山場なんてなかった
幸いなのか、ユーシャの抗議は観客席からの感心の声で誰にも聞かれなかった。
「つーことは何か。テメエ、そんなもんを向けて来たのか!
アホか! 即死じゃねえか!」
矛先をシャルロットに向けて怒鳴るが、シャルロットはむしろ嗤うように言う。
「あんたと違って私は刺激の強いものを見せるつもりは無いから、
血の一滴も残さず蒸発させようと思っただけよ」
「倫理的にアウトだろ!」
再び、振り下ろされる“紅焔陽竜”。
しかし今度はユーシャに向けてではなく、その横の地面に叩きつけた。
「何を? はっ!?」
“紅焔陽竜”の振り下ろされた後の地面は
二千万度の熱に溶かされ、溶岩と化している。
今のと合わせて二回。そして、それによってユーシャの逃げ道は
二本の溶岩の道によって完全に断たれた。
「力づくじゃねえか。駆け引きぐらいさせろよ!」
「これで終わりよ。細胞の一片まで焼き消えろ!」
今度こそ本当にユーシャを狙って振り下ろされる一撃。
(ここで死ぬのか? ふざけんじゃねえよ)
この圧倒的な優劣の差を見せつけられても、誰も試合終了の合図を待っていない。
それはユーシャの強さに期待しているからなのかもしれないが、
本人にとってはそんなこと知ったことじゃない。
(何度も言ってるだろ。俺は女とイチャイチャするためにここに来たんだ。
こんなとこでバトるつもりも、死ぬつもりもねえんだよ!)
ユーシャは自分のために上手く回ってくれない世界に激怒した。
拳を固く握りしめ、心に浮かんだ言葉をそのまま叫ぶ。
「俺はまだっ! 生きてっ! (ラッキースケベ)がたくさんあるんだっ!」
叫ぶユーシャを前に“紅焔陽竜”が
ついにユーシャの髪の先を燃やすところまで近づく。
【《スキップ》発動 →ユーシャは勝利した。
絶体絶命の瞬間、ユーシャはそれまで
敢えて使わなかった“太陽の雫・改”を発動する。
これでユーシャの体温は百億万度になり、
シャルロットの攻撃を完全に無効果した。
さらに、百八のうち二つの封印を解き、力は今までの五百倍に。
「しょうがねえ。ちょっとだけ本気を見せてやるよ」とドヤ顔で言い、
かっこよさげな名前の技でシャルロットを殴る。
絶妙な火加減で服だけを燃やし尽くし、全裸になったシャルロットは
意識を失った。
「最強の俺が相手じゃなかったらいい勝負ができてたと思うぜ!(キリッ)」
と、最後にポーズを決めて、この試合の終止符を打った。】
怒涛の展開に全世界が言葉を失くす。
遅れながらも、その沈黙を一番最初に破って口を開いたのは放送席だった。
『しょっ、勝者は、神野ユーシャ!』
沸き上がる歓声。強すぎるシャルロットを圧倒する力の覚醒は
さながらコミックヒーローのようで、誰もが興奮している。
その中で一番興奮しているのはこの男である。
(何があったぁー!)
力に覚醒し、華々しい勝利をおさめた当人のユーシャであった。




