理想的な結婚なんてなかった。(BADEND)【※まだ続きますがGOODENDはありません】
「自分の事しか考えないって悪いか?」
ユーシャはそう聞いた。
「百歩譲って、そういう奴が悪いとして
良い人間ってのは人のために何かする奴ってことなんだよな?
じゃあ、そこのお前!」
ユーシャは見ていた人間から気まぐれで一人選んで指さした。
「そうだ。お前だ。俺をバカにするってことはお前は悪い人間じゃないんだよな?
じゃあ、今も何か人のためにやってるのか。遊んでないんだよな。
必要な分だけ飯食って、余った財産は全部募金してるのか?
違うよな。オレ、頭悪いからよく分からねえけど、
お前が今着てる服も部屋にある物も全部誰かのために持ち続けてるってわけじゃねえよな」
ユーシャの指摘に指をさされていない貴族たちはそっと装飾を後ろに隠したり、
知らない人のふりをしたりして、ごまかしていた。
「別にそれが悪いとは言わねえ。欲しいものを手に入れる。
それは普通だろ? 俺たちは他人のために生まれてきたわけじゃないだろ。
だから俺は、自分を優先する奴らがどうして悪いのか全然分からねえだよ」
指差した腕を下ろし、ユーシャは静かにシャルロットに向きなおった。
「と言ってもお前らが納得するかどうかは知らねえ。
要は俺は自分のやり方を曲げねえってことだけ言いたかった。
だから、俺は俺のためにこいつと結婚する。
王子様みたいな相手とロマンチックな結婚をしたかったお前には
ちっとも嬉しくないだろうがな」
「…………ええ、もちろん断るわよ」
数分を使って何やら言っていたが要約するとユーシャの言い分は、
『お前の事なんか知らないが、俺の幸せのために結婚しろ』
の一行におさめられる。
それのどこに承諾できる要素があるというのだろうか。
むしろ、そんなことを聞いたらユーシャを恨むシャルロットは
死んでも結婚しないという決意をさせる。
よって、シャルロットは頑として申し出を断った。
その静かな拒絶にユーシャは肩をすくめて笑った。
「だろうな。けどよ、じゃあお前は俺の求婚を
無視して他の男に嫁ぐことがお前のしたいことか?」
「……少なくとも、あんたと同じ場所にいるよりはマシと思うわ」
「答えになってねえっ! 俺はしたいのか、そうじゃねえのかってことを聞いてんだよ!」
眉間にしわを集めるユーシャがずいっと詰め寄った。
「マシってのは本当だろうが、だからといってそれが最善とは思ってねえんだろ。
そりゃそうだよな! だってそいつは他の誰かから勝手に押しつけられただけだもんな。
お前はどっかの王子様が助けてに来るのをを待つだけの可哀想なお姫様だもんな!」
ユーシャは声を大にして責める。
そして、今度のセリフは紛れもなくユーシャに理があった。
前提はともかく、正当性はたしかにあった。だから、シャルロットは言い返せなかった。
言い返せる要素に思い当たるところがなかったのだ。
「もし俺の言ったことが違うなら、何で自主退学みたいな方法にした?
お前にとって俺から放れるためなら捨てても良いくらい
あの場所はどうでもよかったのかよ!」
「そ、そんな事、そんな事あんたには関係ないじゃない!」
「ある! お前が俺と結婚するなら学校に残れるようにしてやるんだからよ!」
「なんですって?」
またあの場所へ帰れる。それを思うとシャルロットの心がわずかに揺れたが
(騙されるな。そんなものただの嘘だ。この男にそれをするだけの理由は無いはずだ)
と、屈しかけた心を引き締めた。
そして、それを理解してユーシャは言う。
「お前が思う通りだ。俺ってマジで強すぎるから、わざわざそんな条件出さなくても
お前を好きなようにできる。だがな。
それでも俺はお前の返事が聞きたい」
ユーシャにとってその返事は利害とは関係がない。わざわざ捻じ曲げる必要もない。
だが、だからこそ、その返事にはシャルロット自身の言葉になる。
「悪いが俺には主人公みたいなカッコいいことは言えねえよ。
愛しているなんて言わなくていい。現実に愛がないなんてことはよく分かった。
それはお前もそうだろう。なら、決める方法はたった一つ、打算だ。
恋愛感情を抜きに考えてお前が行きたいルートを言ってくれ。
これが最後だ。
お前が愛してない俺と。お前を愛してない俺と、結婚してくれないか?」
……もうどうしようもなかった。
自分勝手で乱暴で社会性に欠けるユーシャが初めて見せる弱気なセリフは、
やっぱり今までと何ら変わりがなく、どうしても彼を愛せなかった。
だから、仕返しの意味も込めてシャルロットは純粋に自分の事だけを考えた。
たくさんの友達と分かち合った喜び。
暴力で自分を貶めようとしたユーシャの非道。
様々な文化と種族が集まるクラスで学び続けるこれから。
常に自分に都合のよいことしか考えない人間と過ごすこれから。
たとえいつか敵になろうとも固い友情を結んだクラスメートたち。
何があっても分かり合えないと確信しているユーシャ。
受ける利点と欠点。それらを一つずつ天秤にのせていく。
右へ左へ揺れる天秤の腕。そして徐々にその振幅が小さくなり、やがて止まった。
「私は―ー」
そうして新たな夫婦を願うはずの鐘が一つの不幸を告げるように悲しく鳴った。




