根拠って何だ?
午前11時25分。
教員たちにとって同日の午後5時までに結論を出したい会議が
一人の学生の都合で中止された。
「メモは取らないよね? なら、始めよう」
生意気で態度の悪い学生を相手に二人の大人が
僅かな時間に惜しみつつレクチャーを開始した。
「まず、現場検証はこのガロット女史とその知人の方々にしてもらった。
彼女の家は代々警察に近い組織のトップで、彼女自身も
去年まで第三銀河支部の警視総監に勤めていた。
非常に優秀でね、現場検証自体の信頼性については問題ない。
後から『こんなトリックが隠されていたなんて!?』
みたいなことはないから安心して聞くと良い」
「ンな話は良いから、さっさと始めろ」
今迄自分が座っていた椅子を壊してしまったので、
ユーシャはガロットの椅子を自分の物にして座っていた。
全く話す気を失くさせる姿勢で文句を垂れる彼に
ガロットは青筋を立てるが、ラヴからのアイコンタクトを受けて
かろうじて自分を抑えていた。
「最初に自分が追究した点はこの破壊が
外から撃ち込まれたものか、内部から起こされたものかという事だ。
結果、後者だと分かった」
「補足するとこれが分かれば破壊手段の特定と犯人の目的、
あと来るかもしれない『次』への対策が物凄くしやすくなるんだ」
「はぁ~ん」
教える側のガロットも素っ気無いものだが、
ユーシャはそれ以上に投げやりな態度で答えた。
それに眉をぴくっと震わせたガロットだが、
辛抱強く説明を続ける。
「次に破壊の方法だが、壊れた校舎を検証した結果、
二次的なものを除けば大半が高熱にとって溶かされていた。
あれは爆撃や呪爆といった複合的なものではなく
文字通り火力の高い純粋な炎が原因だ。
この時点でなんらかの不具合や故障という線は完全に消えた。
人が関わらずにあれだけの破壊が出来る火事など不可能だ。
もし、その条件を満たす装置が偶然そこに有って、
さらに偶然それが誤作動を起こしたとしても。
校舎の近くにそんなものを置く時点で
明らかに悪意のある行動としか思えない」
「ほぉ~ん」
「……。そして決定的な事実がこれだ。出火元は何か、という疑問だ。
だが、これは自分でなくとも分かる。校舎が壊れた部分の中心に立っていたのが
シャルロット嬢だったからだ。しかも、彼女が犯したとするならば
全ての事につじつまが合う。
学校内で起きた →学生なのでいてもおかしくない
出火方法 →彼女の技【太陽の雫】なら可能」
「決定的だなぁ、おい。何やってんだあいつ」
ユーシャはさっきと同じセリフを言ったが今度は諦めたようにつぶやく様子だった。
「まぁ。動機とか何故あの時間にシャルロットさんがいたのかとか、
分からないことは残っているんだけどね。
本人に聞ければ何かわかるかもしれないんだけど、
残念ながらちょっと今、心を病んでいてね、それどころじゃないんだ」
「そうか。大人しくなったことは良かったな。
つか、あいつが現場に立っていた時点でもう犯人確定にはならなかったんだな」
「そりゃそうさ。もし誰かが彼女を貶めるために
こんなことを仕組んでいたとしたらどうするの?
僕たち学校側は大切な生徒を疑ったとネット右翼の餌にされちゃうじゃないか」
「それに自分たちは大人であり教師でもある。
子供が起こしたことではないと信じたいし、
世間からどんな目で見られようと生徒の味方であるつもりだ。
もちろん、もし犯したことが事実ならば、正しい道を
進ませるためすべての真実を知っておきたかったのだ」
「…………ふぅ~ん。(゜σ_゜) ホジホジ」
ブチンッ! と実際にはしなかったが、ガロットの堪忍袋の緒が
そんな音を立てて切れた。
「失礼するっ!」
「ちょい待ち」
立ち去るガロットをユーシャは引き留めた。
「お前、警察だったんだろ? じゃあ聞きたいんだけど。
こういうことってよくあることなのか?
こう、校舎ぶっ壊したり何人も死なせるくらいの大惨事ってやつ」
「それ以上、人命を軽んずる態度をするなら、この場から強制的に退去させるぞ?
誰も死んでなどいない。死んでたまるものか! 縁起でもないことを聞くんじゃない!」
「本当か? 今までこの学園で一度もこんなことが無かったって言えるのか?」
「当たり前だ! 我が校の生徒にそんな邪なことを犯す輩など存在しない」
そう怒鳴り散らすと、ガロットは足早に教員たちの元に戻り、
(あいつは何をキレてんだ? というか今、
クソ女のことを全否定しなかったか?)
怒る理由と+αに首をひねるユーシャは、
対象をラヴに変えて質問する。
「誰も死ななかったってのは何でなんだ?
あっ。いや、死んでないようにしたのは俺だ。それは分かってる。
だが、『こういう理由』があったから生き残った。その理由の部分が聞きてえんだ」
「うん?」
普段まともな事をしゃべらないユーシャにしては
随分と物事の深くまで掘り下げた質問をしたことに
ラヴは意外な顔をして答えた。
「もともと、事故が起きた際、自動的に建物内の人間を保護するプログラムが
学園内に組み込まれていたんだ」
「それは誰が知ってる? 教師とか事務員とかだけだ?」
「いいや? 生徒もその保護者も知っているし、学校案内のHPを見た人なら
全員知ることが出来るよ。ほら。ウチって色んな身分の子が来るからさ。
セキュリティは最高峰にしないと危ないんだよ」
「ふぅ~ん。
(そういえばいつか、そんなこと言ってた気がするな。姫とか王女とかが来てるって)」
ユーシャはその言葉と照らし合わせてラヴの言葉に納得した。
「とは言っても、本来の運命ならそのプログラムごと焼き尽くされて、
全員骨も残らず溶けちゃってたんだけどね?
『なぜか』『偶然』プログラムが誤作動を起こして許容量が一瞬だけ
もともとの百倍ほど拡張されたおかげで助かったんだよね」
「そっか。そりゃよかった」
もう聞くことはないとばかりにユーシャは椅子から立ち上がり、
凝り固まった体をひねって解した。
「満足したところで、これから色々手伝ってほしいことがあるんだ。
なんたってほら、シャルロットは君の嫁だろう?
苦しみは夫婦で分け合うものだと僕は思――」
「ンなこと知らねえ。そんなことの前にやることがあんだよ」
ユーシャはラヴを無視して部屋を出ようとする。
慌ててその後を追うラヴは聞いた。
「やることって何? 大惨事を起こしてしまったシャルロットを慰めること?
それも大事なことなのかもしれないけどさ。
それよりもまず僕らの手伝いをしてくれないかな」
「そんな面倒なことを俺がやると思ってんのか。
つか、慰めにも行かねえよ」
「じゃあどこに行くんだい?」
「決まってんだろ」
ユーシャはついさっき作ったこの事件をまとめた冊子を広げ、
その中にある一人の人物の名を指した。
「エクスマの奴から何をしやがったかを白状させてやるんだよ」




