴になってしまった。
「ほらぁ。メロンとかぁ、お花とかぁ。
色々あるでしょ?」
しかし、続けて素っ頓狂なことを言われてしまって
ユーシャは怒る気すら抜けてしまっていた。
「分かった。買ってきてやるから少し待ってろ」
仕方なく買いに立ち上がろうとしたところ、
「待った」
と、ラヴが止めた。
「君、今までお見舞いとか言ったことないから、
こういう時のお土産にどういうものを選んじゃダメとか知らないだろ」
「あん? そんなものあんのかよ」
「ほら、これだ。僕が買ってくるからちょっと待っててよ」
そして、ラヴは見舞いの品を買いに病室を出ていき
部屋には二人が残された。
「これで邪魔な人はいなくなりましたね」
「ん? ああ、なるほど」
ここでようやくユーシャはエクスマの真意に気付いた。
「他の奴に聞かれたら不味いことをしたって自覚はあるんだな」
わざとらしい理由をつけて邪魔者を追い出し、
始まってもいない戦闘に勝利の確信をしているのか、
べらべらと自分のたくらみを自慢して本性を現す、
そして戦闘パートに入る。
王道中の王道展開だからこそ、そんな展開で
物語が進んでいくことは一般的な燃える場面であり、
そのことを予測させるには非常に容易だった。
一月前のユーシャはそんな展開を『オワコン』とみなし、
ただ『敵を倒さなければならない』という面倒くささを感じていたが、
その考えはこの学園で過ごすうちにひっくり返った。
(こいつ倒すだけで全て丸く治まるんだ。ちょろいなー。
俺ツエーからどんな奴だろうとどうせ勝てるし?
あいつ助けるために、あれこれ面倒なこと考えなくても済むし?
次からもこんな風に噛ませ役(ただし美少女を除く)を
ぶっ殺していけば楽に女落とせるんじゃね?
つーか、そうしよう ₍₍(꒪່౪̮꒪່)⁾⁾ )
むしろ積極的に分かりやすい敵が現れることを期待し、
意気揚々と戦いだしそうな体を抑えてエクスマの化けの皮が剥がれるのを待った。
しかし、彼女の取った行動は期待を大きく外れた。
「ごめんなさい。私がシャルロット先輩を焚きつけました。
カッとしてじゃないです。悪気はありましたし、狙ってやりました。
嫌いにならないでください、お願いします」
「上等だ。土下座して謝らせてやるってアレ~?」
ユーシャの目の前ではその土下座も謝罪もしているエクスマがいた。
「え……え~っと。何でやった」
「ただの嫉妬です」
「嫉妬?」
「はい。だって私の方がシャルロット先輩より絶対ユーシャ先輩の事好きなのに。
私より先にシャルロット先輩が彼女になったんですよ?
しかも、今の私は彼女であの人は妻って2ランクほど差があるじゃないですか!
悔しいですよ!」
「悔しいってお前」
「悔しいに決まってますよ! だから、あの朝シャルロット先輩を教室に呼び出して
言ってやったんです。
『先輩の事を好きなのは私です。あなたには負けません』って。
それから口論になって最後に
先輩の力とかスタイルとか色々バカにしていたら、あんなことに」
「あんなことにってお前。そんな身勝手が通じ――うぅ~ん」
とりあえずありきたりな返し文句で応えようとしたが、
しかし彼は考えされられてしまった。
(こいつ、ぶっ潰していいのか?
聞いてりゃ俺の取り合いみたいなもんだし。
まっ、念のため)
理由が思った以上に詰まらなかったことと
殴るほどでもなかったことからユーシャは臨戦態勢を解いた。
その代わり、【《スキップ》発動 →新スキル覚醒
ユーシャは自信に秘められた特技、《嘘発見器》を覚えた】
「今の話に嘘はねえな?」
「はい」
《嘘発見器》:反応なし
「そうか。しょうがねえな」
ユーシャの特技《嘘発見器》は文字通り、
相手が嘘をついているかどうかを確実に発見することが出来る。
それが反応なしと出ていたことから安心してエクスマに言った。
「なら、そいつを出来るだけたくさんの奴に伝えろ。
マスコミとかセンコー共に言ったり、ネットを使ったりよ。
そいつでチャラだ」
「はいっ! 分かりました。ありがとうございます」
元気よく返事をしたエクスマを見るとますます気持ちが萎えていき、
苦笑いを浮かべてユーシャは病室を後にした。
(今回はやけにあっけなかったな。
深刻っていうほどでもなかったし。
いや、いいんだけどな? これはこれで楽だし)
あることをきっかけに美少女と知り合いになり、
同じ時間を二人で過ごすことで親密になり、
恋人関係となり、
新しく登場したその美少女と関わるイベントが発生し解決した。
物事が円滑に進み過ぎてユーシャは物足りなさを感じていた。
しかし、悪い気もしていない。これで良いとは思っている。
不完全燃焼な達成感を胸にこの攻略は終わったとユーシャは思っていた。
だが、彼は、いや、おそらくすべての存在が
認知していながら常に見過ごしてしまうのである。
現実はそんなに甘くはない、ということを。
エクスマへの説得を終えたユーシャは
連日の補習と今日の一件で溜まった疲れを取るために
自分の部屋(シャルロットと共用)に戻ることにした。
「(休むついでにあいつがいたら、
適当にフォローの一言でもしてやるか。
多少、好感度も上がるしな)
って、なんでわざわざアイツの好感度上げなきゃなんねえんだよ」
と、多少、余計なことを考えながらも
また能力で出したタクシーを使って数日ぶりの
我が家に帰ったのだった。
「おぉ」
しばらくシャルロットが一人で住んでいたおかげで
玄関からすでに部屋に充満した女子特有の花のような匂いがした。
曇りひとつないフローリングとたくさんのインテリアが効率よく収納されていているのは
相も変わらず隅まで行き届いたシャルロットの掃除のたまものだろう。
実にきれいな部屋だが、なぜか中央にブルーシートが敷かれていた。
どうしてかと思ったがその理由はすぐに分かった。
この後に部屋を汚す予定があるからだ。
何をとち狂ったのか、シャルロットは自分できれいにした場所を
自分で真っ赤に汚そうとしているのだ。
敷かれたブルーシートの中心で星座をするシャルロットは
愛用の剣を両手に、刃を自分の首筋に添えていた。
「さようなら」
「っっっっ!!??」
目を閉じたままの別れは誰に向けたのか、零れた涙が頬を伝う。
それを黙って見ながらのんきに構えていたせいで、
ユーシャはとっさの判断が遅れてしまった。
すでに引き始めた剣は彼女の真っ白な首筋に
糸ほどの小さな傷跡をつけている。
彼が土足のまま部屋に上がり剣を奪おうと駆けるのは
彼女の涙が頬を伝いきり、シートの上に落ちた後だった。




