入試って何だ?
昼休み、ユーシャの元に訪れたエクスマの近くにはシャルロットもいた。
「へぇ、懐かしい。私もこれ書いたことあるわ。
これあなたが書いたの?」
シャルロットは横からユーシャの手元を覗き込み、
彼が広げていた紙切れの中身を見た。
「分かるのか、クソアマ。あっ、そういえばお前、
ホモ・サピエンスじゃなかったな。だからこんな人外の文字が読めるのか」
「氷河期以降の文明に対応できる脳みそなら誰でも読めるわよ。
というか、意味云々の前にただの活用形の表じゃない。
あんた、この程度の古典も知らないの? 転入だからって入試は受けたでしょ」
「は? 何それ?」
入試どころかこの学園に来るまで勉強のべの字もしてこなかったユーシャとしては
その表が何を意味しているのかさっぱり分からない。
「なぁ、こいつはどういう――」
「意味なんてありません。人外にのみ通じる文字のような何かです。
先輩は人間なので、理解できなくて当然です」
「ちょっと。それじゃまるで私が人間じゃないみたいじゃない」
「事実その通りだろ。手のひらから太陽より熱い剣を出せる奴を人間とは言わねえ。
ホモ・サピエンスの体にそんな機能は無い」
「ちょっ!? そ、そりゃそうだけど。
……人間……よね、私」
さすがにショックを受けたのかその場で三角座りをし、
しばらくの間シャルロットは一人でぶつぶつ呟いていた。
「だが、授業中に書けっつったって授業ノート取らないとダメだろ。
ただでさえ授業のスピードが異常なのに内職なんてできねえぞ」
「ユーシャ先輩。どうせ今の授業聞いたところで先輩分かりませんよね?」
「むっ
(その通りではあるが、人に言われるとムカつく)」
僅かに目を三角にとがらせたが、特に何も言わずユーシャは聞き続けた。
「ただノートに字を書くだけなら授業にいるなんて
出席日数を増やす以外何の意味もないです。
内職と言わずこっちを本職してしまっても何の問題もないでしょう。
あくまで勉強なんですから。ノートは……そうですね、
他の人から借りてください。そんでもってコピーして貼り付けといてください」
「ほう、なるほど。じゃあ、先生に注意されたらどうする」
「その時はその時ですね。怒られてください。
適当にごめんなさいって言っておいて、席に戻ったら再開してください。
先生側だってカリキュラムがあるのでそんなに何度も
注意できるほどの時間も余裕もないでしょうし」
「なるほど。で? 俺がそれをして何か得があるのか」
「ありますよ。今日の補習が無しになります。
なりますけど、その辺りの駆け引きとか交渉とか面倒なことは私がするんで
先輩は私に合わせてくれれば大丈夫です。
とにかく今は無心で書きまくって、呟いてください」
「……」
面倒な作業と思うが、乗るだけの話ではあった。
紙切れの方がころころ変わる黒板より遥かに書き写しが楽であるし。
手と口を動かすだけで頭を使う必要もない。
それがどうなるかは知らないがあの補習から解放されるらしい。
(話がうますぎないか?)
と、疑ったものの特に断る理由が見つからず
「分かった。まぁ、適当にやっとくわ」
と了承したのだ。




