補習って何だ?
物理的な説明ができない不思議な力でつれてこられたところは
一般校舎と10ha以上のグラウンドを挟んだ小さなボロ家だった。
床に何の舗装もなくコンクリートがむき出しであるどころか、砂が撒いてあり、
二人とも土足のまま、そこへ入った。
「元は、体育倉庫だったんだけど、校内でかつ校舎から離れている小さな建物といったら、
ここしかなくてね。まぁ、ちょうど新しいのを建てようと思っていたし、
取り壊す前に使っておこうと、思ったわけだよ」
「なるほど。それでか」
中を見渡すと石灰の白い粉が隅に集められていたり、
欠けてしまって建てることもできなさそうな赤いコーンが重なっていたり、
勉強には不要な運動用具の、それも使い物にならなくなったゴミが放置されていた。
「ところで。トイレに行きてえんだが、どこにあるんだ?
(とりあえず、ここから逃げねえとな)」
ありがちな嘘でこの場を切り抜けようと目論んだユーシャだが
「大丈夫。取り壊すから気にしなくていいよ」
という答えが笑顔で返ってきた。
「(あれ? 会話、成り立ってなくね?)
いや、トイレはどこかって聞いてんだけど。え? 何?
まさかここでしろなんて言わねえよな?」
「ん? そうだけど?」
「ハハハ、だよな。いくらなんでもそんなうぇええええええ!!!???」
実は半分くらい遊びの気持ちでラヴに対応するほど余裕ではあったが、
それでも残りの半分は純粋な驚きの気持ちだった。
「ほら、そこにバケツがあるだろ? あれで用を足せばいい。
トイレ中も勉強できるし、悪臭で眠れなくなる。まさに一石二鳥だね」
「ざけんなっ! そんな手垢のついた漫画のネタみたいな心遣いいらねえよ!」
ユーシャは横暴な待遇に断固拒否の姿勢を見せたが、
残念ながら現在の彼はただの人。
恐れる必要はないとラヴは片手間に作った見えない障壁ですべての攻撃を防いだ。
「君のために作った補習室なのに。
気に入ってくれると思ったんだけどなぁ」
「良く分からねえがここを補習室と呼べないことだけは分かるわ。
つか、何が作った、だ。明らかに低予算じゃねえか、嘘つくな!
気に入るか、こんなとこ!」
「フフフ。果たしてそうかな?」
顔をわずかに下に向け意味深な笑顔を浮かべたラヴはユーシャに背を向けた。
「な、なんだよ」
「実は補習を受けるのは君だけじゃないんだ」
「それがどうした。一学年に千人もいればそりゃ何人かはいるだろう」
「いや、初等部、中等部、高等部の六、三、三、合わせて十二学年、
約一万二千人から一人だけだ」
「………………。
それがどうした。一万二千人もいればそりゃ一人位はいるだろう」
べ、別に悲しくなってなんかないんだからな。
強がるユーシャに振り返るラヴは顔を寄せて小さく囁いた。
「想像してごらん。自分のすぐ後ろで美少女が醜態をさらす恥ずかしさに
頬を赤くして震える姿を」
日が落ちて空が赤く染まった時間。
息の詰まるような狭い空間の中、裸電球の下で二人の生徒が
目の前の先生の授業を聞いていた。
ユーシャと一緒に補習を受ける美少女が(※容姿は不本意ながら嫁のシャルロットを採用)
もじもじと太ももをすり合わせる。
「あ、あの先生。ト、いや、あのト……に行きたいのですが?」
「んん? 何だ? もっと大きな声で。はっきりと言え」
「っ!トッ、トイレ! に行ってもいいでしょうか?」
「分かった。早く済ませろよ」
先生の許しを得た美少女は席を立ち、教室の後ろに置かれたバケツに向かう。
部屋の後ろから服が滑らかな肌とこすれる音が聞こえる。
首を少し回せば下半身を露出した姿を見られる危うさと恥辱に
口から艶めかしい吐息が漏れる。
涙がこぼしそうな目を伏せ、悲痛な顔を作る美少女は、
ゆっくりとバケツのすぐ上まで腰を下ろし、そして―ー
「って上級者すぎるぞ、コレ!」
そこから先の想像を打ち切り、思うままに叫んだ。




