宿敵って何だ?
「せんぱ~い」
やつれた足取りで教室に入るエクスマは、
枯れ枝のような危なっかしさをまとわせて、
ユーシャの正面の席に座った。
(いきなり上級生の席に無断で座るとは
度胸あるなぁ、こいつ)
二日間、一緒に補習で夜を過ごしてきたが、
思えば正面からお互いを見合う機会は
補習前の自己紹介くらいさった。
こうして向かい合って見ると、
これもなかなか可愛い顔をしている。
しかし、残念ながらそれらを台無しにするくらい
彼女も臭かった。
悪臭の元が二倍になった事でとうとう
シャルロットの不愉快さが表情に表れた。
「あ、あなたは誰なのかしら。
下級生よね? 何の用があってここに来たのかしら。
もしこいつに用があるなら連れていって良いわよ」
それは暗に『用が無いなら帰れ。臭いもの同士で仲良くやってろ』
という意味なのだが、初対面である手前、
ある程度の礼儀をわきまえた発言だった。
尤も、その気持ちが全て隠す気がないのかと言わんばかりに
顔に現れているのだが。
「あ。シャルロット先輩、で……いいんですよね?
確か神野先輩と結婚されたとかで噂の」
「ええ。不本意ながらね」
「へ~、あなたが。ふーん、そうですか」
エクスマはまるで博物館に展示された物を見るように
前後左右、ぐるりと一周回ったり、
high&lawアングル、椅子に足を掛けたり屈んだりと
世話しなく動いていた。
「あの。何か用?」
「いえ、別に」
手で払われたエクスマは何か含んだ言い方で濁す。
次に両手で自分の胸を押さえ、そして、
にぎゅっ
と、シャルロットの胸(乳)を触った。
「にょわっ!?」
「ふむふむ」
「Oh! Yes! Good job! Very very nice HARENTI!」
一人は目の前を真っ白くさせ、
一人は感心するように頷き、
一人は大興奮の声をあげた。
「どうやら先輩は私の宿敵みたいですね?」
「それはこっちの台詞よ!」
今度は強く突き放し、腰に下げた剣に手を伸ばす。
「うぉい! 今はそれマジ止めろ!」
ユーシャはシャルロットの技(?)【太陽の雫】の発動を、
体を張って止めた。
そういう名目でシャルロットに抱きつく魂胆が一割。
残りの九割は保身である。
【太陽の雫】は炎の鎧を体に纏わせ、
二千万度の剣を携えるシャルロットの技(と言うべきなのか?)だ。
そんなもので暴れでもされたらすぐ近くにいる人間は軒並み、
バターのように溶けてなくなってしまうだろう。
もちろん、ユーシャの能力【スキップ】があれば、造作もないことではある。
実際、倒したこともあるが、何度も言うが今の彼はただのDQN。
接近する太陽を前にするただの人間。逆立ちしても耐えられる道理がない。
ユーシャは何としてでも暴れることを阻止しなければならなかった。
ん? 『そんなに焦っているのに、どうして抱きついたのか?』
煩悩を完全に断ち切るのは無理だということだ。
「落ち着け。クソアマ。後輩相手にマジ切れするのがてめえの騎士道かよ」
「くっ」
そう言われて苦虫を噛むシャルロットは黙って気を収め、
「ぐふっ」
ついでにしがみ付くユーシャを裏拳で叩き落した。
「ごほっ……で、エクスマ。お前一体何しに来たんだよ」
「あ、そうでした! あの、先輩。『先輩』? 『神野先輩』?
これじゃ二人のどっちを呼んでるのかややこしくなるので
『ユーシャ先輩』って呼んでいいですか?」
「どうでもいいわ! あ~、確かにややこしいな。良いぞ、で何だ?」
無駄に時間を取らされている気がして若干ユーシャもキレ気味になった。
シャルロットと合わせて二人の先輩から正面切って怒気を向けられていても
やはりエクスマはあっけらかんとしていて言葉を発する。
「さすがに私もうあの補習を受けるのは限界なんですよ」
「そりゃ、俺も同感だ」
「ですよね。で、物は相談なんですけど。
今夜の補習のとき、ちょっと協力してくれませんか?」
「協力?」
「ちょっと良い作戦があるんですよ」
(勉強に協力ってあんのか? 勉強会イベントか?
え? 補習を抜けるのになんか意味あんの?)
首をかしげるユーシャの前にエクスマは
愉快そうに無邪気な笑顔を浮かべた。




