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勇者は神様に頼んでギャルゲーの世界に転生しました  作者: 火村静
攻略ヒロイン二つ目 バカ後輩編(84057文字[空白・改行含む]
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勝負って何だ?

エクスマの巧み(?)な交渉術の末、ラヴを教壇から同じ高さの椅子に下ろし、

賭けという交渉のテーブルへ着かせることに成功した。

ユーシャ、エクスマ、そしてラヴの三人は補習室の真ん中から

三つの椅子だけを残し、他を壁の端まで動かした。

「それで賭けとは一体何を賭ければいいのかな?

正直、すぐに片が付くものじゃないと困るんだけど。時間的に」

「分かってますよ」

ラヴの問いにそう答えたエクスマは古典の教科書を見せた。

「勝負の方法はいたってシンプル。さっきも言いましたけど

ユーシャ先輩はちゃんと古典の勉強をしていました。

それを証明することも兼ねて先生にはいくつか動詞を言ってもらいます。

それをユーシャ先輩が古典文法的に正しい活用形を答えていく

という流れで進めていきます。

制限時間は三分。それまでに最低十五個、先輩が応えられたら私たちの勝ちです」

「三分で十五個か。さて神野くん、

君たちが勝つには平均的に一個にどれくらいの時間しかかけられないでしょうか!」

「話しかけんな。活用形忘れちまうだろうが!」

「先生、邪魔しないでください。あと先輩、教科書(それ)は没収です」

「あっ」

いそいそとカバンから出したユーシャの古典の教科書は

エクスマに横から奪われてしまった。

「今見たら、今まで頑張って勉強してきたことが伝わらないじゃないですか。

あくまでこれは勝負なんですから、正々堂々としましょうよ」

「くっそ」

ユーシャは歯ぎしりをたてて悔しがった。

それからユーシャとラヴがお互い正面に相手が来るように

椅子の向きを変え、間にエクスマの手が入った。

「では、二人とも良いっすね? 始めますよ?」

「いつでも良いよ」

「さっさと来いよ!」

「よーい……スタートっ!」

元気よく手が上がるとラヴが第一問を出す。

「射る」

「い、い…………射る、射る……射れ…………射ろ射よ!」

「正解。煎る」

「い、『煎』!? いー……煎ら煎り……煎る煎る煎れ煎ろ煎よっ!」

「正解。()り」

「おらおりおりおるおれおれよっ!」

「外れ! ()

「コキク・クルクレケヨッ!」

「正解――」

時々止まりながらも答え続け、ユーシャは正解の言葉をもらっていく。

しかし、たまに間違えては問題に関わらずそこで止まってしまったり。

ともかく、三分の制限時間に終わりが近づいた。

「ラスト! 蹴る」

「け、け、ける、ける、けれ―ー」

「終了でーす」

「けろけよ!」

「正解。だけど時間切れだからノーカウント」

「チックショーッ!」

『全く分からない』より『あともう少しで答えられた』という事実は

ユーシャの中で思いのほか大きなショックを与えた。

「もう一回! もう一回だけやらせてくれよ!」

見苦しくユーシャは再挑戦の機会を要求したが、ラヴは首を振って却下した。

「じゃあ、どれくらい正解したか。

エクスマに言ってもらおうか」

必死に答え続けるユーシャと違って余裕な態度を見せるラヴは

当然、何問正解したかを知っていた。、

が、ここはあえて審判役に言わせることで結果を

ユーシャに知らしめようと思ったのだった。

「ユーシャ先輩が正解できたのは……十……」

神妙な表情をしたエクスマが言葉を選ぶように正解数を答える。

それが焦れったくもあり、聞きたくなくもあり、

ユーシャはむずむずと居心地の悪さを感じる。

「六、です」

「十六、ということはつまり」

「うん。君達の勝ちだよ」

正解数十五以上でユーシャ達の勝ち。

そして

『ふぅ。終わった終わった。オラ、てめえは負けたんだから

さっさと土下座して消えろや。つーか死ね。むしろ死ね!』

と、非道極まる発言をすると思っていた。

だが、その予想は大きく外れてユーシャはイスに座ったまま

うずくまってしまった。

「んぅぅぅ…………」

「あれ? どうしたの?」

様子がおかしいユーシャを心配してラヴは見下ろしていた。

その下顎に    

「むぐっ!?」

ユーシャの右拳が入った! クリーンヒット!

無防備な状態から強烈なアッパーが決まり、

首と脳に大きなダメージを受けてしまったラヴは

その場に倒れてしまった。

しかし、それについて最も不幸なのは

その一撃が全くの偶然だった事である。

「よっしゃああああっ!」

達成感と優越感とその他もろもろの感情を全身で表現し、

ユーシャは拳を高く掲げて小躍りをする。

全然ダメだと言ってもよかった勉強で

スキップの力も使わず、ラヴとの勝負に勝った。

それがとてつもなく嬉しくて、嬉しくて!

ただただユーシャは歓喜に打ち震えるのであった。

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