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勇者は神様に頼んでギャルゲーの世界に転生しました  作者: 火村静
攻略ヒロイン一つ目 ツンデレ編(63928文字[空白・改行含む])
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武器なんてなかった

じめじめしている上に暗い小路の先は

太陽の光が差し込む、大きく開かれた場所に通じていた。

一面、更地が広がっており、立っているものはなく

高い内壁の上には観客が段ごとに詰められている。

『では対戦者の紹介をいたします。

まずはこちら、彗星のごとく現れ魔王を討ち滅ぼした男。

それ以前の経歴は全く無し。しかし、恐ろしく強いことだけは間違いない!

その強さに全世界が注目しています。

『魔王を討ちし男』! 神野ッ、ユーーーシャァーーーー!』

「「「うおおおおっっっ」」」

実況の紹介に観客から割れんばかりの歓声が応える。

「おお。やっぱり結構、人いるな。そういえば一学年千人だったっけ?

もしかして全員いるのか?」

観客席にひしめく中には部活や企業の横断幕が貼ってある部分もあり、

かなり彩りが良かった。

『続きまして、未知数(アンノウン)の相手を務めるはスーパースター!

階級を問わず、剣術大会ではいくつもの功績を残してきた現代の騎士。

その剣は阻む壁を斬り開き、煌く光が正道を照らす!

『紅蓮の聖騎士』シャルロット! ディ! アァーズロォーーンッ!』

「「「「「きゃああああっーー!!!!」」」」」

ユーシャの時より一層大きい歓声に迎えられて

赤い鎧を装備したシャルロットが入場する。

『いやぁ、すごい歓声ですねぇ』

『彼女は貴族の生まれでありながら、

どの人間に対しても嫌味なく接する寛容さも持ち合わせている。

彼女を騎士ではなく一人の人間として応援している人は多いはずだ。

現に客席で『シャルロット様がんばって』と書かれた横断幕を張っている連中は、

この学園に彼女がいるからという理由で来た者がほとんどだという』

「そこまでくると逆に気持ち悪いな」

本物の百合(レズ)を見たことが無いから断言できないが、

おそらくこれがそうではないかとユーシャは思った。

『盛り上がってきたところで、この後の進行とルール説明をさせてもらおう。

まず、互いに闘技場中央に立って武器を合わせる。

その後、我々のカウントに合わせて一歩ずつ後退し、十を数えた瞬間から試合開始とする。

相手を戦闘不能もしくは戦意喪失したものを勝者とする。それ以外の方はない。以上だ!』

『それでは両者、所定の位置についちゃってください』

放送席からの指示を受け、二人は視線をそらさずまっすぐ歩く。

互いにあと一歩踏み込めば相手に届く位置で止まった。

シャルロットが抜刀し剣先をユーシャののど元に向けて構える。

そしてその刃にユーシャは腕を合わせた。

「あなた。もしかして素手で私に勝つつもりなのかしら」

「よく見ろよ。ちゃんと籠手を着けてるだろ? 

もしかして、舐められたと思って感じ悪くしたか?」

「いいえ、感心しているのよ。死に装束に無駄なものはいらないことをよく分かっていることにね」

「だから、殺しに来るなって!」

『では、始めます。い~ち』

二人の掛け合いもお構いなしにカウントが始まる。

ユーシャは無理しない程度の大股で後退し、交わる剣と腕が離れていく。

始まる前でもシャルロットはこちらに物凄いプレッシャーをかけていて、

目をつぶることすらためらわされるが、それでもユーシャには勝つ自信があった。

(思った通り、あいつの武器は剣だ。

剣士っていう馬鹿は間合いが大事だから始まった瞬間、絶対突っ込んでくる。

俺はそれをゆ~っくり待って剣だけ見てりゃいい。

振るのが遅けりゃ柄を持つ。速けりゃ振り下ろした後の剣先を踏んで抑えたら、

鼻に頭突き入れて押し倒す。そこで鎧剥いで生で乳揉めば戦意喪失して俺の勝ちだ)

今までの『剣士』『騎士』との戦いは全てこれで片づけられた。

簡単なようで実は難しい作業ではあったが、生計を立てる上で必要な技術だった。

十数年の経験のおかげで今では鼻歌を歌いながらでもできる自信がある。

「刺激の強い映像配信して視聴率に貢献してやるよ」

じゅるり、と舌なめずりして待ち構えているにユーシャの耳に

とうとう『じゅうーっ!』と試合開始の合図が届く。

「さぁ! かかって来やがれ!」

両腕を広げ挑発するユーシャ。

しかし、それに動じずシャルロットは静かに目を細め神経を研ぎ澄ませていく。

剣を顔の前に立て、謳うように言葉を紡ぐ。

「【赤。其は魂魄を満たせし命の色。

そして全てを消し去る滅びの色。

相反せし力の色よ。我が剣に宿りて其の意を示せ!

太陽の雫(ヘリオス)!”】」

シャルロットが叫んだ瞬間、剣から熱波が放出されユーシャは腕で顔を覆った。

観客もすさまじい熱波に当てられて一瞬だけ歓声が止まる。

「う。な、何だ、今の…………ふぁっ?」

熱波と巻き上げられた砂煙に閉じてしまった瞼を開けると、信じられない物を見てしまった。

それは炎。炎が人間の体に纏っていた。

火だるまになった人間のように酸欠と火傷で苦しめるのではなく、

外敵から守る鎧としてシャルロットの動きに付き従っている。

見方を変えれば、舞踏会でも通用するドレスのように見えなくもない。

そして、それは(防御)の話。炎の恩恵は(攻撃)にも影響していた。

「マジかよ……」

剣士のシャルロットの手に剣はない。

あるのは剣の形をした炎だ。

蛇の舌みたいにちろちろと小さな赤い火が漏れているが、

刀身はその形をはっきり識別させるほどひときわ激しい光を放ち、黄金色に輝いていた。

「さあ、火葬の時間よ。楽しく踊りましょう」

「色んな意味で笑えねえ」

闘技場の温度と観客のボルテージが急上昇していく中で、

ユーシャの背筋だけが凍えるように寒くなった。

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