勉強って何だ?
「今の今まで全く信じてなかったが、
お前の言う通りにしてよかったと思ってるよ」
そう言ってわしわしとユーシャは
少しの背の低いエクスマの髪を掻いてやった。
「ど、どういたしまして。ユーシャ先輩」
会って三日しか経っていない男からかみをぐしゃぐしゃにされて
眉の根を少し動かしたエクスマは、それとない動きで撫でてきた手をどけた。
「うぅ~ん。いいな、コレ。
勝負方式にすると結構やる気が出るなぁ」
「やる気って? え?」
顎に指をかけて考えるユーシャはなにか余計なことを考えているようだった。
「この自習の時間を使ってもっといろんなこと覚えていったら
だいぶ楽になるんじゃねえか?」
「ちょっ、ちょっと待ってくれませんか、先輩」
エクスマは妙な方向へ進みそうな予感がして、
ユーシャの思考を止めさせた。
「まさか。勉強をやろう、とか。バカなことを考えちゃいませんよね?
そんな何の役にも立たないことのためにせっかくつかみ取った自習時間を
使ったりなんか、しませんよね?」
元はといえば勉強をしなくて済むように立てた作戦だったはずが、
ここに来て本末転倒な展開になったりしたら少し、いやかなり切なくなってしまう。
そのエクスマの気持ちをユーシャは踏みにじったりはしなかった。
「バカ野郎。ちょっとそう思っただけだ。ンなこと俺に出来るわけがねえからな。
ただ、ちょっとだけ勉強頑張れば、まぁ、ほら。なんて言うか、アレだよ、アレ」
ユーシャはエクスマの求めていた返事を返した。
しかし、この勝負の結果から何か良からぬものを先輩に作ってしまったらしい。
そう。例えるなら命懸けの決闘をした二人が唯一無二の親友になったりとか、
汗水流した後に食べたご飯のおいしさから充実した生き方を学んだとか。
それを『良いこと』だと社会全体が露骨すぎるほど必死に持ち上げたゴミのような思想。
ナンバーワンよりオンリーワンを謳っているはずの社会が
その思想を全人類に定着させて一律化した集団にしている。
その一員にユーシャは今まさになりつつあった。
「先輩……まさか……」
嫌だ。なってほしくない。そんな他の男と同じ考えしか
持っていない人になってほしくない。
そう願いつつ、恐る恐るユーシャに聞いてみた。
「俺より勉強できない奴を見下してバカにするって最っ高に楽しいよな」
「センパーーーーーーーイッ!
ゲスイいっ! それはゲス過ぎますよ、先輩!
そんな理由で勉強頑張られても学校側も困りますって。
台無しですよ。ホンット色々台無しですよ。
百人に聞いて百人が先輩を嫌いって言いますよ! 最低ですから。
でも、そんなところが! そんなところが!
私は大好きですっ!」
感極まったエクスマは何も考えずにしゃべりまくり、
衝撃的な一言を叫んだ。
これにはさすがのユーシャも一歩下がってしまい、落ち着かせ始めた。
「落ち着けって。な? いったん落ち着こうぜ」
「ユーシャ先輩っ」
「はっはいっ、エクスマ後輩! 何でございましょうか!」
なだめようと思ったら逆に向こうの気迫に吊られて声を張り上げるユーシャ。
「私、先輩が好きです!
初めて先輩を見た日からずっと好きでした!」
日が落ちる頃。二人きりの補習部屋。
ユーシャは一学年下の美少女エクスマから愛の告白をされた。




