間違いなんてなかった
胸の中で渦巻いていたもやもやが消え去ってからのユーシャは最高潮だった。
何もないところで転んでは股に顔をうずめ、
階段から足を滑らせれば女子の服を脱がし、
立ちくらみを起こしたら胸の谷間にダイブを決め込み、
両手で乳房を揉みまくる。
(俺、今サイッコーに主人公やってるわー)
ユーシャはこれでもかというほど自分が考える『主人公』の再現をしていた。
(今まで何故かヤろうとすると萎えちまってできなかったんだよなぁ~)
今になって気づいたが、どうやらユーシャは誰かに監視されていたようだった、
誰かというのも分かり切ったことなのだが。
その誰かの視線がプレッシャーとなってユーシャを萎えさせてきた。
だが、今はもうそれがない。
テンションが上がっているのはユーシャをだけではなかった。
クラスは今、四日後に控えるシャルロットの転校に合わせて
盛大な送別会を開こうと騒いでいた。
シャルロット本人とこの学院の生徒の人当たりの良さが相まって、
一昨日の決戦と同じように学院全体で行うことになった。
それほどの騒ぎになる反動としてユーシャへの好感度が下がったかというと、そうでもなかった。
「二年の神野くんってシャルロットさんに在学してもらうよう先生に頼んだんですって」
「キャー、何それ。少女漫画みたい、カッコいい!」
と、どんな経緯があったのか事実に尾ひれがそれはもう大量についていた。
そんな感じでユーシャの好感度はむしろ右肩上がりの傾向である。
(あいつの言う通りだな。大天使様様だ)
ラヴの助言の通り、シャルロット一人を見捨てるだけで
全てがユーシャにとっていい方向に進んでいた。
授業を除いて幸せな時間を過ごした学校の放課後、
ユーシャは一人で幸せを感じながら帰っていた。
「何で俺、連れ戻そうとしてたんだろうな。
あんな女、全然かわいくねえし、うざいし、いなくなってせいせいしたぜ。
タヒれ、タヒれ。俺のハーレムに入らない女なんぞ
全員消え去っちまえばいい」
空に向かって中指を立てたり、親指を下に向けたり。
さんざん溜められてきらあのゴミのような女への鬱憤を晴らす。
一言言う度、心に広がっていく解放感が心地いい。
「良し! 日記を書こう!
今度は失敗しいないよう、記録に残しとかねえと」
と、どうせ三日も続かないような計画を口にし、
自室のドアを開けた。
自室という言葉を訂正しよう。
そこはただの穴だった。
そこにあったはずのベッドも棚もカーテンも全てなくなっていた。
あるのは角に積まれた段ボール箱の山と、
ビニール紐で縛られた雑誌だけだ。
狭いくせに物が多いと思っていたが、梱包された今の部屋を見ると、
やっぱり広かったのかと考えを改めた。
「静かだな」
物理的にだけじゃない。白と茶の単色でピシッと床と壁を塗り分けた部屋は
視覚的にも静かな印象を投げつけてくる。
しかし、それは一時的なものだとユーシャは気づいた。
(また新しい女を呼べばいい)
電話ひとつで家具を買うように、思考ひとつで美少女を家に飾る。
「これが俺の幸せなのか?」
自分にとって悪いものを全てなかったことにし、
自分にとって良い事だけ手元に残しておく。
「俺は――」
ユーシャは自分の幸せしか考えない。
他人の事なんて道端に落ちた石ころ程度でしかない。
だから、やはりこの場でもユーシャは自分中心に考えた。
考えてこの言い表せない感情に決着をつける決断をした。




