犯人って何だ?
「うわぁ、これはまた」
学校に来たユーシャは第一声にそれしか言えなかった。
異変を感じたのは学校に着く少し前。
厳密にはいつもなら校舎が見えていた位置からである。
見えていた、とはつまり今はそこから見えないということを
表しており、百メートルを越す高さの建物がそびえ立っていた景色には
晴々しい青空が広がっていたのだった。
能天気な空の下にはかつて校舎だった残骸が散らされている。
「本当に隕石でも降ってきたのかよ……」
壊れた校舎の有り様を見て、
明らかに人為的なことが原因だと分かった。
腐食、衝撃、設計ミス。
建物が壊れる要因に様々なものがある中、
このケースの原因を一言で言うなら
『火災』だ。
要因などと気取った言い方をしたが、
素人目から見てもそれが分かる現場だったのである。
焦げた地面とせき込んでしまうほどの煙たさ。
現場の方から火災が原因と言っているようなこの状況で
それ以外の原因を思いつく方が無理がある。
「それにしてもこれが授業中とかに起きなくて良かったな。
間違いなく数百人は死ねる威力だぞ」
「いや、もしそうだとしても君の力を使って
死人が出なかったことにするから同じことだよ」
ユーシャの独り言に後ろから追いついたラヴが応える。
さらにその返しの言葉を振り向かずに言う。
「今、気づいたんだがよ? 実際に何人か死んでた『はず』なのか?」
「ああ。君の能力がなければ
朝練に来ていた生徒198人と31体、死んでいたよ。
意外だね。君でもやっぱり女性が死ぬことに怒ったりしてくれるのかな?」
「え? いいや? ちょっとくらい死んじまっても別に構わねえよ?
俺のハーレムに入ってる美少女さえ生きてりゃそれで良い。
ついでに俺の女になる予定の美少女さえ生きてりゃ良い」
「あ、そう。
(これはまだまだ先が長そうだ。『期限』までに間に合うかな)」
予想通りのユーシャの反応に納得が半分、落胆が半分。
首を傾けてラヴは眉間にしわを寄せた。
「まぁ。君の気持ちはともかく学校側として
死人が出るのと出ないのとでは大きく違う。
そしてそれをしでかした人間にとってもそうだ」
「しでかした人間って。これを誰かがやったってのかよ!?」
人が建物を壊すという行動は不可能に近い。
これは理屈の問題ではない。
壊す方法自体ならいくらでもあるだろう。
重機、爆弾、あるいは、もっと簡単な方法で
それらを達成することはできるのかもしれない。
では実際に君たちはそれをした人間を見たことがあるだろうか。
もっと身近な例を挙げるなら
ニュースで殺人事件が常に報じられていたり、
道端の石を拾って後ろから頭に叩きつけるだけの作業で達成できるほど、
殺人とはひどく日常的で容易なものだ。
だが、それと関わった人間はそれほど多くは無いはずだ。
なぜなら、何かしらの問題が必ず起きて
大半がそこで終わってしまうからだ。
計画を練るうちに冷めたり、踏み出せなかったり、
単純に邪魔が入ったり、間が悪かったり、色々だ。
殺人を繰り返して生計を立てていたユーシャの言葉ではないが、
そういったことはそもそも滅多に起きないはずなのだ。
にもかかわらず、死体を一つ作るよりはるかに難しそうなこの惨状を
誰かがやったという事にユーシャは驚きを隠せなかった。
ラヴは目を伏せ、疲れた足取りでユーシャの前を歩く。
「ついて来て。詳しい説明はそこでするよ。
一応、君も全くの無関係というわけではないんだから」
「ちょっ、おい。ついて来いって、どこにだよ」
その言葉に応えるため、ラヴはその場で立ち止まり振り返って言う。
「職員会議だよ」




