愛なんてなかった
魔王を倒した男、神野ユーシャ。
現時点までで彼がシャルロットにしたことを大雑把にまとめると、
①半裸を見た。②退学させられるきっかけを作ったこと。③シャルロットの家を没落させたこと。
である。
一つ目は当人同士と仲介役を買ったラヴだけが知ることだが、二つ目はその噂が広がっており、
最後の三つ目はもはや周知の事実となっていた。
それでもなお、ユーシャは毅然とした態度でしていないと言った。
「俺はお前に何っっっっにも悪いことしてねえぞ!」
「あんた私をバカにしてるのっ!」
シャルロットはまた、ユーシャのはたき、はたき、何度もはたく。
ずっと心の中でせき止めていた物が壊れてしまうと押さえていた感情がとめどなく溢れ出た。
「あんたのっ、せいでっ、私がっ、こんな目にっ、あったのよ!」
ぼろぼろと大粒の涙をこぼしながらシャルロットの手は何度も頬を往復し、
真っ白な手袋にじわじわとユーシャの血がついて赤くなっていく。
「何が俺のせいだ!」
殴られるユーシャもされるがままではなく、空いている右手で拳を作りシャルロットの顔を殴った。
「あんたのせいじゃないっていうなら誰のせいよ!」
「てめえに決まってんだろうがっ!」
指輪の交換のために触れた手で相手の腕をつかみ合い、拳一つで正面の顔を殴りあう。
炎などの派手な演出をする特殊能力を使っていない分、現実味のある攻撃のせいでグロテスクな生々しさがある。
互いの距離が近すぎて、技術ではなく純粋な力で戦っていることもまたそれを際立たせていた。
並の男を昏倒させる力で殴るシャルロット。
少女であろうと一切躊躇せず殴るユーシャ。
血を流し、痣をつくり、歯を飛ばし、骨をへこませる。
教会内で、牧師の前で、互いの真っ白な礼服が血で赤く染まっていく光景はまさに狂気じみていた。
「あんたがあの試合で勝ったから私は転校することになったのよ!」
殴り合いは連続した打ち合いから重い一撃へ変わった。
「かはっ。知るか、ンなこと! 俺が強すぎて勝ったこととてめえが弱いから負けたことを一緒にまとめてんじゃねえ!」
「くっ。だ、だとしてもあそこまでやる必要はなかった!」
「はっ! 笑わせんな! 負けるのが嫌だから手加減してくれって、どこの騎士様が言ってんだよ!」
ユーシャの殴りが入り、次はシャルロットに番が回ったけれど、
最後のセリフに返す言葉が見つからず、折れた心に引きずられて膝をついた。
「はぁ……はぁ……」
殴り合いは身体的にはわずかにシャルロットに利があったものの、
精神的に無傷の状態から始めたことが大きくかかわり、ユーシャに軍配が上がった。
「じゃあ……一体何の責任っていうのよ……」




