最強の設定って何だ?
『ゲゲッ! 休みが無いよ バカ者だらけの補習授業
~君たちの地獄はまだ始まったばかりだ~』
なんて言うふざけた企画名もさることながら、
『休みが無い』と『地獄はまだ始まったばかり』というキーワードに
そこはかとない嫌な予感がしていた。
「24時間体制で先生たちが頭の足りない生徒に
スパルタな授業をしてくれるとっても良心的なイベントさ」
「24時間!? 帰るどころか寝れねえじゃねえか!
あっ。そうか。あれだな? 睡眠学習ってやつか」
「いや、眠気が起きないように一日三回の点滴で薬剤投与をするから。
安心して勉強すると良い」
「殺す気かっ!」
かなり真面目に言い返したつもりだったが、ラヴはため息をついてこう言う。
「おいおい。一体誰のためにこれを企画してあげたと思っているんだい。
本来なら成績不良で君はもう退学だよ、退学。
それを止めるためにどれだけ僕が頭を下げたと思っているんだい?」
「うっ。う~ん。……そもそも勉強なんてしなくていいじゃん。
俺もうチート能力持ってるわけだし、勉強しなくてもいきていけるぜ?」
「そんなの関係ないよ。ここが学校である以上、
生徒の能力を高めることがここに勤める人の義務なんだから」
「ぐぐぐ」
ユーシャは歯を鳴らして悔しがったが、あることに気付いた。
(待てよ? こういうものこそ俺の能力の出番じゃねえか。
こいつで『三時間後、頭がよくなった。』とかそういう流れにして
その時間を飛ばせば何にも大変なことなんてねえじゃん)
「あっ、そうそう。これについては君の能力は使えないから」
「何ぃっ!?」
思考を先読みしたラヴの言葉に目を剥いた。
「ちょっと待て! お前、最初にこれを渡したとき、言ってたじゃねえか。
こいつを超える力はないって」
「嘘だと思うなら使ってみなよ。今から補修が始まるんだし」
言った途端、ラヴはいつかのように法衣を纏い翼を広げていた。
神々しい聖者のような姿だが、瞳だけは虚ろに据わっていて
本能的な危険を感じた。
(これはヤバい)
ユーシャは能力を展開し始める。いや、普通に始めると言い表すべきだった。
なぜなら彼の能力【スキップ】は能力であって能力ではない。
それを使うという事はいわば、人が歩く、と同じくらい当たり前のことだからである。
だから、足を出すようにユーシャは能力を使った。
【スキップ】
【このイベントはスキップできません】
「マジかよっ!?」
ユーシャが《スキップ》使った時に突然頭の中に現れたメッセージ。
それの通りに時間を跳躍することはできず、
さっきと同じ場所に座っているだけだった。
「ね? これで分かっただろ? スキップは使えないって。
ついでにこれをしたのは君の学園生活を小説とした場合、最終巻に出てくるラスボスさ。
世界を思い通りに変えられる君ですら手も足も出ない最強の存在だ。
どうでもいいことだから気にする必要はないんだけどね」
「おい! 今何つった! スゲー重要なこと聞いたぞ!
誰だ教えろ! 行ってぶっ殺してやる!」
「ダメダメ、今から君が行くのは教室だよ。
192時間後には前に受けた中間テストを最低でも
60点以上取れるようにならないとダメなんだから」
ラヴは念動力を使ってユーシャを浮かべ、水平にスライドさせながら歩いていく。
「ふざけんな! どこのギャルゲーに補習を受けさせられる主人公がいるってんだよ!
離しやがれ、このクソ野郎!」
「良かったじゃないか。これで君は新しい主人公のジャンルを作った先駆者になれたんだ。
格好いいね!」
常々ユーシャはこう考えていた。聖剣を使うタイプの主人公の倒し方はそれを奪うことだ。
金持ちに生まれた子供と同じだ。彼らが好き放題に生きているのは彼ら自身がすごいのではない。
パパがすごいだけなのだ。所詮、主人公もその程度でしかない。
聖剣がない主人公なんてただの人だ。
そしてそれは、今の自分にも当てはまるわけで。
ユーシャはただまな板の上の鯉のようにラヴに動かされている。
「さぁて、楽しい楽しいお勉強の時間だ。いいね。学生といえば勉強だ。青春してるね!」
操るラヴはそれはもう、大層嬉しそうだった。
大天使は負の感情を持たない。別に今まで受けた仕打ちの仕返しだとか、
むやみに増やされた仕事の報復だとか、そういう気持ちでやっているわけではない。
やってないよ? やってないからね?
ゼンイからユーシャを思い、教室へエスコートするラヴは
それはもつぃへん満ち足りたようだった。




