渡してきた物って何だ?
幾度も立ちふさがる難関。
迫りくるタイムリミット。
同志から託された思い。
激しい激闘を乗り越えたユーシャは今、その恩恵を得る!
「君はなぜそんなに壮大な感じに脚色しているの?
ただ古典の活用形を数問解いただけじゃないか。
あと、『激しい激闘』って何? 『頭痛が痛い』の?」
さも鬼の首を取ったかのようなユーシャがふんぞり返る正面で、
ラヴが呆れた顔でそう言った。
「とは言え。勝負は勝負。約束通り、今日は自習にしてあげよう.
ただし、『今日だけ』と『この倉庫から出ない』ことが条件。
それで良いよね?」
「もちろんですよ、先生」
ピョンピョンと飛び跳ねるユーシャをよそに
二人は粛々と勝負の後始末をつける。
「じゃあ自習になっちゃったし、僕は事務員の仕事に戻るよ。
実は結構溜まっていてね。正直なところ、こうなってくれてかなり嬉しかったりする」
「そうだったんですか。良かったですね!」
苦笑するラヴにエクスマはにこやかに対応する。
そして、部屋を出ようと扉の取っ手に指をかけたところで
ラヴは振り返った。
「一応念を押しておくけど、そこの時計が午前六時を指すまで
絶対にこの倉庫から出たらダメだからね?
出ないでよ? 絶対に出ないでよ? フリじゃないからね?」
「分かってますよ。明日の六時まで絶対に出ませんよ。
約束してもいいですよ、私」
「うん。じゃ、今度こそ行ってくる。
ちゃんと勉強していてよ?」
「はいはーい。お疲れ様でしたーっ」
ざざざざざっ、ガタン。
桟に砂が入り込んだ出入り口のドアが閉まると、
人数が減ったせいで少し物悲しくなった部屋の中、
若い男女二人きりというシチュエーションになった。
「さてと、では遊びましょっか先輩! 先輩?」
「Yaahaaaa! フゥーイッ! YEAH!」
部屋の中央にピラミッド状にイスを積み上げ、
その頂上で躍り狂うユーシャがいた。
(5才ぐらいの子がこんなことやってたのを見たことあるなぁ)
そんな事を考えていると、5才児もといユーシャが
椅子の山から飛び降りてきた。
「スッゲーな、おい。お前の言う通りにしたら、
勝っちまったぜ!」
興奮冷めやらぬ様子で話すユーシャは
純粋な称賛の目でエクスマを見つめていた。
「別に私は何もやっていませんよ。
こうなったのは先輩が頑張っただけです」
時は少し逆上り、エクスマが訪ねてきた昼休みのことである。
「ユーシャ先輩。午後の授業では
これをノートに書きまくってください」
エクスマが渡してきた物は小さく折り畳まれた紙切れだった。
「こいつは?」
「ただの落書きです。何も考えず適当に口に出して、
適当に書きまくってください」
そう言われ、ユーシャはその落書きとやらを見ると
(ああ。こりゃ確かに落書きだな)
ユーシャがそう思ったのは文字のきれいさではなく、
内容がさっぱり分からないからであった。




