キスなんてなかった
(え? 太陽の雫・改って何!?
百八の封印って何!? 無えよ、そんなもん!
恥っずかし。素面で言えない事を何で言ってんの俺!)
突如、身に起きた事態に心がついて行けないユーシャは
目をキョロキョロさせて混乱していた。
百億万度(笑)の熱を持っている体は恥ずかしさで
さらに赤くなっていく。
「はっ、そうか! 今のがスキップなのか!」
うっすらとしか記憶に残ってはいないが、
なんとなくスキップを使った感覚がした。
いや、正しく言うならばスキップを使った実感だけした。
なぜなら、使おうと思えば何度でもできるがその方法と感覚が
あまりにも自然すぎて説明できないのだ。
(確かにこりゃ、口でどうこうできるもんじゃねえな。
今なら何で使えなかったのか自分に聞きたいぐらいだ)
【《スキップ発動》 →ユーシャは良いものを見た。
勝利を実感したユーシャは思いっきり拳を天に掲げる。
しかし、その力があまりにも強すぎて、闘技場にいた女子生徒たちの服が
拳の風圧で弾け飛んでしまった。】
「「「きゃぁぁぁーー!」」」
「はわわわわ、すまない。うっかり手加減するのを忘れてたよ。
(ヒャッハァー! 最っ高だぜーーッ! ε=ε=(۶⊙∀⊙)۶)」
オモイガケナイアクシデントに
ユーシャは観客の体をじっと見つめ(ナガラアヤマッ)た。
(悪いことをしたら、面と向かって言うのが当然だ。
決してやましい気持ちからじゃない)
ユーシャは自分の中で大義名分を立て、
思う存分女子たちの全裸を鑑賞、もとい女子たちに謝罪すると
シャルロットに向き直った。
「さて、ギャルゲーの展開だとこれで俺の強さにベタ惚れする流れなんだが」
ユーシャは軽く蹴ってみたがシャルロットは何の反応もしない。
期待が外れて少しがっかりしたが頭を切り替えて妙案を思いついた。
(気絶してるなら仕方がない。保健室まで運ばなきゃな。
生で全身触ることになるが、人命救助が第一。
おっと? まずは人工呼吸と心臓マッサージからだっけ?)
倒れたシャルロットを仰向けに寝かせ、
外傷を確認する大義の下、全身を舐めるようにチェックすると
唇をシャルロットの顔に近づけた。
「スゥーー…………はぁーー、スゥーーー…………はぁーー」
近づけば近づくほど女の甘い香りが鼻をくすぐる。
一向に目覚める気配のないシャルロットに唇を重ねようとした。が、
「おっと。後のことはこっちでやるからね~」
いつの間にか現れていたラヴに横からかっさらわれてしまった。
「てめぇコラ。俺の獲物に手ェ出すんじゃねえよ!」
「生放送されてるんだよ? ちょっとは自重してくれよ。
それより、君の相手はあっち」
「あっち?」
ユーシャはラヴの指差した方角を見ると、マイクを持った集団が
土煙を上げてこっちに向かっていた。
「ううぉっ!? 何だありゃ!」
「何って、ヒーローインタビューに決まってるじゃないか」
「インタビューって。アレ全員を相手にしなきゃなんねえのかよ」
「まっ、ドンマイ」
ぽんと肩を叩くラブにキレて殴りかかろうとしたが、
その前に殺到した報道陣が押し寄せ、手の届かない場所へ逃がしてしまった。
「本当に、ドンマイ」
ラヴは小声でもう一度言うと、シャルロットを抱えて消えた。
翌日。
昨日のお祭り騒ぎがきれいさっぱり無くなり、いつもの学校が始まる。
「眠ぃ」
朝礼が始まる前、机の上で突っ伏すユーシャは目の下にひどいくまを作っていた。
(あれからジャーナリストだの大統領だの、テロリストの親玉だの来やがって……。
人の睡眠時間奪ってんじゃねえ! いっそ来たのが全員美女じゃなかったら、
軽く皆殺しにして寝られたのによ!)
しかし、実際はほとんどがその美女だったせいで
ユーシャは帰る時間を返上して学校に泊まり込み、
そのまま教室に居座っていたのであった。{※美女以外については察してほしい}
ここで唯一救われたと思えることは、それを察してクラスの女子たちが
話しかけないようにしてくれていることである。
(こいつら皆、本当に良い奴らだよな。すげー昨日のこと話したそうにしてるのに
我慢してくれてるよ)
女子たちは話し声はもちろん、小さな物音すら立てないように移動も最小限にしてくれている。
『騒がないと落ち着かない』系の女子はわざわざグランドにまで出かけて行った。
(こんなに優しくされたのは初めてかもしれない)
その優しさにほろりと泣きそうになり、
(いつか必ず、お前らの体舐めまわしてやるからな。約束だ)
と、本心からの礼を胸に刻んだ。
「おはようございます」
静かにドアを開け、『騒がないと落ち着かない』系の女子を連れて
ソフィが教室に入ってきた。
一緒に入ってきた女子も含めて全員が席に座ることを確認すると、
ソフィは教卓に立った。
(あれ? シャルロットが来てねえな)
今まで空席だった隣のシャルロットの椅子を見て、
てっきり気を利かせて外に行ったと思っていたがどうやら違ったらしい。
「では、みなさん。ホームルームを始めます。
朝からこんなことを言うのは私も心苦しいんですけど、
大事なお話があります」
ユーシャに気を使い、全員に聞こえる声を出すことすら
ためらっていたソフィは辛そうに言う。
「シャルロットさんが来週、転校することになりました」
「は?」
寝ぼけた目も覚めるほど、ユーシャはソフィの言葉に耳を疑った。




