中間試験後のイベントって何だ?
神野ユーシャ。頭脳暗愚・容姿やや良・身体能力普通よりは良し。
性格凶暴・礼節守らない・遵法皆無。
そのくせ、誰も逆らえないような能力を持ってしまって誰にも手を付けることができない。
そんな良い部分を見つけることが不可能な少年
(転生前は住所不定、無職、犯罪多しの三十代)は
憧れの女子校に来てもやはり自分勝手なふるまいをしていた。
そして当然の報いのようにある騒動を引き起こし、
それについて悩んだり、嫌々責任を取ることになった。
彼は反省して、もう軽い気持ちで行動しないと思った。
「さて。じゃあ二人目の攻略、いってみようか」
そんなことはなかったらしい。
ユーシャの視界の端に立っていたラヴは額に手を当てる。
「うん、もう突っ込まない。
君がどうしようもないクソ野郎だということなんて突っ込まないからね」
それを口にした瞬間、出ていった言葉と入れ替わりに先のとがった丸太が
口の中へ『突っ込まれ』、顎骨を砕き、首の付け根の肉をぶちまけながら
貫通し、背中の壁まで突き刺さった。
「下らねえこと言ってる暇があるなら、さっさと女落とせるような
イベントを起こしやがれ、クソ野郎」
「相変わらず、ひどい仕打ちだね」
ラヴは丸太を体と壁の間で切断し、次いで自分の顔を両手で持ちあげると、
ブロックで作った人形のようにポロッと頭部が外れた。
丸太が刺さったままのそれを懐にしまい、
別の頭を取り出して挿げ替えると元と同じ状態になった。
「でも、そのことなら大丈夫。もうイベントは用意してある」
「おう。何だ。仕事が早いじゃねえか」
「ああ。中間テストが終わったからね。
学校生活には欠かせないイベントさ。君のためにすぐ取り掛かったんだよ」
自信満々な笑顔を浮かべて自分の努力を称賛するように頷くラヴ。
「で、そのイベントってのは何だ?」
「まぁ、待ってよ。説明するにも順番があるだろ?
まずはこれを見てくれ」
さて、お立会い。ここに取り出したるは五枚の紙切れ。
そこに書かれた赤い文字にはこう書いてあった。
「9、5、7、8、9……が消されて10。
なんか床運動の審査員を思い出した」
「確かにあれは十点満点基準だからね。
でも残念、これは百点満点での点数なんだよ」
全てを足しても50点も超えない悲惨な点数は
一週間前受けた中間試験でのユーシャの成績だった。
「あー、まぁそんなもんだろ。さっぱり分かんなかったし。
全部選択問題だったらもっといけたんだがなぁ」
「成績の良しあしっていうのは、そういう問題じゃないんだけどなぁ。
というか、まだ気づいてない?」
「あん? 何をだよ」
「だから、君が受けるイベント」
「は? いや。全然分からねえ。何だ?」
(そう言えばそもそもゲームの中に試験自体、イベントとして
あまり出なかったな。この時期だと…………あれ?
あいつら、何やってたんだろ)
正確には主人公が自分と同じ設定のゲームでの
『今、何をやっていたか』という疑問の答えが分からなかった。
部活ものでは試験期間を十数分だけかけて、試験からの解放感で
すっきりした主人公一行が部活動を再開する。
バトルものでも、おおよそ同じだ。まるで敵が気を使っているかのように、
試験期間だけ騒ぎを起こさず終わった途端、再開する。
世界観、ジャンルが異なっていても試験なんてあってないようなものであり、
主人公が試験の前にしていたことを再開する。これが定番である。
では、自分は何だろう?
部活;帰宅部。敵:皆無、いても瞬殺。
取り組んでいること:ハーレムの建設
(試験が終わったからハーレムの建設を再開する?
いや、建設するためのイベントが今から起きるのであって
イベントを起こすために建設したら意味が全くの逆じゃねえか)
ユーシャは脳をフル稼働させてみるが、
ほんのひとかけらも見当がつかない。
「難しく考えなくていいんだよ。試験で悪い点数を取ったら
必ず起きることなんだから。これしか無いでしょう」
おもむろに持ち出したホワイトボードに水性ペンで何かを書き込み、
ひっくり返して見せた。
『ゲゲッ! 休みが無いよ バカ者だらけの補習授業
~君たちの地獄はまだ始まったばかりだ~』
「補修……授業…………だと?」




